第130話 滅びのリバーストストリーム
第五回戦に出場する者達が舞台に上がり、各々がストレッチを始める中、アナウンスをしていた係員が今までにない声を上げた。
「さぁ注目の第五回戦!今この会場に上がっている者は他のブロックとは違い名うての使手ばかりだぁぁぁあ!そして最も注目株と言えば、素手でドラゴンをなぶり殺しにしたという噂のタル選手だ!現在のオッズは………こうだぁぁああ!!!」
空中に浮かび上がる電光掲示板に今まで隠されていたオッズが現れる。どうやらさっきの話通りタルというやつはかなり人気なようで、オッズもかける意味あるのこれレベルになっている。
参考までに俺のオッズを紹介するとすれば、まあゼロがたくさん出てくるから簡潔に言おう、19万倍だ。もう一度言うぞ?19万倍だ。
恐らくだが、と言うか俺に入れた奴なんざいねえんだろうな。装備や加護の総量なんかを見て、俺がただの偽物だろうって思ってくれたのかもしれない。
「おぉっと!大会史上二番目の超大穴があるぞぉぉお!?今から乗り換えも十分に可能だが、始まっちまったらそれは出来ないから気を付けろよ!」
アナウンスしてるやつが俺が勝てるはずないと見越して周囲を煽っていく。まあそうだろうね。俺も全く、これっぽっちも勝てる気はしないんだ。
「オッズの変更はなしだァァァ!頑張れ427番!負けるな427番!」
会場からあふれんばかりの笑い声が聞こえるが、その声が全部悲鳴に代わるのが待ち遠しいぜ。
「では……はじめ!」
唐突に始められた試合だが、周囲の連中は既に俺のことなんか目もくれず、加護の総量の多そうなやつらに結託して向かっていった。その場に取り残された俺はというと……。
「いけー!そこだー!ちっげーよ!右だ右!!!」
片手にポップコーンに、エールまで持ち出してがっつり観戦スタイルです。
どこからともなく辛辣な視線を感じるけど、まあどうでもいいや。今は戦いに集中しないといけないからね!!!
それからぼちぼちと戦線離脱者が出始めて、ようやく俺のことを「あいつぶっ殺しとこうぜ!」みたいに考える連中が来てくれた。
それも12人も。
そして俺は案の定周囲を完全に包囲され、じりじりと追い詰められ始めてる。
だけどな、俺にこれだけの時間を与えちまったテメエらは……既に戦いの土俵にすら上がれなくなってんだよ!
「どっからでもかかってきやがれ!最初に飛び込んできた奴にゃ飛び切りきついのをお見舞いしてやっからよ!」
「いい度胸じゃねえか!ぶっ殺されても文句言うんじゃ―――」
拳を振り上げた男が駆け寄って来た瞬間、じょぼじょぼじょぼと、そして、おろろろろろろろという声がほぼ同時に会場に響き渡った。
激戦の繰り広げる周囲の連中でさえ腕を止め、俺の方に視線を向けてくる。当然の事観客席から俺のことを見ていやがるやつまで全員俺のことを見てる。正確に言えば、俺に“ゲロを掛けられた”男を見てるんだけど。
「うぎゃああああああ!?なんだコイツっ!?げ、げろ吐きやが………くっさっ!?さけくせぇぇぇ!?」
「おぷっ……おらおら、どうしたかかってきやがれ、エール14杯分のゲロがまだまだたっぷり残ってんだからよぉ!!!こちとら一回戦からひたすらエール飲み続けてんだぁ!みやがれこの腹を!!俺の特性スムージーでちゃぽんちゃぽんだってんだい!」
ちゃんと会場中も悲鳴を上げてるね。うん最高。それにまあ俺は勝てないとは言ったけど、そもそもこれは勝たなくても大丈夫な戦いだからね。そういう時こそ省エネっすわ。
「だ、ダメだ!あいつに近寄るとろくでもないことになっちまう!絶対に近寄るな!」
「ケケケケケッおらこいよぉー!どっからでもかかって来いよぉーうぷっ……」
両手に馬糞を装備して、ゲロをまき散らす俺を見て、周囲の連中がまるで大型の魔物に追いかけられる小動物みたいに逃げていくのが分かる。
うんまあ、知ってるよ。これが最低最悪な戦い方だってことくらいはね。だけどさ、こんな時こそこの言葉を送ろう……勝てばよかろうなのだぁぁぁぁあ!!!!!ってね。
「ク、クズだっ!本物のクズだぜこいつぁ!!」
「そんなこと言うなよな!こっち来いよ!お前らの迸る熱いパトスをぶつけてこいよ!このゲロを抱いて輝けよ!」
……大塚悠里、圧倒的な強さで予選突破である。
それ以降427番ではなくげろ男と呼ばれたのは言うまでもない。
いやーしかし悪いことしちゃったね。大会に向けて用意した衣装をげろまみれにしちゃって。皆結構いい値段のやつだから飛び込んでこないし、あの後俺がげろ吐く前に倒そうとしたタル?とかいうやつの顔面にも一発お見舞いしてやったからね。それ以降誰も近寄ってこないよ。
試合が終わったらゴミの嵐が俺のことを迎えてくれるし、トイレで腹の中身ぶちまけてきた後も誰も来ないし。カリラにガチでナイフ投げられるし……まあこれが勝者の宿命だね。
「死ね卑怯者!」
「剣王祭を汚しやがって!」
「戦士の風上にも置けねえやろうだ!」
オーディエンスがそんなことを言って来るので、満面の笑みで手を振ってやれば、皆思い思いのおひねりを投げてきてくれる。
やっぱ人の声援ってのは気持ちがいいね。
「皆のアイドルユーリさんだぜ!応援よろしくな!」
当然のことながらカリラに頭をシバかれ、爆笑して呼吸困難で苦しそうに地面をバタバタ叩いてるババアを踏みつけて飯を食べに行った。
勝者とは常に孤独な物なのさ……
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