第116話 世界に嫉妬される美貌
それから俺達は森を一通り捜索し、人間が取りつかれた痕跡などを探しまわったが、結局他の人間が取りつかれたような痕跡は見つけることが出来ず、日が完全に上る前には森を後にしていた。
次の目的地は異世界都市コイキなのだが、あそこはかなり立地に癖があり、今の俺では向かうことも難しい。
そもそも、“今どこに”コイキがあるのか分からない。あのふわふわ浮かぶ島を探すのはなかなか面倒な事この上ない。
バルヴェニー辺りがいればすぐに見つけることもできるのだが、現在俺の“ブックマーク”は殆ど機能していないため、それができない。
今の所ブックマークに保存してあるのはチョコチとマッカランだけであり、俺の首に施されたバーコードに入っていた横線は既に消滅している。
「とにかく今は情報収集だなぁ………」
「そうすると、デカい街に行くのがいいンじゃねえですか?」
確かにそれも考えられるが、もっと簡単な方法を思いついてしまった。
要するに、見つけられないのなら“迎えに来させればいい”んだ。
「ビターバレーに戻りますかね」
「………支部に顔を出すつもりじゃねえですよね?」
「一応そのつもりだ」
そう言った俺のことをカリラはまるで奇怪な物を見ているような目で見つめてくる。まあ、そうだろうな。俺がどれだけあいつらに嫌われているか、千器の名前を知った後だと簡単に分かっちまうしな。
「安心していいぞ。俺はこう見えても人気者だ」
「どの顔で言ってやがるんですか」
フラグさんや。一体君はどこに行ってしまったんだい………。
よくある照れ隠しとかそんな感じじゃないんだよ?完全に言葉に殺意を乗せて打ち出してきてますよこれ。俺には見えない何かが心に確実にダメージ入れてますよ。
ビターバレーの中はやはりと言うか、当然のごとく既に人が動き出していた。朝日が建物を茜色に染め上げる街並みを見ながら、倒壊した建物の復旧に奔走する職人たちをしり目に、俺とカリラは改めて寝るために宿に戻った。
そして、ついにカリラは己の心のうちに秘めていた俺への恋心を吐露し、俺はそれを優しく受け止めた。初めての添い寝は少しだけ緊張したけど、それでも彼女の匂いを、感触を感じながら眠るのは、最高だった。
「いい加減にしやがらねえとその使えねえ脳みそはじきとばしちまいますよ」
「マジですみません………ほんと一回言ってみたかっただけなんです………悪意とかじゃなくて好奇心からだったんです………後悔も反省もしてますのでそうかそのギュインギュインをおしまい下さい」
宿に到着して、カリラが俺のことを部屋まで送り届け、自分の部屋に帰ろうとした所を、壁ドゥーンしたら、顔面をドゥーンされて、鳩尾にドゥドゥーンを食らい、倒れた俺の顔面をこれでもかって程ドゥドゥドゥドゥーンされたので、絶賛正座中です。しかもカリラたんが例のギュインギュインまで取り出して、それを俺の前で整備まで始めましたよ………。もう怖いとかそう言う次元じゃないよね。やるなら一思いにやってくれって感じ。死ぬことは確定だから、死に方くらい選ばせてって感じのやつ。わかる?
「今日の晩飯はハンバーグにでもしちまいますか………テメエの肉で」
「いやん。これで正真正銘俺とカリラたんが1つにな―――ちょちょっ!?さすがにそれは死ぬッ!ギャグパートでも死人が出るやつ!!!」
彼女が俺に投げつけようとしたナイフを叩き落とし、迫りくるギュインギュインに要塞龍の歯で作った巨大すぎて盾としての運用しかできない大剣をぶつけて何とか防ぐ。
まさかこんなところで生体魔具を使わされると思わなかったユーリさんです。
結局意識がなくなるまでシバキ回されて、目が覚めた時には日が完全に登り切っており、激しい痛みを伴う体に回復薬を浴びてからカリラたんを起こすために隣の部屋に忍び込んだ。
は?鍵?支配人の合鍵があるからそんな物ただのドアだよ。
「………カリラたん………抱き枕ないと寝れない系なのね」
俺の前には、眉間に皺を寄せて、厳しそうな顔のまま布団に抱き着くカリラたんがおります。いやーきっとこれってあれだろ?俺の夢見て抱き着いてるやつ。おじさん知ってる。
「………さっさと………死ねってんですよ………」
あ、これあれだわ、チョークスリーパー。不本意ながら予想通り布団はユーリさん役の様です。
やったね。女の子の夢の中にも登場するぐらい思われてるんだ!どんな思いかは別としてだけど。毛布がねじ切れそうな勢いで締め上げてるけど。何なら布団相手に膝撃ちまで入れ始めてるけど。
そろそろ起こそうかなと思ったけど、この時の俺はどうやら死ぬほど冴えてたようで、彼女の肩を叩こうとした手が急に止まった。
「まてまて。おじさんこのパターン知ってる。これあれだ。なんで俺がいるんだってなるか、夢と勘違いして殺されそうになるパターンだ」
ふっふっふ。この俺様をあんまり舐めるなよ神。俺が今までにどれだけ欲望を裏切られてきたと思ってるんだ。どれだけ理不尽な痛みを受けてきたと思ってるんだ。
部屋に忍び込んだこと?鍵あいてたからさぁ、仕方ないよね。いいかい?鍵は開いてた。それが結論だ。
だけど、俺はここで一つだけミスを犯してしまった。あの性格のわりに可愛いパジャマのカリラの写真を取らなかったことでも、むにゃむにゃ言いながら殺す殺す言ってる姿を動画に保存しなかったことでも、ましてや乳を揉みしだかなかったことでもなく、純粋にそれは………俺が不幸だというのを忘れてたことだ。
理不尽………圧倒的理不尽。そして、不条理。それが今俺の身に降りかかろうとしていた。
「あれは………まさかっ!」
見えてしまったのだ。カリラの着替えが。彼女の脱いだ服が。
これはもう………拝借するしかないじゃないか。そう思って足を踏み出せばあれですよ。もうね、なんでそもそも宿の中にそんなもんが転がってんの?バカなの?死ぬの?ってついつい思っちまうぜ。
なんせ、部屋の中なのに枝ポキしたんだからよ。
ここの宿しっかり掃除してくれよな。都合良過ぎだろ、もっとご都合主義は違う使い方出来ないの?主に俺のハーレムとかラブロマンスとかさ。
どうしてこうも死刑宣告ばっかりなのよ。そろそろ性格破綻してない女で、暴力振るわないヒロインが出て来ても良くない?なんで頑なに異常者か空き地でリサイタルしそうなのしか出てこないの?
「テメエの罪を数えやがれってんです」
「こんなにイケメンに生まれてごめんなさい」
縄でぐるぐる巻きにされて、窓から投げ捨てられた俺を、たまたま通りかかった親子がちらりと見て、速足で去っていく。
なんでさぁ「な、なんであんたがこんなところにっ!」とか言いながら顔赤くできないの?むしろ俺の顔が真っ赤だわ。主にマシンガンブローで。
「やっぱ俺この世界嫌いだわ」
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