第150話 血ニ嫌ワレタ女

「シャイン……セイバァァァア!」


 バカの一つ覚えだと思ってくれても構わない。だけど、俺にはこれしかできないんだ。

 身体能力を強化したことで、加速したように感じる時間。その中でアイツが追い付けない速度で動き回り、攻撃の的を絞らせない。

 そして決定的な隙を見つけては攻撃を浴びせていく。これで、通算12回目のシャインセイバーを巨人に当てることができたが、如何に強化されたと言っても、あの巨人をそう易々と切り裂くことは出来ず、つけられる傷の深さがいくらか増した程度の違いしかない。

 だが、このまま攻め続ければいつかは、必ず削りきることができる。それまで根競べだ!


 そう意気込み、再び俺は走り出そうとしたが、そこで異変に気が付いた。

 先ほどまで俺のことを追いかけてきていたはずの鈍色の巨人が急に俺のことを追いかけることを辞め、マキナの都に視線を向け始めたのだ。


「マズいッ!」


 そう思った時には、既に体が動いていた。それと同時に鈍色の巨人の腹部にある巨大なハッチが開き、そこから大木に匹敵しそうな程の大きさの砲身が現れ、魔力が集約され始めた。


「うおおおおぉぉおぉおおッ!!!!」


 発射されたのは砲身と何ら変わらない太さの光の柱。それを全身の加護と魔力を総動員させて正面から押さえつける。 

 じりじりと足が滑る様に後退していき、光の柱に全身が焼かれるような激痛を与えられながらも、歯を食いしばり、何とかその光の柱と拮抗し続ける。

 

 もし、もし俺がこの攻撃を防ぎきれなければ、背後にあるマキナの都がどうなってしまうか分からない……だけど、今の俺がどうにかできるレベルを完全に逸脱しているのも事実だ………


 それなのに、それなのにどうして俺はこの光の柱と拮抗できているんだ……それどころか、体の奥深くからとめどなく力が溢れてくるような感覚さえある……まさか……これが“覚醒”なのか……?


 踏ん張る足にさらに力を込めようと思えば、自身が想像していた出力の数段上の力が発揮され、まるで地面に杭でも打ったかのように俺の体の後退はそこで止められた。

 

 行けるっ!これなら……この力なら!!!


 込める力が爆発的に上がっているにも関わらず、その力の使い方を、“直感”した。技の使い方を既に俺は“熟知”している……っ!!


「シャイン…………ブレイバァァァァァッ!!!」


 剣から吐き出される黄金色の輝きが、シャインセイバーの数倍のモノに変わり、打ち付ける光の柱を押し返していく。

 憧れ続けた人を守るための力……それを今俺は手に入れたんだッ!だから……絶対に負けるわけにはいかないッ!!!


「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」


 俺と鈍色の巨人の中間あたりで拮抗していたシャインブレイバーに、さらに魔力と加護をおくりこみ、一気にそれを押し流すように鈍色の巨人に叩きつけた。

 激しい轟音と、吹き荒れる衝撃波、それに伴う砂ぼこりで視界は遮られてしまうが、さすがに今の攻撃を食らって平気というはずもないだろう。


 そう思いながら砂ぼこりが収まるのを見ていれば、晴れ始めた砂ぼこりの中から、鈍色に輝き、まるで今の攻撃で一切のダメージを受けていないかのような佇まいの巨人が、そこに姿を現した。


「そ、そんな……」


 カラン……と、剣が俺の手から滑り落ち、甲高い音を立てた。

 なんで、なんであの攻撃を受けて無傷なんだ……


『はっはっはっはッ!最高だッ!!あぁ……本当に最っ高だ!!!まさかこれほどとは俺も思っていなかった!この力があればビターバレーはおろか、この世界だって俺のモノにできるッ!これで俺を見限りやがったあの糞女どもに目にもの見せてやれる!あの不敬な男にも、最大級の罰を与えてやれる!!!……あぁ!……そうだ、こうしよう……あいつの家族を一人一人目の前で握りつぶしていくんだ……そうすればあいつは俺に泣きながら許しを請うだろう……そして言ってやるんだ……お前は喧嘩を売る相手を間違えたとなッ!!!このフォア・ローゼスに喧嘩を売ったことを、死ぬほど……いいや死んでも後悔させてやるッ!!!』


 狂ったように叫ぶ声が、スピーカーを通したように少し擦れた音で聞こえた。

 なんだよそれ……そんなくだらない事の為にこいつは……そんなくだらない復讐の為にこれだけの人を危険にさらしたってのかよ……


「絶対に……止めて見せ……」


 剣を拾い上げ、立ち上がろうとすれば、途端に膝から力が抜け、立ち上がることが出来なくなってしまう。 

 こんな奴に、こんな目的の為に……そんなの絶対に許しちゃいけないのに……どうして俺の体には力が入らないんだよ……


『性能実験もこれでおしまいだ。潰れろ!平民がぁぁあ!!!』


 振り上げた拳が、俺に向かってくる。空気との摩擦で轟音を轟かせ、拳に込められた魔力だけで大気が歪んで見えてしまう程の強大な威力を持った拳。それが、俺に死を与えるために迫ってきた。


「―――巨人……か。本来は使いたくはなかったのだがな……私も、巨人には少し縁がある……私の巨人と、貴様の巨人、力比べと行こうか……タイタン・シールド」


 隣からまるで鈴のなるような声が聞こえ、それと同時に展開された土色の障壁。禍々しい魔力を纏いながらも、内側にいる者には安らぎさえ与えてくるような、絶対的な安心感。それを発動した聖十字騎士団団長であるエリザ・トラストは、普段のスーツではなく、今は煌びやかなプレートメイルを身に纏っている。

 

「巨人とは、龍を狩る種だ。如何な逆境にも屈せず、民の安寧の為に戦い抜く戦士の称号だ。それを……貴様は汚したのだ。命を持って償え下郎ッ!」


 拳が土色の結界にぶつかると同時に、強大な威力を持つ拳が弾かれ、巨人自体も大きくたたらを踏んだ。

 その瞬間、俺の脇を4つの陰が通り抜け、巨人に迫っていくのが見えた。

 足元にはいつの間にか魔法陣が浮かび上がり、背後に視線を向ければ、須鴨さんが俺に回復魔法をかけてくれていることが分かった。

 

「食らいやがれ!我流 重桜!!!」

「ドレスアップ、スミスッ!」

「足場を作るでござるよ」

「いいところは頂くでやんすッ!【大太刀!】」


 薄紅色のオーラを纏わせた斬撃の嵐を発生させる友綱と、巨大なハンマーで巨人の腹部を強打した坂下。デーブ君の作った足場から飛び上がったガリリン君がハッチに向け腕を大太刀に変形させ、切りつけた。

 微かに揺れる巨人の体躯を見た団長がニヤリと笑みを浮かべると、全身から加護を爆発させ、瞬きよりも短い時間で巨人の顔の前に飛び上がっていた。


「倒れろ……タイタン・ブロウッ!」


 手にしている盾ではなく、拳を巨人にぶつければ、巨人の体が今までにない衝撃に包まれ、その場に転倒した。

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