第151話 使命ト矜持

「抜刀一式【清流】」


 友綱が倒れ込んだ巨人に追撃の一撃を浴びせ、それに続くように皆が砂煙の中に飛び込んでいく。

 俺も須鴨さんに回復してもらってかなり回復できたので戦線に復帰し、先程会得したシャインブレイバーを鈍色の巨人にはなった。


「避けろッ!!!」


 しかし、砂煙の中からそんな声が聞こえた直後、俺の見ている景色は二転三転と回り、全身に再び焼ける様な痛みを受けた。

 爆風によって巻き上げられた体が地面に落ちるまでのわずかな時間で、俺が目にしたのは、小さなハッチからミサイルのような物を発射している鈍色の巨人の姿だった。


「―――くッ!」


 団長だけが地面に倒れることなく、その場で踏みとどまり、吹き飛ばされた俺達を回収し始めていた。

 女性なのに俺達全員を抱えてそれなりの速さで走れるのも、やはり英雄の恩恵なのだろうか。


 須鴨さんの近くに俺達が運ばれる頃には、転倒し、決定的な隙を見せた鈍色の巨人は既に起き上がり、腹部から砲身を覗かせていた。


「マズいッあれが来る!」


 今の状態じゃさすがにあれを防ぐことはできない…

 考えを巡らせ、現状を打破する方法を模索していると、額から血を流す団長が俺達の前に立ち、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「安心したまえ。君たちは私が必ず守るから」


 こちらを振り返りながらそう言った団長の背後で、光の柱が発射され、膨大な光量を持つ塊が俺達の顔を照らしながら近寄ってきた。


「タイタン・シールド」


 背後に浮かぶ土色の結界。それに光の柱がぶつかり、再び周囲を衝撃波が襲っていく。

 彼女の脇から見える光の柱が、圧倒的に先程のものよりも強大に見えてしまうのは、一体なぜなんだ……


「ぁがっ……くっ!」


 団長の体が一度ぐらつき、ついに膝までついてしまう。

 俺達の全力の攻撃をあれだけ受けて、それなのにこれだけの攻撃を容易く打ってくるなんて……どうやったら……どうやったら勝てるんだよ……


「刀矢……」


 隣を見れば、俺なんかよりよっぽどボロボロの友綱と、坂下がこちらを見ていた。どうやら二人は最も至近距離で攻撃を食らってしまったようで、明らかにダメージがデカい。

 ガリリン君とデーブ君は二人ほどではないけど、俺よりも酷い怪我に変わりはない。


「とう……や……」


 坂下のかすれた声が聞こえる。坂下には本当に怖い思いをさせてしまっていた。彼女に謝った時、彼女も俺のことを怖がって申し訳ないと謝らせてしまった。

 その彼女が、俺にかすれた声で助けを求めてきた。いつも俺をサポートしてくれてた友綱も、あまり面識はないけど、ガリリン君もデーブ君も俺の事を見ているのが分かる。


「あぁ……皆は絶対に……俺が守るよ」


 再び体からあふれ出した加護と魔力。きっと、皆の思いが俺に力を与えてくれたんだ。


「逃げろォォォオオっ!」


 悲鳴にも似た声を上げながら崩れ落ちた団長の前に出て、俺は全身全霊のシャインブレイバーを光の柱に叩きつけた。

 先ほど覚醒した時よりもさらに巨大になった黄金の斬撃が鈍色の巨人に向かて突き進んでいく。

 

「いっけぇぇっぇぇぇええ!!!」


 全ての力を使い果たした俺はその場に倒れ込みながら、自身の放った最高最強の技が鈍色の巨人の前に展開された魔法陣によってかき消されるのを見て、声を止めてしまった。


『けはははッ!お前らがあまりにも惨めに頑張るものだからつい伝え忘れてしまったが、この巨人の“障壁”は巨人と同じ力を齎すんだよっ!貴様らゴミムシの小賢しい攻撃が通用するはずがないだろ!』


 一体どうなってるんだよ……なんで、なんでここまで理不尽な強さが存在しているんだ……


 こんな相手に、勝てるはずがない。

 俺の攻撃は殆ど無力化され、ダメージを与えられないんだ……


「それでも……」


 直接斬りつければ多少のダメージは与えられる。最初にあいつの足を削れたのがその証拠だ……っ!


「カンザキッ!?何を……」


 立ち上がる俺を見て、焦ったような声を上げる団長。 


「勇者って奴は、立ち上がらないとだめなんだ……」


 勝ち目なんかない。作戦も何もない。だけど、俺が死んでも、俺の背後にいる皆が逃げる時間くらいは稼いでやる。


「刀矢ッ!もうやめて!」

「刀矢!お前もとっくに限界だろ!あとは俺が……ぐっ……」


 悲鳴にも似た声を上げる坂下と、俺の代わりに立とうとする友綱だけど、友綱は想像以上に傷が深いようで、立ち上がることができないみたいだ。


『まだ立つのか?無駄だと理解できないのか?』


「無駄なことなんて……とっくに理解してるさ……だけど、俺はここで……立ち上がらなきゃいけないんだ……勝てない事なんかとっくにわかってるんだ。だけど、それでも立たなきゃいけないのが、勇者である俺の役目なんだっ!」


 もはや自分に言い聞かせるように、自分を奮い立たせるために、これから襲い来る鮮烈な痛みを伴う死を迎え入れるために、俺は声を張り上げる。

 それに苛立ちを覚えたのか、スピーカー越しの声は更に苛立ったように俺に死刑宣告を告げた。


『糞みたいな平民の、糞ダサい自己犠牲は十分わかった。だがな、お前を殺した後にお前の仲間も皆殺しにしてやるよ!あぁ、かっこ悪いなぁ!守るって言って何も守れないのは!!!』


 

 迫りくる拳が、暴風を巻き起こすその拳が俺に届く一瞬前に、俺の耳に、あのひょうきんな男の声が届いたんだ。


「―――カッコ悪くねーよ」


 その瞬間、膨大な加護と魔力に守られる拳が吹き飛び、轟音を立てながら地面に転がった。




 


 

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