第7章 日常再び
第163話 ファンとストーカーは違う
「ババア、本当なんだろうな」
「間違いないのじゃ。そもそもビターバレー支部は貴様の残した抜け道を守るために移されたのじゃ」
今俺はカリラに掛けられていた呪いと、“ブレアにかけられていた呪い”を宿したことで回復不可能になってしまった腕を元通りにするためにマキナの都からビターバレーの迷宮の最下層に向けて出発したところだ。
あの後、ようやく泣き止んだ俺にカリラが妙に優しかったのだが、それも翌朝になればいつもの辛辣な態度に戻ってて絶望したり、勇者一行が団長の命でビターバレーの迷宮攻略に乗り出したりと色んなことがあった。
そこで、どうにも最近伸び悩んでいるという話の脇役を拉致し、俺とカリラ、そして脇役、ババアの4名で迷宮の近くまで来たんだが、俺はひょっとするとこの世界にとんでもないモンスターを産み落としてしまったのかもしれない。
外で軽食を済ませ、消費した装備の買い出しを終えた俺達は迷宮の入り口前に集合したんだが、少し離れたところで、真っ赤な髪の毛の少女と、砂色の髪の少女、見覚えのあるおっさん、屈強な大男の4人のパーティーが迷宮前で円陣を組んでるんだけど、どうにもおかしい。
何がおかしいって言えば、全員が赤いチェックシャツにジーンズ着用なのだ。
「では今日も行きますわよ!」
その声に反応した三名。そしてそれを見守る周囲の連中。やれ赤い流星だ、やれ赤い4連星だ、そんな声が俺のところまで聞こえてきたので、近くの男に話を聞いてみれば……
「最近売り出し中の凄腕パーティーなんだよ」
との事。もう頭が痛くなってきたんだが、この頭痛がさらに激しくなることをこの時の俺は知る由もなかった。
「皆さま、手を前に」
赤い髪の少女……ローズがそう言えば、ジョニー爺さんと残りの二人が手を前に出し、それを確認したローズが声を上げた。
「そしてぇかーがやーく、ウルトラソゥッ!」
『はいっ!』
え、何その円陣。ちょっと楽しそう。なんて思うことはなく、これはもうチョコチに教育的指導をさせないとまずい。何がマズいかって言うと、主にファンに俺が殺されかねないのがマズい。
「ん?ありゃローズ様とジョニー様じゃねえですか」
「気が付かないフリしなさい。これ以上関わるとろくなことが起きない」
意気揚々と迷宮に入っていく集団はそのまま見えなくなってしまった。いやはや、マジでモンスターだわあれ。
「俺達も行くとしますかね」
「今のってV‘zだよなッ!?この世界でも流行ってんのかよ!」
うるせえな。お前みたいな普通の勇者が考えそうな事は粗方出されてるんだよ。そりゃV‘zぐらい流行るだろ。
ビターバレー支部はババアの顔パスで入ることができたんだけど、どうしてか俺達の背後で何やらもめている声が聞こえる。
当然無視したが。
「見妃たち追いかけてきちまったんだな……」
「まあ皆俺のファンだからね」
「いやお前じゃなくて……お前の奴隷のだろ……」
うん。そうなんだよね。原因はよくわからないんだけど、あの不良集団はうちのカリラたんの舎弟になってしまったようで……俺がウイルスバスターしてあげたのにどうしてカリラたんのファンになるのか分からない。
見妃さんはあれだね。うん。打ち解けたヤンキーっ子めちゃ可愛い。カリラたんの好きな食べ物とか聞いてくる辺りピュアピュア過ぎて可愛い。
「おい貴様らっ!何故私まで止められるんだ!私は彼の関係者だぞ!今すぐ手を離せ!」
クソやかましいストーカーはさっさと施設に送られてくれねえかな。あれはファンとかじゃない。全く別もんだ。
何せあの後話をしたら「君は本当に不思議だ。同じ人間でありながら何一つ理解できない。是非皮膚の裏側がどうなっているか見させてくれないか?できれば内臓もいくつか見せて欲しいんだが……あぁ、なに、しっかりと摘出した部分は回復させるから問題ない。ちょっと今麻酔を切らしているから後頭部を殴打させてもらうけど、君なら問題ないだろう?」とか抜かしてたからね。どうして俺の周りには頭のおかしいのしか寄り付かないんだろうね。おじさん本当に世界を恨むわ。
「着いたのじゃ。この扉の奥に直通通路があるのじゃ」
「おっけー。んじゃ行きますか」
支配人の合鍵で扉を勝手に開け、中に入れば、後ろからババアのため息が聞こえた。
確かにこの扉は相当厳重に封印されてたからね。だけどどんな封印でも鍵である以上は俺様の前では無駄なのさ!
「……直通の道があるってのは本当だったんですか……」
「うわ、チート臭っ!」
「だぁれがチートじゃ!こちとら俺つえーもチーレムも何にもねえ状態で放り込まれて必死こいて生き残ってきたんじゃ!テメエらみたいな才能の塊に俺の苦労が分かるか!」
通路は昔と同じで魔物が発生することもなく、ひたすらに続く長い道だった。そしてその入り口には……
「セグウェイッ!?世界感が台無しだッ!?」
「世界感とか今更だろ。それにマキナの技術があればセグウェイなんざ簡単に作れちまうんだよ。何より移動がだるい」
軽い下り坂になっている穴の中に、セグウェイが10台ほど止められており、それらも以前と変わることなく今でも動かせることが分かる。
ババアをはじめ、俺のことを知ってた連中が本当にここを維持してくれてたのはありがたいな。
俺とババア、そして宮本はすぐにセグウェイに乗ったんだけど、どうにも初めてのカリラたんが片足を置いて体重をかけたり、色々と苦戦しているようだった。
要するに何が言いたいかって言うと可愛い。ギャップ最高。
「テメエ次その不愉快な目ぇこっちに向けやがったらぶっ殺してやりますよ」
「……え、えっとカリラさん?既に大塚の頭にナイフが刺さって今にもぶっ殺し終わりそうなんだけど……ってか倒れたままセグウェイが動き出してとんでもない恰好のまま引きずられてっちゃったんだけど……」
「何と!?千器よ、貴様少し見ない間にセグウェイをそこまで扱えるようになっておったか!これは儂も負けてはおれぬな!」
「ちょっとストラスさん!?張り合わなくていいから!と言うか大塚がマジでピクリとも動かないんだけどほんとに大丈夫なんですか!?」
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