第137話 人の“モノ”に手を出す奴は馬にかられて死んじまえ

「後悔………すんじゃねえですよ!」


 腕の時間を戻し、一瞬で回復させた私はラフロイグが準備を終える前に攻撃に移る。

 打撃が効かねえなら、ナイフで首を跳ね飛ばしてやるってんですよ!


 即座に服に触れ、服の時間をとめ、首めがけてナイフを振るう。この角度、この踏み込みであれば間違いなく獲った!そう確信させる一連の動作。そして手に伝わってきた手ごたえは―――


「巨人は地を支配し、空を統べるモノに対抗する存在だ。地上にいる限り、この私の体に傷を付けることができると思うな」


 キラキラと、ナイフが粉々に砕け散り、目の前で光を反射しているのが見えちまいます……それと同時に、ラフロイグの拳が私の腹にめり込み、内臓を、周囲の骨まで砕き伏せ、壁に叩きつけられちまいました……


 打撃も、斬撃も効果がねえとか……ふざけるんじゃねえですよ……


「まだ、立つのか」


「あ、あたり、まえじゃねえ、ですか……私にゃ……金が要るんです……」


 息を深く吸えば、破裂した内臓から逆流した血液がこみ上げて来て途端に咳き込んじまう。口元に当てた手は真っ赤に染まってやがるし、一撃でこの威力とか、ふざけんなって感じです……


「そこまでして金を手に入れて……貴様は一体何を……」


「笑いたきゃ……笑いやがれってん……です……私は奴隷だ……だから……自分を買い戻さなきゃ……ならねえんです……」


「自分を買い戻した先に、貴様の未来があるというのか?このまま続ければ、貴様は最悪死ぬぞ?」


「それでも……ッ!買い戻してえ……んですよ……そうすりゃ……今度こそ………」


「そうか。どうやら俺はお前を見くびってしまっていたようだ。貴様は戦士だ。だからこそ、俺も最大限の敬意を評して貴様を倒そう……死んでも……文句は言ってくれるなよ」


 私にそう言った瞬間、あの男の周囲に纏っていた加護が、ただでさえイカレた量の加護がさらに爆発的に吹き上がりやがった。

 これは……駄目だ……。


「ドラゴンスレイヤー。かつて巨人が鍛えた龍殺しの大剣であり、龍狩りの1つだ」


 ふざ……けんな……この期に、及んでそんなもんを……

 

 影の中から取り出されたそれは、5メートルを優に超えるバカみたいにデカい剣であるにも関わらず、片腕でそれを軽く振るったラフロイグ。

 振るわれた剣が生み出す風圧だけでも、どれだけの質量を持っているか容易に想像できちまいます。


「これで終わりにしよう。貴様は気高く、そして誇り高い戦士だった」


 その声を最後に、私に向かって剣が振り下ろされる。

 死んだ。それはもう完膚なきまでに負けて。

 チクショウ……チクショウ!!なんで、なんで私はこんなに弱ぇんですか!!

 

 心の中に黒い感情が吹き上がるのと同時に、迫る大剣と私の間に、包帯まみれの男が滑り込み、声を上げた。


「石柱結界ッ!」


 目の前に角度の付けられた結界が展開され、ドラゴンスレイヤーとぶつかり火花を散らしながらもドラゴンスレイヤーの角度を変えていく。


「爆ッ!」


 次にドラゴンスレイヤーの側面で爆発が起こり、完全に軌道が変わった瞬間結界を解除した男。


「いやー危ない危ない。おじさんのハンサムフェイスが裂けるチーズみたいにされるところだったぜ」


滑り込んできた男は包帯まみれで血がにじみ出している手で額を拭うと、ラフロイグに声をかけた。


「この勝負はカリラの負けだ。もう勘弁してやってくれ」


「……貴様……ドラゴンスレイヤーを逸らしたというのか?」


「お前の振り下ろす力を使ってだけどな。不完全燃焼だってんならさ、決勝で俺がぶっ殺してやっからそこまで来いよ」


 珍しく、あの男の本気の殺気が体中からあふれ出しているのが分かりやがります。それに、表情もこっちからは見えねえですが、相当に怒ってやがるのが分かる。


「……いいだろう…………貴様、名は何という」


 ドラゴンスレイヤーを影の中に押し込んだラフロイグがバカ主人に向けてそう言うのと同時に、私の反則負けが言い渡されちまいました。


「大塚悠里。しがないハンサムをしている」


 そう言ってバカ主人は私に肩を貸しながら会場を後にしやがりました。どう見たってテメエの方が重傷だってのに、包帯から血がしたたり落ちてやがるのに、ちっとも痛そうなそぶりさえ見せねえで、そいつは歩いていきやがります。


「て、てめえ何してやがんですか……」


「ん?何って言われてもな。俺の奴隷を勝手に殺そうとしやがるバカ野郎がいたから止めに来たんだよ」


あっけらかんとそう言いやがったバカ主人に舌打ちを一つして、私の意識は闇に堕ちちまいました。


「………あの野郎ぜってえぶっ殺してやっから覚悟してやがれよ」


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