第114話 ユウシャトシテ

 それからも会長の話は続き、俺の行動が如何に危険な物か、自分だけの満足の為に行われた行為だったかを突きつけられ、その話を締めくくる際に、会長は最後にこういった。


「貴様の身勝手で死んだ2人に、恥じない生き方をお前はしなくてはならない。油断して眠りについてしまった私が言えたことではないが、それでも、これだけは言わせろ。今の貴様は勇者ではなく、ただのエゴイストだ。自己中心論者だ。まずそこから直さなくては、貴様は一生本物の勇者になることはできない。お前の為に死んでいった者たちに、他の誰でもない、お前の為に命を捧げてよかったと思わせられるような男になれ。そうすればきっと、もうお前の為に命を捧げる必要などないくらい、お前は強い男になれる。私の師匠がそうだったようにな」


 そう言い残し、彼女は御者台に上がっていってしまった。

 その場に取り残された俺は、今の言葉がどれだけ重く、そして、どれだけの気持ちが込められた言葉かを噛み締めていた。

 彼女だって、俺と同じ時期に召喚された勇者のはずなのに、どうしてそこまで強くいられるのか。坂下だけではなく、会長まで引き込んでしまうような、彼のありのままの姿。そんな姿にイライラしていたはずなのに、今ではそれが途轍もなく遠く、憧れと呼ぶにもおこがましい様な物のように感じられてしまう。

 俺も、いつかアイツのように、ありのままで、誰かに必要とされる日が来るのだろうか。

 飾ることなく、それでいて自然体で、どこまでも適当なように見えて、物事をしっかりと見通すあいつのような………。

 

 集団戦闘の時もそうだった。アイツが指示を出し、それに仲間が従っていた。そのせいで、俺達は完膚なきまでに負けた。

 しかし、アイツが………戦わなかったアイツが参加しなくなってから、あのパーティーは相当弱体化してしまった。それこそ、“未熟な使い手に使われる”かのように、彼らの動きは点でバラバラで、まとまりのない物だった。

 それでも坂下の頑張りや、他の仲間との信頼などで、少しづつではあるが、あの時の形に近づいてきている。

 そうだ。あれを成したのは“あの男”なのだ。

 いなくなってから気が付かされた。全て終わってから知らしめられた。あの男の凄さを。

 完全に自分自身という個を殺し、仲間を手足のように扱うあの戦い。俺のように強い力がないアイツだからこそ、そうするほかなかったのだろう。

 俺なんかより、よっぽどあいつは現実を見ていたんだ。勇者の力にうつつを抜かし、ただ強力な攻撃や、バリエーション豊かな技に目をひかれていた俺とは違い、やつは常に最大公約数を見つけ出し、それを的確に戦場で扱っていたんだろう。


 どうすれば追いつける。どうすれば追い抜ける………

 そう考えれば考える程に、俺には一つの道しかないように思えて仕方がない。


 あいつが、皆の後ろから指示を出すボスなのだとしたら、俺は先頭に立ち、皆を率いるリーダーになればいい。幸いにも、俺には強力な力がある。だからこそ、アイツができないことを、やろうとしないことをやらなくてはならない。

 俺が、本当の勇者のリーダーにならないといけないんだ。

 今までのように、自分の力を信じて疑わない傲慢なリーダーではなく、ニッカ“さん”のような、自身の力を正確に理解し、やれることを確実に行えるリーダーに。


 もう、他の人のせいにしたり、誰かに依存するのは終わりだ。

 今ここで、傲慢で、高飛車な俺は死んだんだ。

 これからは、皆に信頼されて、皆の為に戦える本当の勇者を目指す“ただの転移者”の一人に戻るんだ。

 認められるために頑張るのは今までと同じだけど、今までのやり方じゃなくて、もっと、皆が付いていきたくなるような、俺の本当に憧れた勇者のような生き方を………今日から始めよう。この馬車を降りて、王都に着いたらまず二人に謝ろう。これまでのことも、そしてニッカさんのことも含めて。それと友綱にも、会長にも、そして坂下にもしっかりと謝らないと………だから………この涙も、弱音も、苦悩も最後にしよう。

 涙でぐしゃぐしゃの顔を何度も擦りながら、欲望に飲み込まれてしまった友人の最後を思い出す。

 口からは無意識のうちに彼の名前が零れ落ち、彼と過ごした懐かしい記憶が走馬灯のようによみがえってくる。

 この馬車が着くまでは、この思い出を抱いて涙を流そう。心の奥底から吹き上がる悲しみを、この場に置いていくために。


 

 新たなる決意を固め、俺は本当の勇者を目指すために立ち上がった。今までの行動が、頭の中に思い浮かび、自身の愚かさを悔いながら、俺は馬車に揺られ続けた。

 そして、王都に到着して二日後、俺はもう一度自分の愚かさを悔いることとなった。

 ランバージャックの誇る商業都市ビターバレーに、あの肉腫が現れ、旅の冒険者とその一団が大きな被害を出しながらも、その肉腫の根絶に成功したというのだ。


―――曰く、その冒険者は顔を隠していたが、伝承に記される神の剣を振るい、真祖殺しの吸血鬼と言う過去の大英雄と共に戦った。千の武器を操る古の勇者が、彼の愛してやまない故郷の為に蘇り、街を救ったのだという。

 





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