第134話 触手回来たるっ!
それから本選はおおよそ俺の想像通りに進んで行った。第二回試合は無冠が勝ち上がり、第三試合はあの冒険者の男が辛くも勝利を掴んでいた。
ああやって泥臭く勝てるやつはマジで注意しないとな。何してくるかわからない怖さがある。
正直なところ、百錬自得は相当に強かった。だけど、想像以上にあのラフロイグってやつが反則的に強い。百錬自得は見た技を一度だけ使うことができるという少し変わった個性を持っていたし、それに加えてかなりの戦闘能力、戦闘技術を持っており、かなりの激戦を予想してたんだけど、予想外に瞬殺だった。
ラフロイグは試合が終わると、子供を抱きかかえている若い女に手を振ってたことから、リア充死ねってことが分かった。あいつは俺の手で亡き者にする。
そんなこんなで、俺は無冠と名乗る全身を外套で覆い隠し、仮面までつけてる変質者の前に立ったわけだ。
でも、目の前に立ってようやくわかった。その手にはめられているガントレットと、グリーブ、そして、その外套。それらは全て上位のドラゴンの素材で作られた最高級品だ。
ガントレットはドラゴンの骨を軸に、鱗を張り合わせたものだろう。グリーブも同じで、鱗と骨から作られていることが分かる。そして外套はドラゴンの翼膜と使っていることが分かる。魔法の伝導率がバカみたいに高く、魔鉱と呼ばれる魔力との親和性の高い金属群の伝導率さえ凌駕するという逸品だ。そんな物を身に纏っているやつが、普通のやつのはずがない……はずがないのに、目の前の無冠からは、加護も、寵愛も人並み程度にしか感じられない。
だからと言って、目を離すことができない強者特有のオーラのような物を感じる。
「あんた何者?そんな怪しい仮面付けてると嫁の貰い手がなくなるぞ」
「ふんっ、貴様には関係の無い事だ」
おっと、どうやらカマかけてみたけど本当に女らしいな。ガントレットとグリーブのサイズから想像しただけだけど、女ってのはやり難くて仕方ねえんだよな。
関節の可動域が男よりも広いし、腕力に関しちゃ魔力での底上げがあるから女だからって男に負けるとは限らねえし。
「では、はじめ!」
やっべえ!こいつこれだけの強さを持ちながら、俺の探知可能な領域に居ねえとかマジか!?
ぎりぎりで振り抜かれた刃を回避し、即座に糸を放つ。それと並行し、足元に爆炎陣を設置して大きく飛びのいた。
「爆ッ!」
起爆からの、瓦礫を糸でまとめ、それを無冠の頭に叩きつけるが、なんと無冠はその岩の塊に向けて拳を振るってきやがった。
拳にぶつかった瓦礫の塊はその場で砕け散り、巻き上がった破片のうちの一つを掴んでそれをこちらに投げつけてきた。
「うげっ!?」
上体を逸らしたことで間一髪それを回避することに成功したが、それとほぼ同じタイミングで、俺の顔に影がかかった。
「終わりだ」
振り下ろされる真っ黒の刀。しかし、それが俺に当たる前に、伸ばした腕がある物を掴み取った。
「秘儀ッ!真剣お乳取ぐぼっしゃっ!?」
乳を鷲掴みにしたら蹴り飛ばされた。だ、だがまあ計算通りなのさ。
こうすれば刀でバッサリされずに済むし、蹴りで距離を開けることもできる。
ちゃっかり蹴られるであろう場所には結界を展開してたので、ちょーっと俺の肋骨がブレイクされたくらいだ。
「き、貴様……いい加減に―――」
「爆」
何もただ乳を揉んだ訳じゃないのよ。
それに胸当てあったから横乳に指先がちょーっと触れたくらいだしさ。
まあだけど、俺に触られると火傷しちゃうんだよね。
何せ、爆炎陣の効果を張り付けたお前の胸当ては、お前の魔力でお前を爆破してくれるわけだし。
「爆爆爆爆爆」
俺の糞雑魚な陣ではあまりダメージを与えられないので、とりあえず連打したが、どうやら速攻で胸当てを取り払ってこちらに接近してきているみたいだね。
「お前の戦いは本当に見事だ。ふざけているがその技術だけは本物だ。だから僕も油断はしない」
そう言って俺が足元に仕掛けた陣を一度も見ることなく回避した無冠は勢いを殺すことなく俺に突っ込んでくる。
どう見ても英雄や勇者と比肩しうる身体能力に加え、異常なまでの観察能力と想像力。
正直言って一番苦手なタイプだ。
「見せてみろ。お前の限界を」
「貴様からお前に昇格できたのは嬉しいんだけどさ、俺の限界なんざとっくのとうに見せてるんだぜ?」
気配が見えないという事は、即ちカウンターが打てない。それだけじゃない。こいつは俺の行動パターンを分析し、罠の位置を予測してきやがった。それも相当な精度で。
本当に厄介だな。努力できる天才ってのは。
「はあっ!」
逆袈裟に振り抜かれた刀をどうにか防ぎ、返す刃の一撃が来る前にナイフを投擲する。その隙に生体魔具で新しい道具を、そう思ったが、最悪なことに、ナイフごと俺のことを一刀両断しようと刀を振るい、刀が拮抗することなく、まるですり抜ける様にナイフが切り落とされた。
俺は寸でのところでバックステップを踏んでどうにかなったが、回避じゃなく、そこからも攻撃してくるとは思わなかった。
「取ったと思ったんだがな」
「あぁ取られたと思ったよ」
本当に紙一重の所で避けられた。それにしてもあの刀一体どういう仕組みなんだよ。俺のナイフはそれなりにイイものを使っているはずだ。それを簡単に叩き切るとかどんな業物だってんだよ。
「とりあえず、これあげちゃう」
俺は取り出した爆弾を無冠に投げつけ、その場から全力で逃げ出す。それを見た無冠は一瞬刀で斬ろうとした手を止め、直ぐにこちらに追いすがってきた。
「なっ!?なんだとぉぉぉおっ!?」
しかし、無冠が逃げると、爆弾までガランゴロンと無冠の背中を追いかける様に転がっていく。
それもそのはず、あの爆弾と無冠にさっきの一合で糸を付けておいたからね。
「俺の
キメ台詞と同時に起爆。激しい爆風と熱風が結界に打ち寄せるが、どうにもうなじ辺りがチリチリとするこの感覚が消えてくれない。
そう思ったのもつかの間、背後から感じた殺気に反応し、頭をかがめることで俺の頭のあった場所を通り抜ける物を回避し、同時に足元に陣を仕掛け、次なる一手を打つ。
取り出したのは、ハンドガンと呼ぶには少し大ぶりの銃だ。ブラッド用に調整したそれを片手に持ち、もう片方に剣を持つスタイルで俺は無冠が巻き上がった砂煙の中から姿を現すのを待った。
「まさかあれも避けられるとはな」
「俺の本領はこれからだぜ?」
「それがお前の本当のスタイルという事か……いいだろう!」
そう言って踏み出した無冠の足に、シュルシュルとどす黒い紫色の触手が巻き付く。
そうです。みんな大好き触手モンスターさんです。
さっきの陣で呼ばせてもらいました!
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