第166話 サイコにも主義主張がある

 その後俺は突如隆起した地面がベットのようになり、その上に寝かされた。当然これもマッカランの個性であるのだが、それに脇役は相当驚いたようだ。

 まあいきなり足の生えたベットが地面から生まれればそうなるわな。

 

 マッカランに先導され、俺は俺の倉庫の中でも武器の収納されている物に向けてベットに歩ませていた。迷宮の最下層はそれなりに広く、各区画ごとに俺は置くものを変えている。

 素材、武器、貴金属、金、外に出せないようなアーティファクトなど様々だ。

 そしてそれは今回脇役を連れてきたことにも大きく関係している。


「なあ、この畑みたいなのは一体何なんだ?」


 そう言った脇役が見ていたのは、地面に作られた畝のような物だった。確かにそれは一見して畑のように見えるが、本当はもっと異常な物であり、できることなら触れたくなかったし、触れないで欲しかった。


「これ?これは“ユーリ畑”よ。ユーリを育ててるの」


「ユーリ……畑……?」


「そうよ。彼の爪や皮膚、髪の毛何かを埋めて、いつかユーリが生えてくるまでお世話をする場所なの」


「……うっ……」


 耐性の無い脇役には刺激が強すぎたようで、途端に顔を青くしてしまった。


「で、でも……マッカラン……さん?の個性ならさっきみたいに大塚のことを作ることもできるんじゃないんですか?」


「―――養殖じゃ意味がないのよ!私が個性を使って作ったユーリなんて所詮ただの偽物のユーリじゃない!そんなユーリは私のユーリじゃないのよ!生まれるべくして生まれたユーリなんか存在意義が空っぽじゃない!絶対に生まれないところから生まれてくるからこそ私のユーリになるのよ!」


 いやいや待ちなさいよ。俺がへとへとで突っ込めないからって飛ばし過ぎだぞ。

 ってかひどくねさすがに……


 脇役が完全に理解するのを諦めてニコニコし始めたし、もうだめだね。

 あぁ、さっき俺がなんでマッカランと付き合わないかって話が出たが、その理由はまだこんなもんじゃないからな。


「そこにテーブルを作ったからゆっくりしていってね。ユーリ。あなたは取るものがあるのでしょう?」


「あぁ、助かった。もう大丈夫だ……脇役、テメエはついて来なさい」


 クッソ重たい体を持ち上げ、俺は倉庫群の中を歩いていく。こんな人目のないところでゲイ野郎と二人っきりとか想像するだけで恐ろしいが、これからの勇者達の活躍にも関わることだからな。仕方がない。


「お前、あの時の神崎を見てどう思った?」


「俺は……すげえって思った……絶対に勝てない相手なのに、それでもあいつは俺達の為に立ち上がって、最後まで戦ってくれてた……あいつが居なかったらきっと皆あそこでやられてたと思う……」


「そうだよなぁ、やっぱあいつが今回の“主役”なんだろうな。まあ俺や会長みたいな例外もいるだろうけど、それでも神崎の力はお前達のどの個性よりも一ランク上のものだろうね」


 如何に英雄や勇者といえど、一度の戦闘であそこまで覚醒を起こすことはない。過去にいたどれだけ高位の英雄も、世界を魔王から救った勇者であろうとそれは出来なかったことだ。

 あいつの持つ勇者の個性……それがどれだけ規格外な物かようやく理解させられた。

 名称系かと思ったが、覚醒という現象を強制的に引き出すことや、あの技から技能系、あるいは現象系の可能性もあり得る。概念系以外の全ての力を併せ持つ個性とかどんなチートだよって。


「要するに、お前は置いて行かれてるんだよ。だから、少しテコ入れだ。お前と、ガリリン、須鴨さん、それと坂下には俺の道具を貸してやる。しっかりと使いこなせれば今の神崎にも負けないくらい強くなれるぞ」


「どうしてお前が……みんなに裏切られて殺されかけたお前がそこまでしてくれるんだよ」


 マリポーサ辺りから話を聞いたのかな?まあいいや。そんなことより、なんで俺がお前らに協力するか、だったか?


「んなもん決まってんでしょうが。レンタル料で金稼ぎと、お前らが面倒を解決してくれれば俺が楽できるからだ」


 誰かが起こした面倒が俺に降りかかるなんてのはよくあることだしな。それをこいつらが間接的にでも間引いてくれるなら、十分道具を貸し与える価値はある。


「まずテメエにはこいつらだ。受け取りな」


 何か言おうとした脇役に、俺は店売りの中の最高級収納袋を押し付け、さらに大型魔物用に作った、討伐ランク87のティラノスパラケヌスという恐竜のような化け物の背骨を芯に使った大剣サイズの刀を取り出し、さらに今使ってるそれなりの刀なんかじゃ太刀打ちできないレベルの最高級品である要塞龍の爪を使った長巻を手渡した。


「そっちのデカいのは“衝撃を打ち出す”機構が組み込まれてるから、タイミング合わせて引き金を引けばその衝撃が斬撃にプラスされるようになってる。でかいやつとか硬い奴に使えるぜ?んでそっちの長巻は、小さいけど硬い奴ように柄が長いもんを選ばせてもらった。小さくて硬い種は力も強いからな、刀や剣くらいの柄の長さだと刀身を跳ね上げられて自分の頭が割れることもある。それと、俺のおさがりだけど手袋と松脂もプレゼントだ。漫画やアニメじゃねえんだから長期戦で自分の汗とか油で手が滑るなんてのは初心者が良くやるミスだぜ」


 その後も坂下には俺のコレクション(正確には当時の女性陣の)であるドレスや戦闘時に来ていた服を幾つか見繕った。それぞれに別々の加護が掛けられているからあいつの個性に何かしらの変化をもたらしてくれるだろう。

 中でも、競馬場で絡んできた自称堕天使とか言うのから騙し取った英装って奴はかなりレアものだからな。


 ガリリンには様々な金属のインゴットを貸し出すことにした。これらの金属にも各々の特性があるから、アイツの個性でこれらの金属に変化することが出来れば相当に作戦の幅が広がる。

 

 須鴨さんには1枚100万以上の製作費のかかる何度でも使える陣が書かれた符のセットを渡した。起動しても陣が崩壊しないようにするためだけに死にかけながら素材を集めたのが何とも懐かしい逸品だ。

 

 最後にデーブだが、俺はあいつに特に装備を渡す気はなかった。何せあいつの個性は万能だからな。


「デーブには個性のことをもっと理解しろって言ってやれ。対物障壁は物理を防ぐんだから当然物理的な壁を作る個性だ。だけどあいつは障壁って名前にとらわれ過ぎてて、その使い方にかなり無駄が多い。物理攻撃を防げる硬さがあるんなら、ただの板じゃなくてもっといろんな形に変える訓練と、出した障壁を操作することも教えてやれ。それがしっかりできりゃ神崎の次位に強くなれるかもしれねえからさ」



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