第139話 抗う為の刃
その後も試合は俺の想像通りに進み、決勝の舞台に上がってきたのはやはりラフロイグだった。
準決で戦っていた予選2組目の男との戦いはそれなりに盛り上がったが、ラフロイグの“あれ”が出てからは一方的なものだったな。
溢れる様な加護に加え、自身の都合のいい結果をもたらす寵愛を兼ね備えた男。見てわかるのは、こいつがチョコチに匹敵するくらいの強敵だってことか。
対する俺は、怪我もしっかりと完治し、万全の状態で決勝に臨むことができた。あの医者マジでスゲーな。引き抜きたいくらい。
「ようやくテメエをブチ転がせるね、おじさんわくわくが止まらねえよ」
「加護も寵愛も感じられない。だが、それでも貴様は強い。それは既に理解している。だからこそ、俺は全力で貴様を迎え撃とう」
そこまでラフロイグが言い放った直後、俺は左手の手袋をラフロイグに叩きつけた。
これが意味することは、既にこの場の全員が理解していると思う。
「なんのつもりだ」
「いやさ、俺って本当はあの手袋目当てで来たんだよ。だけど、どうにもテメエはぶっ飛ばさねえといけねえわけじゃん?だったらさ……勝った奴が総取り、それでいいンじゃね?」
「そうか……お前も戦士であったか。加護も寵愛も持たず、誇りさえ感じられないと思っていたが、一本、決してブレぬ芯を持つ誠の戦士だったか!」
クールな印象を与えてくるイケメンのくせに、なんだか興奮し始めちゃってるじゃん。
「あぁ、この戦い、俺を応援してくれる皆に捧げるにふさわしい」
そう言って、俺の投げた手袋を拾い上げたラフロイグ。その顔は、笑みを浮かべていた。
「条件は、この決勝に勝つことが勝利。敗者はこの大会で得る報酬を相手に渡す。それでいいな?」
「何も問題ねえよ」
俺とラフロイグの一連のやり取りで、会場のボルテージまで最高潮になった。
主に、俺を殺せだの、亡き者にしろだの、息の根を止めろだの、黄泉に送ってやれだの、ほんとお前ら良い語彙力してやがるよ。
「では…………はじめッ!」
審判の合図と共に、ラフロイグがその場に崩れ落ちる。
当然、手足は切断され、その場に転がっているわけだ。
「さっさと立て。俺の奴隷を殺そうとしやがったツケ払わせてやる」
「それが………お前の本性か」
目を伏せたラフロイグが、手足を一瞬で蘇生させ、立ち上がる。こいつは本気になれば、もっと早く蘇生ができるはずだ。
俺のことを完全に舐めてやがるな。
「―――面白いッ!影槍!」
踏み鳴らした足もとから、影の槍が12本生みだされ、その内の一本を素早く俺に投擲してきたラフロイグは、投擲と同時に、反対の手でつかみ取った槍を持ち、俺に接近してくる。
「切り取り、貼り付け」
英雄の力で投げられた威力そのままに、ラフロイグの足に槍が突き刺さり、走り出した運動エネルギーに体を押され、つんのめる様にして転んだ。
「俺が糞雑魚だからってあんま舐めるなよ」
着こんでいる鎖帷子に陣を張り付け、それと並行して奪い取った槍でラフロイグの肩を地面に打ち付ける。
「貼り付け」
上空から飛来したカルブロ鉱石が、突き立てられた二本の槍を更に地面の奥深くまでねじ込むが、それで潰されなかったのは、ラフロイグが筋肉の隆起でカルブロ鉱石の落下エネルギーを上回る圧力を槍に掛けたからだろう。
まあでも、それも関係ないんだけどさ。
「爆、爆爆爆爆爆、爆爆爆」
先ほど仕込みをした鎖帷子が連続して起爆し、徐々にカルブロ鉱石が地面に近づいていく。断続的な爆発と共に、俺は周囲にさらにナイフを放ち、それを糸でつないだ。
「陣の真骨頂を見せてやるよ………範囲指定、地形変化【沼】」
俺がそれを発動すると同時に、カルブロ鉱石が沈む速度……いいや、ラフロイグが貼り付けにされている地面が沼に落ちていく速度が加速する。
これだけの重さだ。あと数秒で沈むんだろね。だけど、これで終わらねえから英雄ってのは厄介なんだ。
「はぁぁっぁぁああ!!!」
気合一閃。ドラゴンスレイヤーを抜き放ったラフロイグの攻撃で、カルブロ鉱石が両断され、影槍も消え去った。
どうやらやっと本気になってくれたみたいだな。
「………お前は……一体……」
「戦闘中に話す余裕があるってのか?いいねぇ英雄さんは御強くて…………【泥津波】」
張り巡らせた糸が1つの陣を描き、沼が大きく波打つ。水とは比べ物にならない質量を持つ沼津波。正直常人が喰らえば速攻で死ぬようなもんだ。こういう時に来るのは決まって“覚醒”なんだよね。まあ、一時的な覚醒で、その力は戦いの終了と同時に消失するけど、その経験が英雄に取っちゃマジでデカいからなぁ。
「負ける…………訳には…………いかないッ!俺を応援してくれる声が聞こえる限り、俺は絶対に負けないっ!!!」
ほら来たよ覚醒。体から眩い光を放って、ダメージ、疲労、魔力、精神力含め全回復の糞バグチート。それに強さの桁が一つ上がるような進化の仕方しやがるんだ。
本当に羨ましくなってくるぜ。凡人の努力も、知略も、経験も、才能も全部ひっくるめて踏み潰していきやがるんだよ、英雄や勇者って存在は。
「はあぁあ!!!影葬讃華ッ!」
周囲に展開された無数の陰の武器が一斉に俺に襲い掛かる。剣や槍はもちろん、それ以外の古今東西の武器が顕現し、襲い掛かってくる。そのどれもが店売りの武器なんかと比べるまでもない様なスゲーもんばっかだ。
こんなところでも、こういうやつは鍛冶師や職人の努力を踏みにじりがる。
「さすが英雄だよ本当。だけど、相手が“悪かった”な」
見えるビジョンに向け、俺は“神剣”を振るう。神剣に影の斧がぶつかった直後、ラフロイグの加護が暴走し、全ての武器がまるで破裂でもしたみたいに吹き飛んだ。
「テメエの信念も、信条も、矜持も、何もかもへし折ってやるよ」
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