第138話 卑怯の格が違います

◇ ◇ ◇

 ここの治癒術師は相当に優秀で、半身がダメになっちまった俺の体を、たった一時間程でそれなりに動くようにしてくれた。流石良い所お抱えのお医者様は違いますね。


「おっちゃーん!この子も治したって!」


「お前もまだまともに動けねえんだからフラフラするんじゃねえよ」


 せっかく仕事を運んできてやったのになんだその言い草は!ビターバレーのジョニー爺さんとはえらい違いだな。


「まあまあ。俺の事はどうでもいいからさ、それよりこの子だよ。力の使い過ぎと相当ダメージ受けてるみたいだから優先してあげて。どうせ暇でしょ」


 このおっさんの病室には他の患者がいないので、最優先でカリラの回復をお願いする。俺はその隣で回復薬を頭からかぶり、顔に掛け、傷のある所にさらにかけていく。

 これだけの怪我は下位の回復薬じゃどうしようもないから痛みが少し楽になるくらいの効果しか得られないが、生憎とこれくらいの怪我は慣れてるからね。だから別に泣いてねえし。


「俺試合があるからさ、戻ってくるまでにそれなりに回復させてあげて」


「テメエその体で出るつもりか!?」


「あぁ………ちょっと優勝しないといけなくなっちまったからさ」


 俺の次の対戦相手は、あの冒険者だ。経験をしっかりと重ね、修羅場をいくつも潜り抜け、経験とキャリアを積み上げてきた類の冒険者。

 まともに相手すれば相当な泥仕合確定だし、体がぼろぼろの俺では勝ち目がないだろうけど、ちょっと今日のユーリさんは頭にきちゃってるんだわ。


「さってと、セミモブをぶっ殺して次に備えますかね」


 会場に出れば、俺に対する溢れんばかりの大歓声………ではなく、ブーイングの嵐。いいねいいねこういうの。本当に興奮する。


「あんた冒険者だろ?冒険者同士頑張ろうね」


 俺の声に、警戒心をむき出しにしながら冒険者の男がにらみを利かせてくる。

 こいつは一回戦と二回戦共に泥仕合を制している。

 泥仕合と言っても、こいつがコソコソ隠れながら細工をして、少しづつ少しづつ敵を追い詰めていったんだ。

 

「そんなハンデ背負って俺と戦うつもりか?」


「これがハンデになるかどうかは俺次第なんじゃない?」


「…………超越者かお前」


 懐かしい言葉知ってるね。俺がいた時代の、さらに少し前の言葉だよそれ。今では特異体質者ってんだ。


「さあ、どうだろうね」


 そこまで話をすると、審判が試合開始の合図を行った。

 手が振り下ろされると同時に、男からナイフが飛んでくるが、それを同じくナイフで撃ち落し、張り巡らされた糸を俺の糸で絡めとって自分に有利な形に整形していく。


「ちぃ!食らいやがれ!」


「無理無理」


 投げられた閃光弾の核となる部分を銃で撃ち抜き、不発に終わらせながら陣を起動する。その陣の名はウッドフォードリザーブ。単純に木々が生い茂るだけの自然に優しいまるで俺の存在のような陣だ。


「………いいのかよ、俺に隠れる場所を与えちまって」


「いいよいいよ。だって俺、お前より狡いから」


 即座に俺の前から姿を消した男。それとほぼ同タイミングで茂みからボウガンの矢が飛んでくる。


「そこか!」


 矢を回避しながら銃で茂みを打ち抜くが、そこにあったのは糸で操られただけのボウガンだった。

 あっけにとられる俺の背後から男が忍び寄り、俺の首にナイフを―――


「———伏せろッ!!!!」


 上空のそれを見つけた瞬間、俺はそう叫ぶ。その声に“つい”反応してしまった背後の男は俺の声に従って即座にその場に飛び込むようにして転がった。

 冒険者の絶対的な習性である“第三者の介入を警戒する”と言うものが仇となる。それこそ目の前の二流冒険者のように場数をこなしてるやつであればなおさら。



「ありがとう!おかげで蹴りやすい!!!」


 顎に渾身の蹴りをくれてやれば、男は一瞬白目をむいたが、舌を噛み、強引に意識を繋ぎとめたことが分かる。


「がぁぁぁあ!?」


 転がった冒険者の右肩に、先程俺に攻撃を仕掛けたこいつのボウガンから鋭くとがった木の枝が発射され、左肩に突き刺さり、あまりの痛みでその場から逃げ出そうとした男。だけどその前には、最初に俺が整形してやった糸の罠が張り巡らされている。


「言ったじゃん。俺の方が狡いって」


 その声と同時に、頭上に出しておいたマキナのアーティファクトが、照準を男に定め、一斉に射撃を行った。


 男の方もさすがにこれでやられてくれるはずもなく、転がる様にして銃弾を回避しているが、その進行方向に突如生えた木によって、ローリング回避が止められる。


「だからさぁ………“俺の方が狡い”んだってば」


 万事休すかに思えたおっさんだが、なんとおっさんは地面に手を付き、土壁を作り上げることで弾丸を防ぎ始めた。魔法使うとかずるっこいな。

 充電式のアーティファクトの充電が切れ、弾丸が止まると同時に、土壁の裏から出てきた男が剣を片手に俺に突っ込んでくる。

 俺の怪我を見て左側から振るわれる剣をバックステップで回避し、俺は驚いたような表情で右を見た。


「その手にゃもう乗ら―――」


「何度も言うようだけど、俺の方が狡いの」


 おっさんが最後まで言い切るよりも早く、おっさんは俺の召喚した魔物であるボムトレントの爆弾果実をもろに食らって吹っ飛んでいった。


 そもそもさ、俺がこんな森を展開した時点で気が付けよな。俺が不撓不屈と戦った時、最後あいつの剣を押し返せたのが特異体質の恩恵じゃないって気が付けたのまでは良かったのに、無冠の時に見せた召喚がどうして頭から抜け落ちちゃってたのかな。

 まあ、そのためにも試合前にあれだけ特異体質のことを印象付けたんだけどね。


「勝者427番!」


 おお、この中でもしっかり見えてるのか。ババアみたいな力か、それともアーティファクトかな?

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