無能勇者の異世界浪漫遊譚

第164話 異世界はブラックだらけ

　カリラにナイフを投げられ、その後の記憶がないまま気が付けば中腹辺りに到着してたんだけど、何故か全身が擦り傷だらけだし、誰もそれについて教えてくれないので仕方がなくそのまま降りていくことにした。

　何やら脇役が疲れた顔をしてるんだけどどうでもいっか。

「統制協会って定年ないとかブラックだよな」

「この世界の殆どの組織に定年なんぞあるか。じゃが最近統制協会では老化の著しい者は退職金をもらって僻地でスローライフをするのが流行っているそうじゃ」

「なんだか元最強の魔法使いとか弓兵とか剣聖とか拳王とかが紛れ込んでそうな話だな」

「中にはそういう者もおるのぅ。まあ、キャメロン・ブリッジを差し置いて魔法使いの最強を名乗れる者などいやせんがの」

　俺とババアの話に興味を持ったのか脇役ゲイ寝取り野郎が俺たちの会話に入ってきた。

「キャメロン・ブリッジ？」

「ぬ？貴様知らぬのか……あやつは最強の……いや儂が説明するよりも千器に説明させる方がいいかの」

「ババア、テメエナチュラルに俺を千器呼びするんじゃねえよ。王水かけんぞ」

　脇役にはばれてるからいいけど、他の前でもこいつはやらかしかねないからな。

「ピリピリするからあれは嫌じゃ。まあそうじゃの。今度からはユーリと呼ぶことにしよう我がライバルよ」

　ユーリと呼ぶことにしようって言ったそばから違う呼び方とかマジでコイツ大丈夫か？老化激しすぎんだろ。僻地でスローライフして来いよ。

「キャロンは最初にこっちに来たばかりの俺を保護してくれた優しいロリババアだよ。こいつみたいな薄っぺらいのじゃロリババアじゃなくて、気を配れて優しくて、だけど怒る時はしっかりと叱ってくれるような、本当のロリババアだ」

「ごめん。俺ロリババアにそんな詳しいわけじゃないから分からんわ」

「簡単に言えば、ロリババアはのじゃロリっしょ！って安易なキャラ付けがここのババア。キャロンは特にそんなことしなくても確固たる地位を築けるロリババアだ。俺の命の恩人だし、戦う術を俺にくれたのもキャロンだぜ？」

　まあ、キャロンにはキャロンの目的があって、俺はそれに利用されただけなんだけど。結果的に俺はあいつを助けてあいつは俺を助けてって感じの関係になった。

　陣だってあいつと二人で開発したもんだしな。

「でもそのキャロンさん？が最強の魔法使いってのはどういう事なんだ？」

「小僧、本人に会うかわからぬが、やつをその名で呼ぶことはお勧めできぬぞ。最悪輪廻転生の輪からはじき出され、永劫の苦痛を味わわされることになる。その名で呼んでいいのはこやつと、本当に一部の例外共だけじゃ」

　まあ、ババアはその一部の例外になれなかったんだけどね。

「キャロンは羅刹の魔女って呼ばれててな。“星の記憶”には龍脈の管理者って書かれてたな。なんでも龍脈の異常を正せる唯一の存在らしいぞ。俺もよくわからねえけど」

　懐かしいな。キャロンの為に必死こいて、本当に死にかけながら2年もかけて星の記憶にたどり着いたのが。

「龍脈ってのはよく聞く名前だけど、そんなにすごいのか？」

「何を言っておる。龍脈とは世界の魔素の循環を司るものじゃぞ？あの女はその龍脈を従えておるのじゃ……つまり、あやつの前では如何な魔法であろうと、魔術であろうと、魔導であろうと全て魔素に分解され、やつに届くことはないのじゃ」

「ち、チートだ……マジなチートじゃないかそれ……」

　だけど、それさえも例外が存在するんだけどね。魔力を元に異能を発現するタイプの攻撃も意味をなさないはずなのに、アイツの異能だけは例外だったし。

「無駄話してる間に到着したみたいだね」

　薄暗く、じめじめとした迷宮の中に似つかわしくないピンク色のネオンに照らされる怪しい扉。

　その先には当然マッカランがいるわけだが、本当に見るたびにオーヘンのセンスには度肝を抜かれるよ。マジで入り口だけ見ればオカマ専門店だわコレ。

「……迷宮の最下層って言うから来たんだけど……俺ハメられた？むしろハメられね？大丈夫なのかこれ？」

「うっせぇ。テメエに取っちゃご褒美だろうが。さっさと行くぞ」

　肩を落とす脇役を押しのけ、扉を潜れば、一面が闇に包まれた空間が広がっていた。どうやらマッカランはお休み中みたいだな。ちょっといたずらしようかな。

「……ふぅ」

「ひゃいっ！？」

　気配を頼りに闇の中を進み、はたから見れば何もない場所に息を吹きかければ、突然マッカランの可愛らしい声がその場に響いた。

　それと同時に周囲の闇がその場に凝縮され、輪郭を持ち、最後に色彩が生まれた。

「ゆ、ユーリ……いきなりはひどいと思うのだけれど……あら？今回はあの子だけじゃなく、小娘とそれと……勇者かしら？」

「おう。絶賛売り出し中の脇役だ」

「ふふっ。まあそんな雑魚のことはどうでもいいのだけれど、会いに来てくれて嬉しいわユーリ。私、あなたのことを考えながら眠っていたせいで毎日あなたの夢を見ていたのよ？」

「それはそれで怖いし、よくネタが尽きないな」

　俺とマッカランが話しをしている背後では、ババアが「ぐっ、やはり最古の魔王はとんでもない怪物じゃ……」とか「あ、あぁ……なんだよ……これ……」とか言いながら脇役が尻餅ついてるけど、まあ初めてマッカランに会えばそうなるよね。

　これでキルキスにでも遭遇したらショック死するんじゃね？

「お久しぶりですマッカラン様」

「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。私とあなたはもうお友達なのだから。だけど、これだけは言わせて頂戴。この人を良く守ってくれたわね。本当にありがとう」

「別にマッカラン様の為って訳じゃねえです。こいつが死にやがると次の仕事を探さねえといけなくなっちまいますんで」