第155話 ガッチンコバトル
依然機械に繋がれたままのブレアがゆっくりと目を開けると、俺のことを視界に収め、声をかけてきた。
「警告、本機の制御権を奪われてしまいました。あなたの魔力と加護では本機と戦って勝利する確率は0.000012%です。早急にこの場を離れることをお勧めします」
「あらそうなの?じゃあ俺がこの場を離れたらお前はどうなるのかな?」
「不明。魔力と加護をこの機体と同化させられているため、このまま行けばマキナの都は崩壊し、本機もその爆破に巻き込まれる可能性もあります」
感情を表に出すことなくそう言ったブレア。淡々と、普段と変わり映えしない声色で語られたが、マキナの爆破に巻き込まれれば自身がどうなるのかなんかとっくにわかってるんだろうな。
これだけの都市で、マキナの都の中心には“ロマネの結晶石”がまだ存在しているらしいからな。その爆発ともなれば、巻き込まれて生き残れるのは40位以上の古代種くらいのもんだろう。
俺なんか塵も残さず消え失せちまうだろうし。
って言っても、そこまで“この程度の古代兵器”で行ければの話だけど。
「じゃあ帰れないかな。それに外で頑張ってるおじさんも言ってたんだけど、お前からこれ以上奪わせるわけにはいかないんだよ。ましてや、故郷ってんならなおさらね」
ブレアの意識の切り替わりを突いて彼女に繋がれる複数のコードを切断し、彼女を自由にすれば、開放され、地面に倒れるなんてことはなく、彼女はそのまま両の足でしっかりと立ち、俺のことを見据えてきた。
その光景を見て、ぐるぐる巻きにされ、カリラに引き摺られる男が俺に負け犬の遠吠えとばかりに声を張り上げてきた。
「ぎゃははっは!貴様の負けだ平民!その女には貴様を殺すまで何をおいてもお前を攻撃しろと命じた!たとえ手足が吹き飛ぼうがその女は地面を這ってでもお前を殺しに来るぞ!」
「あっそ」
嬉しそうな顔から一変し、その男は再び怒りに染まった顔で俺に罵声を浴びせてくる。それを見かねたカリラが喉を潰してくれたので、集中を邪魔してくる存在は消えてくれたわけだ。
だけど、相手が機械で、それもマキナ製のものだとすると、認識の切り替わりを突くのも恐らくもうできない。補助思考領域とかふざけた機械を搭載していやがって、いざ戦闘になれば英雄二人分の演算能力を発揮してくるそれは、副次的な効果として搭載された奴から意識の切り替わりを限りなくゼロにさせる効果がある……らしい。
だからこそ、正真正銘のガチンコで戦うしかないのだ。
「お前の事ぶっ飛ばして、お前の物を全部守ってやるよ」
打ち出されるように彼我の差を埋めたブレアが拳を腰だめから解放する。
その時に腕の形が変形し、拳部分がドリルのような形になり、特有の機械音を持って俺に迫ってくる。
「爆っ!」
即座に足元を爆破し、その爆風で体を後退させつつ、煙で姿をくらます。熱源センサー搭載のこいつ相手にどこまで通用するか分からないが、それでも“熱の無い物”まではさすがに見えないだろうと信じたい。
「不明。どうして今の攻撃を回避できたのですか」
「長年の経験だよ。おじさんこう見えて結構ベテランだからね」
爆煙を突き抜け、俺の元にブレアが突っ込んでくるが、これも大体予想通りだ。しっかりと対策は打ってある。
足元がタイルのようになっているハッチの中はそれなりに広い空間だが、巨大な獲物を振るうには向かない。だからこそ俺も大掛かりな装置を出したりは出来ないんだが、どうやら敵さんはそうでもないらしい。
液体金属のような物が彼女の体にまとわりつき、その姿をゆがめていく。数秒と経たず完成したのは、脚部を保護するグリーブと、ミサイルを放つための装置だった。
「掃射、避けてください」
打ち出されたミサイルが、俺の認識するよりも早く俺の正面に展開された結界にぶち当たり、その衝撃を完全に防ぐことは出来ず、俺はハッチの中の空間を滑るように転がった。
ここで転がってなかったら恐らくブレア本体の攻撃で詰んでたね。
「いやいや、視認しないとカットもできないんでね。回避なんか当然むりげーですわ……」
それにしても、あの液体みたいな金属を操るのがこいつの個性なのか?そもそも、こいつには個性が存在するのか?そこから確かめていかないといけないな。
こんなことになるんだったらしっかりと調べておけばよかったぜ。
「クソッたれが」
手にした銃から弾丸をばらまきながらブレアからさらに距離を取る。しかし、どの弾丸も彼女に当たる寸前で、液状の金属に飲み込まれ、なんの効果も示してはくれない。
確かにあれは反則だな……だけど、それだけでカリラが“化け物”なんて呼ぶとは思えないし、そもそも時間を遅くできるカリラが負けたのには明確な理由があるはずだ。
「のわっ……と、もうちょっと手加減してくんないかな?」
「不可。先ほども言いましたが、本機の制御権を奪われています。本機の意志では肉体を操作することはできません」
再びブレアの体に液体金属がまとわりつけば、今度は背中にブースターのような物が現れ、他の部分には金属鎧のような物まで現れ始めた。
おいおい、攻撃も防御もお手の物って感じかい?何その羨ましい力。俺にもくれや。
腕に集まった液体金属が70センチほどの剣のように変形し、背中のブースターの力も相まって今まで以上の速度を持って俺の元に接近してきた。
弾丸も例のごとくあの金属に飲み込まれ通用せず、基本的な能力さえも俺の方がはるかに低い。
さらに最悪なのは、気配が掴みにくく、思考の切れ目がないのでカウンターが打てない事かな。
だけどまあ、気配自体は読めるからどうにか回避は出来るけど、このままじゃやっべえことに変わりは無い。
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