第5章 決闘再び
第115話 脇役は影ながら舞台を支える
童亭での酒盛りが終わり、俺達は各々の宿泊する予定の宿に戻った。
結局カリラは酒を飲むことなく、宿についても少し眠そうにしているだけだった。
チョコチはそのまま送り返し、ローズはジョニー爺さんと二人で宿に帰っていった。
街の方も静まり返るような時間になって、俺はベットを抜け出した。
気配を消し、人目に付かない道を選んで移動し、街の外に出れば、なんとそこには俺の隣の部屋で寝ていたはずのカリラが既にいて、不機嫌そうな顔を向けてきていた。
「どこに行きやがるつもりですか」
「カリラたんこそこんな時間にどうしたのよ。悪い男にエッチな事されちゃうよ?」
ふざけて返せば、わざと俺に聞こえる様に舌打ちをして、さらに眉間の皺を深くしたカリラ。
「聞いてんのはこっちです」
「………ちょっとナンパ待ちの女の子探してたらこんなところまで来ちゃったテヘペロ」
「封印を確認しに行きやがるんですよね。テメエの考えなんざとっくに読めちまってんですよ」
さすがにダメか。むしろ、この時間に彼女がここに来たってことは、あらかじめ俺の行動を予想してたのかもしれないな。
だからこそ、酒を飲まなかったのか………。
「参ったよ。降参だ」
「なんで、テメエはそうやって一人で行こうとしやがるんですか」
今までで一番の不機嫌な顔になったカリラが、俺に詰め寄ってくる。体からは、感情の高まりと共に加護があふれ出し、それがついには可視化し始めてしまう程だった。
「封印を確認するだけだし、せっかく皆がいい気分なのにわざわざ起こすのも忍びないだろ?」
「確認しに行くだけで、なんでそんなに武装してやがるんですか」
そう言われて、俺は自身の体を改めて見回した。左腕にはいつものクロスボウが付いており、腰には神剣。しかし、背中には大型の魔物討伐用の武器と、腰の裏側には二本の短剣が刺され、ポーチにはいざという時の為の回復薬が並んでいる。
それに、服装も、いつものではなく、一張羅を入手する前に俺が身に着けていた装備で全身を固めている。
要塞龍の皮を使った皮鎧。見た目は普通の皮鎧と何も変わらないが、耐久力はそこらの金属鎧なんかじゃ相手にならないレベルの防御性能を有している。
それに、これは龍の臭いがするから“自意識”のある普通の魔物は近寄ってこない。
もし近寄ってくるような奴がいれば、そいつはまともに思考することもできないような奴であり、俺の狩り残しだと判断できる。
「肉腫は人間以外にも取りつくんだけどさ、養分にできるのが人間だけなんだわ。森の中に冒険者でもいたら、最悪の場合ここは既に肉腫の住処になっててもおかしくない。それを確かめるんだよ」
「確かめた後は………どうするつもりだったってんですか」
「―――殺すよ。見つけ次第………1匹の例外なく」
今の俺は………こっちに改めてきた時から考えて一番真面目に戦うことを考えている。
あの肉腫のしぶとさは俺もしっかりと認識しているからこそ、親玉をまず封印して、あとの子分どもを根こそぎ殺し尽したのだ。
親玉を殺してしまえば、別の個体が親玉になる可能性もある。そうなったら鼬ごっこにしかならない。
だからこその封印だった。そして、マッカランに頼んで、魔族の一部に封印を守らせていたんだけど………それが破壊されたってなると、どちらにしても確認しなくてはならない。
「ついてくるつもりか?」
「テメエが死ぬと、こっちは新しい仕事探さねえといけなくなっちまうんですよ。次の仕事が見つかるまでは生きてやがれってんです」
それに、新しい服も買わせねえといけねえんで。そう言ったカリラは俺の背後に控える様に立った。
これは、もう何を言っても無駄だろうと俺もあきらめをつけて、移動を開始した。
森の中は夜という事もあり、月明かりさえも入ることはなく、本当の意味で真っ暗だった。
長い異世界生活が無かったら俺もパニックになってしまうだろう暗さだが、さすがにカリラには周囲が良く見えているらしく、木々を避けながらすいすいと進んでいく。
「ねえ待って?枝が伸びてるなら言って欲しいんだけど」
通算20回目の横に伸びる枝との衝突を経て、俺の口から出た言葉がこれだ。生物の気配であればどうにでもなるんだけど、木ってさ………かなり際どいラインなんだよね。森の一部として存在しているから気配が読めなかったりするし。
「避けられねえほうが悪いんですよ」
本当にひどい。あんまりだ。
ついてくるって言いつつも俺の前に出てるとか何なの本当に。
周囲に魔物の気配はあるんだけど、全員俺の鎧の気配で近寄ってこないからまあ、大丈夫って言えば大丈夫なんだけどね。
「これは………」
そこから暫く歩き、ようやくついたのが祭壇だ。
しかもご丁寧に俺の作った祭壇をぶっ壊した跡があるし、戦闘痕も残されてる。
でもどういうことだ?魔族の姿がないし、それに戦闘痕では“火”を使ってやがる。
「なるほどね………俺のやったことが裏目に出たってわけか」
最悪だよ本当に。俺の施した結界が一部何者かに書き換えられている。
肉腫に対して働くはずの弱体化が、どういうことか肉腫以外の者に対する弱体化になってる
火で倒したと思ったら、想像以上に威力が足りなくて、ギリギリ仕留めそこなった………そんなところか。
周囲に人間がいた跡があったけど、どうにも封印を解いたやつの仲間か、連れが逃げたように見える。
いくらかの食料が残されてることから、それなりに場数を踏んでる連中だってのもわかる。
ただ、問題は……馬車の跡が王都の方に向かってるのが気がかりなんだよな。
やっぱあの国一回どうにかしないといけないのか?
「何考えこんでやがんですか」
「いやね、今回の騒動の黒幕って誰なんだろうなって考えてたんだよ」
「黒幕………そんなのが居やがるんですか」
「あぁ、居るね。間違いなく」
それも、俺の陣を書き替えられるような存在だ。油断はできないというか、していいレベルじゃない。
「面倒だけど、このまま次の目的地に移動するわ」
「………次はどこに行こうってんですか」
「―――異世界都市コイキ。そこで統制協会の連中に会わないといけなくなった」
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