第162話 大っ嫌いな世界と蕁麻疹

「テメエはその腕、どうするつもりなんですか」


 統制協会に戻った俺の前には、腕を組んで仁王立ちしているカリラ様がいらっしゃいました。それも随分とお怒りの様子……


「回復魔法でも時間を戻しても回復しねえって……どうなってやがるんですかそれ」


 追撃とばかりに言葉を投げかけてくるカリラ。だけど、まあ君とブレアだけには教えたくないよね。


「そんなことより、マリポーサとリアリーゼと話してきたんだろ?どうだった?」


「……はぁ。まあ片方は比較的まともって感じがしやがりましたが、もう片方は……この場で殺してもいいンじゃねえかって感じです」


 リアリーゼか。まあ彼女からしたら相当にショックだったんだろうしね。


「一応殺さないで。あんな感じでも元は俺の領地にいたやつの子孫だし」


「“一応”ですね。まああの程度ならいつ歯向かってこようがブチ殺せますし構わねえです」


 そんな感じで話しをしながら部屋に戻り、カリラとこれからの予定を話し合っていれば、ドアの外に気配が現れるのを感じた。

 即座にカリラがナイフを用意し、警戒するが、俺がそれを手で制した。

 殺気というよりも怒気を多分に含んだその気配は間違いなくクイーンのものだろう。


「入っていいよ」


「―――ちっ」


 舌打ちをしながら入室してきたクイーンは、もう見ただけでわかる程不機嫌な表情で俺を見据えてきた。

 さすがにカリラもこの場にはいるし、下手な真似はしてこないだろうけど。


「それで?どうするかは決まった?」


「……いくらだ」


 静かにそう言い放ったクイーン。いや元クイーンか。


「2000億」


 俺は特段表情を変えることなくそう言い放ってやった。これにはそれだけの価値がある。だからびた一文負ける気はない。


「……テメエは必ず俺が殺す……それだけは覚悟してやがれ」


「聞きたいセリフじゃないなぁ。俺が聞きたいのは“はい”か“YES”だけだ。君の召喚に使われちゃった壊れたブレアの仲間達の為にも、素直に俺の言うことに従った方がいいんじゃないかな」


「……そこまで、そこまで知っててなんでテメエはっ!!!」


 当たり前だろ。ブレアの過去に何があったか、どうしてお前に興味を持っていたのか、どうしてお前はそれを受け入れていたのか、それを調べないほど俺は余裕じゃないんだよ。そんな余裕で生きられる程強くないんだよ。


「まあなんて言われようが関係ないんだけどね。早速内訳の説明だけど、摘出に20億、パーティーからブレアが抜ける俺の安全確保に1980億だ」


「……は?ど、どういうことだよそれ……」


「ブレアはあの巨人をもう使えないが、俺の予想ではあいつの液体みたいな金属で一部だけなら再現可能だ。それだけでも100億くらいの価値がある。あのレベルの可愛さの奴隷の見受け金としてもう100億、俺の心の治療に1780億だよ。そんだけの借金を俺からしてるやつが逃げ出さないとも限らない。だから“監視”を付けるってこと」


「なん……だよそれ……さいしょっから……テメエはぜんぶ………」


「大型魔獣の討伐程度ならお前ら二人の力ならどうにでもなる。国の発注してる依頼とか統制協会の下請けになれば雇われの今よりも給料は上がるだろうよ」


 その場に泣き崩れるクイーンの背後でも、ドアの隙間から話の経緯を聞いていたブレアが床に膝をついたのが分かった。

 俺は影に隠れるようにしてむせび泣く彼女に歩み寄り、声をかける。


「ブレア。まだお前の権利は俺のモノだ。お前の全ては俺のモノだ。いいな?」


「………りょう……しょう……します……ですが、本機は……あなたにひどいことを……」


「成立だ」


 ブレアは何か言おうとしてるけど、この個性の使用はかなり集中力を使うからそれどころじゃないのよ。

 自分の体なら楽なんだけどね。

 全身の神経を全て腕に集中させるような感覚を維持しながら、俺は彼女の頭に触れ、その個性を発現した。


「【ウイルスバスター】」



 …………。


「おー、よしよし。さすがにあれだけカッコつけりゃ自分に惚れてんだろって思っちまいますよね……まあ、最終的に明暗を分けたのは顔だと思えちまいますが、それでもこんなボロボロになるまで頑張って最後までカッコつけりゃ少しくらい心変わりしてくれると思っちまいますよね……」


「だっでぇ……おでがんばっだのに……おでもがんばっだのにぃ……」


 涙を流しながら幸せそうな顔で出て行った二人を見送った俺は、その場に崩れ落ち、大号泣をかましていた。

 それを件の面倒見の良さを発揮したカリラが少し困惑しながらも慰めてくれているという場面です。ほんと童貞の勘違いって恐ろしいね。


「今回テメエはよく頑張ったとおもいますよ?ただ、まあなんて言うか、ちょっと顔面レベルが足りねえってか、あのクイーンがナイスミドル過ぎたってのがいけなかっただけってんです……テメエはよく頑張りやがったと思いますよ?」


 無様に鼻水を垂れ流しながらカリラの腰に抱きつく俺の頭を、カリラが優しく犬でも撫でるように撫でながら、優しくない慰めの声をかけてくれる。

 今回は……今回こそはほんとうに俺の童貞を貰ってもらえると思ったのに……あんなに全身に蕁麻疹が出そうになるセリフだって言ったのに……


「どうじでだめなんだぁぁぁぁああ!!!!」


 やっぱ、俺この世界大っ嫌いだわ。



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