第154話 勝負にも試合にも負け、運命に勝利する

 振るわれた獲物は相当な業物であり、振るう人間さえも高位の英雄だ。

 世の中にいる英雄共からしたら、クイーンってのは雲の上の存在であり、その強さは一騎当千どころの騒ぎじゃない。

 そんな男の攻撃、そして何かしらの個性を発動しているのか、振り下ろされた斬撃は巨大ゴーレムの額を大きく傷つけた。


『バカなバカなバカなッ!何故こんなことが……なぜこれだけの力を持つ者がっ!!!』


 いや、マキナの都に入ってたらこの巨人でも相当きついと思うよ?今はマザーが危険にさらされてるって判断じゃないから出てこないだけで、クイーン級の化け物も何人かいるだろうしさ。


「武創ッ!龍爪剣ッ!」


 さすがは統制協会ってところだね。武器を生み出す能力なんだろうけど、そのチョイスも最高だ。

 巨人と龍は大地と空を支配し、いがみ合い続けていた種族だし、龍は巨人に、そして巨人は龍に対してゲームで言うところの特攻効果みたいなものが存在する。

 そして、その二種族の争いは龍の勝利で終わっている。

 要するに、種族的に龍は巨人に優位なんだ。


 龍の爪を素材として組み上げられているであろう巨大な剣で、振り下ろされた拳と打ち合うクイーンと、龍狩りを手に持ったラフロイグが影の中から飛び出し、攻撃を始めた。

 勇者たちの戦闘が霞むほど激しい戦闘であり、戦況はコチラが完全に優位なんだけど……このままじゃダメなんだよね。俺がどうして“神剣”じゃなくて、バカみたいに時間のかかる陣を使ってあの腕を切り落としたかこいつらはわかっていない。


 空中に魔力で障壁を張り、それを蹴ることで自在に空中で移動をしているクイーン。昔俺が仲間にあぁやって支援をしていたこともあるが、まさか現代では主流な戦い方だったりするのだろうか。

 当時は戦闘に使う術式構築何かに思考領域を多く使うためにサポートはサポートで行っていたんだが、時代が進むにつれて、全てを自分で賄うようになったのかしら……結局それって慣れてない連中の中ではいいと思うけど、慣れた連中からすると効率悪いだけなんだけどね。

 ただ、それでもあのクイーンの術式構築の速度は群を抜いて速い。それこそ、隣で大規模な攻撃関係を全て無力化しながら戦っているラフロイグでさえ相手にならない程に。

 あのクイーンいい腕してるじゃないか。


「だけど……それだけじゃダメなんだよね」


 俺は即座に元々あって無い様な気配を消し、巨人に接近していく。

 それと同時に、ラフロイグのタイタンブロウが巨人の胸に突き刺さり、クイーンの戦槌が頭部を強かに打ち付けた。

 

 うん、今しかなさそうだね。

 という事で、俺はコソコソとゴキブリの如く巨人を登り、胸のハッチの部分に侵入していく。

 こんな時にも、アーティファクトのぶっ壊れた性能は役に立つんだよね。なんせ、ハッチは機械制御で開閉をロックしているわけだし、そんな物は支配人の合鍵の前では無意味になっちまう。

 鍵という概念に作用することで、開放することができるアーティファクト。恐らく数多く存在する鍵関係のアーティファクトの中で最高の性能だ。

 なんせ、龍脈の中に入るためにキャロンが持っていたものだしな。

 それに比べりゃ、こんなのはどうにでもできる。


 独特の機械音と、空気の抜ける様な音と共に開かれたハッチの中には、集団戦闘で戦ったヤンキー娘三人と、ハーレム野郎、マリリンとわっしょいの人、そしてブレアが機械に繋がれた状態でいた。


 その傍らに立つバカ貴族は俺の顔を見るなり、怒りに染まった表情を浮かべ、即座に飛び掛かってくる。

 なぜ俺がここに入れたのか、どうして俺がここにやって来たのか、そう言ったことを何も考えず動いてくれるのは本当に助かるというか、楽でいいな。


「来い、カリラ」


 ポケットから取り出した紫結晶を砕き、俺は個性を発現させる。

 統制協会に残されていた最後の紫結晶だ。それを砕くことで、俺の領域を展開し、カリラを呼ぶことが可能になった。

 もともとカリラは俺の指示で街の方に行ってもらっていたんだけど、“ボイスチャット”で俺に大体の仕事が終わったことを告げてくれた。

 ぶっちゃけマッカランを呼びたかったけど、本来の使い方ではない紫結晶の使用法なので、既に死んでしまって、紫結晶の覆う空間以外では存在できないマッカランを呼ぶことはかなりリスクがある。


「頼むわ」


 残念ながらここにいる連中はブレアを除いて誰一人として“気配”を発するレベルに到達していない。

 その程度の連中であれば、カリラでも十分対処可能だ。というか俺じゃ勝てない。


「仕方ねえですね。任されてやりますよ」


 そう言いつつも、貴族の男を叩き伏せ、次いで飛び掛かってきた連中を加速した時間の中でぼこぼこにしたカリラが優雅にその場に足を付け、服の埃を叩き落とした。


「しめえです」


 ラフロイグに殺されかけたことがまさかここまでの成長を与えてくれるとはね。あの時はぶっ殺してやろうと思ったけど、これは少し、本当にすこーしだけ感謝してやってもいいかな。


「ブレアは俺がどうにかするから、お前は皆を連れて逃げてくれや」


 本音だけで言えば、俺も物凄く逃げ出したい。クイーンを遥かに上回る強さを持つブレア。ひょっとするとキングにも迫るほど強いのではないだろうか。 

 そんな怪物と、俺のような一般人がこれから戦わなきゃならないんだから本当にこの世界は俺を殺しに来てるよ。


 その男が何をしたのか知らないけど、おそらくは奴隷紋よりも遥かに効力の高い洗脳か、あるいは遵守の力で縛り上げられている。

 そんな可哀そうなヒロインの前に、たまたま、偶然、何の因果か知らないけど立っちまった一般人の俺。

 どうしてこう毎度毎度俺の周りには不幸な奴が溢れてんのかね。


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