第147話 勇者ノ本質
それから俺達はフォアの野郎を探すために手分けすることになった。
見つけ次第信号弾を放ち、居場所を知らせるという事を前提に、班分けが行われた。
刀矢と須鴨さん、坂下と俺、トリスさんとデーブ、ジムさんとガリリンのペアになり、会長と団長は各々で捜索するみたいだ。
まああの二人であれば一人でも問題はないだろうと思う。
刀矢達は最後にフォアを見た辺りを捜索するらしく、俺と坂下はこの宿の周辺から少しづつ捜索範囲を広げていく。他のメンバーは宿からフォアを最後に見たところまでの中間を操作していく手はずになった。
俺と坂下は総合的な能力はほぼ互角だからこそ、お互いが全力で走っても勝手にペースがあってくれる。元の世界では考えられないような速さで移動する俺の横で坂下が不安げな顔でこちらを見てきていた。
「大丈夫だ。必ず見つける」
「うん………そうだね………絶対見つけよう」
俺と坂下が目指していたのは、近くにある時計塔だ。安易ではあるが、高いところから見渡せば見つけやすいのではないかという考えだった。
そして、その考えは的中した。宿の周囲にはやつらの姿は見られなかったが、宿から最も近い街の出入り口、そこでやつらが合流しているのが見えてしまった。
街中で信号弾と言うのもどうかと思うが、とにかく、手渡されたそれを俺は空に向けて発砲した。
青い色の煙を上げながらそれは空中を登っていき、暫くの間その場に滞留し続けた。
数分と経たぬうちに会長と団長が合流し、そのすぐ後に騎士の恰好をした男たちが俺達の元にやってきた。まあ、そうなるだろうな。
「済まない。私たちはこの街が初めてで、はぐれた時用の信号弾を彼が間違って使ってしまったようだ」
会長がそう言いながらも圧力をかけ、騎士はしぶしぶだが帰ってくれた。
その様子を建物の陰から見ていた他のメンバーが、騎士が完全に居なくなるのと同時にこちらに出てきてくれた。
「どこにやつらがいた?」
「西の城門の辺りです。そこで見妃たちと合流していたのが見えました」
「そうか。向こうも私達が探し始めたことは既にわかっているだろうし、今の信号弾で間違いなく気が付いただろう。急ぐぞ」
捜索に時間があまりかからなかったことは嬉しいが、それよりも、強化された視力が凄いと感じてしまう。
以前であれば望遠鏡が無くては見えなかったような距離を軽々と目視で来たんだ。今までこれほど遠くを見ようと思った事なんかなかったから気が付かなかったけど、本当に英雄や勇者ってのは凄いんだな。
会長が先頭を走り、その後に団長、刀矢、そして俺と続いて走る。景色が横に伸びる様な速さで走りながら門に着いたのだが、既にそこにはフォアたちの姿はなく、その場にも痕跡一つ残されていなかった。
「安心しろ。私の能力であれば捜索可能だ」
そう言いだした会長。会長は確か時間と空間を操作できる個性だったハズだ。相当強力な個性だが、そんなことも可能なのか?
「よく見ておきたまえ。個性には様々な応用がある。これはそのほんの一つに過ぎない………空間指定完了………時よ、戻れ」
会長がつぶやいた瞬間に、目の前の空間の時間が巻き戻され、その場で起こったことが再び目の前で繰り広げられた。
フォアのやつと、給仕の二人、そして見妃パーティーがこの場に来ると同時に、上空から銀色の機械翼を生やした少女が舞い降り、彼らは街の外に向けて走り出した。
「奴らの目的が分かったぞ。狙いは遺跡に眠る古代兵器だ」
団長はどうやらやつらの唇の動きから会話の内容を読み取ったらしく、その目的を教えてくれた。古代兵器………聞いただけでもやばそうな雰囲気を醸しだしているが、どうして会長は浮かない顔をしているのだろうか。
走りながら会長にそのことを聞いてみれば、俺達に話すことを躊躇うような表情を作り、結局真意を語ることはなかった。
ただ、『やばくなったら逃げろ。そして統制協会のストラス・アイラに千器を探してもらえ』それだけを言ってきた。
つまり、世界を救った勇者である会長でも手に負えないような化け物がこれから現れる可能性がある………そう言うことだろうか。
「見えてきたぞ」
団長の声が耳に届き、深い森の中を走り続けて20分ほどで遺跡のようなところに到着した。
そう、20分もかかってしまって到着したのだ。
既にその時には周囲の森は静まり返り、肌を撫でる空気が普段よりも数段冷たく感じる。
草木に覆われる神秘的な遺跡の中から漂う気配は、それらとは全く異なり、異様で禍々しい。そんな気配にあてられて、俺達は遺跡から目を離すことができなかった。
突如地面を突き破り姿を現した鈍色の巨人が、俺達をまたぐようにして通り抜けていくのを………呆然と見送ってしまったのだ。
「………君らは先に戻ってこのことを統制協会とマキナにあるギルドに伝えてくれ………私は………少しやり残したことがある………頼んだぞ」
最後に聞こえたのは、まるで“死”を覚悟でもしたような会長の声。その声が聞こえると同時に、俺達の見ている景色が、マキナの都の、あの宿の前に移り変わっていた。
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