第146話 善意ヲ踏ミニジル

 踏みしめた地面は、いつもの石畳ではなく、舗装されたアスファルトのような感触を与えてくる。

 石畳独特の硬さに慣れてしまったからこそ、少しだけ違和感を覚える。


「すっごいね!何かアタシらの世界よりも進んでんじゃない?」


 坂下が隣ではしゃいでる。こいつは精神的にも幼いところがあるからな。


「本当ですね……私のよく読む本とかでもこういうのはあんまりないのでびっくりしちゃいました……」


 そうだよね!確かに中世の世界感かと思ってたらいきなり近代都市でてきたらそりゃ驚くよね!それに何あれ!?ホログラムみたいなのが躍ってるし、その隣じゃ明らかにサイボーグみたいなやつが歩いてるし本当にびっくりだな!


「二人とも、もう少し声のボリュームを落としてくれ。さすがに悪目立ちはしたくないからね」


 は?お前何言ってんだよ。須鴨さんが楽しんでんのに水差すんじゃねえよ。それに明らかに後ろのヤンキー集団の方が騒いでるじゃねえか。


「んだよコレ………パねえな……」

「マジパねえ……」

「パな過ぎんだろ……」


 あ、駄目だあいつら。凄すぎて語彙が消滅してやがる。明らかに荷物持ちの彼もバカみたいに口開けてぽけーっとしてるし。


「とりあえず馬車を預けよう。いつまでも引いている訳にもいかないからね」


「そうだな」


 会長と団長が話ししてるけど、本当に区別付きにくいな。話し方似てるし、団長と会長ってのも似てる。


 まあしいて言えば団長の方が少しだけ女っぽい話方かな?って感じだ。


 勝手を知ってる団長と黒鉄の二人、そして会長が宿を見つけ、そこに馬車を預けることができた。イヤーでもまさかこの世界で立体駐車場見たいなものをみられるとは思わなかった。

 龍馬は馬小屋に連れられ、俺達は各々の部屋に分かれ、邪魔になりそうな荷物だけを置き、そのまま外に集合した。


「あれ、そう言えばフォアさんは?」


「あぁ、フォアさんは街に着いた時に巻き込みたくないからってどこかに行っちゃったよ」


 そうだったのか。通りで姿が見えない訳だ……だけど俺達に何も言わないって言うのは少し酷いんじゃないかな。仮にも彼を送り届けたわけだし。


「まあ言いたい事もわかるけどさ、フォアさんも色々大変みたいだし、他のことに気を使う余裕がないんじゃないかな?」


 おまえはまじであの刀矢なのか?そう思ってしまう程に大人な対応を見せてくる。いつの間にここまで心が広くなったんだよ。


「見妃たちが来たら出発だな……にしても、アイツら遅いな」


 既にこの場には俺達のパーティーと、刀矢のパーティーは集まっている。それに団長や黒鉄の二人もいるのに、何故か見妃パーティーだけは一向に姿を現さない。


「おっかしいな……ミッキーって意外と時間とか厳しいのに」


 坂下の呟きを聞いた瞬間、嫌な予感がした。 

 それは会長も同様だったようで、直ぐに俺の視線と会長の視線がぶつかる。それと時を同じくして、俺達の背後でトリスさんとジムさんが動き始め、宿の中を探しに行ってくれたようだ。


「あのフォアという男、ひょっとするととんでもない曲者だったのかもしれんな」


 会長の呟きが、さらに俺の嫌な予感を強くした。

 俺達以外のやつらが変異に気が付き、会長に話しかけている。誰も彼もが彼女たちを心配していることが分かるが、今とらなきゃならないのはその行動じゃない。


「見妃たちは確かにこの宿に来るまではいたんだよな?」


 坂下たちにそう話しかければ、彼女たちは一応頷いてくれた。


「ミッキーたちの声は聞こえてたからいたのは確かだけど、アタシも景色ばっかり見てたから……あ、で、でも給仕のマリポーサさんとかなら一番後ろにいたからわかる……か……も?」


 最悪だ………そうだ、そうなんだよ。俺達は見妃たちのことを気にしすぎるあまり、あの二人のことを気にしなさ過ぎた。

 今ここにいるのは俺達のパーティーと、坂下パーティーそして黒鉄の二人と団長“だけ”だったんだ………。

 二人も、おそらくやられた………連れ去られたんだ………。


「ちくし―――」


 俺が振り上げたこぶしを地面に叩きつけようとした時、その手を会長に掴まれてしまった。

 その顔はひどく落ち着いているように見えてしまう。仲間が連れ去られたってのに、どうしてこの人はこんなに………。


「まだだ。まだその怒りは吐きだすんじゃない。来るべき時に、吐き出せ。そのために今は、無理にでも冷静になるんだ」


 そう言うことか………会長も、頭に来てるのは変わらないんだ。だけど、本当に今しなくちゃならないことを分かっているからこそ、この人は………


「やっぱりあいつらの部屋はもぬけの殻だったぜ」


「こりゃあの野郎がやりやがったとみて間違いねえだろうな」


 その言葉を聞いた刀矢が、頭を抱えながら、「俺のせいだ、俺が彼を同行させなければ………」なんて言っていやがる。

 

「それは違う。お前は正しいことをしようとしたに過ぎないだろ。困っている人を見捨てられねえことの何が間違いだって言うんだよ。お前はそのままでいいんだ」


「友綱………」


「間違ってるのはあいつの方だ。お前の気持ちを踏みにじりやがって、ただじゃおかねえ」





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