第110話 ホンモノノチカラ
食事が終わり、皆が各々のテントで寝静まったころ、俺のテントにこっそりと虎太郎が入ってきた。
俺も寝るつもりはなかったので、しっかりと準備を整えて待っていたのだが、虎太郎も既に準備は終わらせているようだった。
「行くぞ」
小さな声でそう告げる虎太郎に従い、俺は彼に続くようにしてテントを後にした。
夜の森は、昼に見ていたものと大きく異なり、本当の意味で一寸先は闇のような状況だった。下手をすれば、帰る道が分からなくなり、ここで簡単に遭難してしまう気さえする。だけど、俺や虎太郎など、おおよその勇者にはそう言った事が起こらない、あるいは起こりにくい様な加護が与えられている。それのお陰で、俺と虎太郎は森の中を迷うこともなく、目的地に向かってすいすい進んでいくことができた。
と言っても、俺は目的地に心当たりはなかったんだが、虎太郎は食事の最中にその場所をなかなかの精度で割り出したと言っていたし、彼の自信あふれる足並みを見ていると、不思議と安心感さえ沸いてくる。
背の低い草を踏み、高い草は払いのけ、木々の間を潜り抜ける事20分ほど。チクチクと鬱陶しかった草が途端になくなり、周囲は開けた場所になっていた。
「どうやらついたみてえだな」
「そうだね」
一目でわかる。明らかに何かを祭る祭壇のような、そんな建築物。あれは自然にできた物でもなければ、知能の低い魔物が作ったような物でもない。
その中心に突き立てられた剣が、今もまだ神々しさと同時に、禍々しさを孕んだ気配を放っている。
剣を囲むようにはりめぐらされた太いワイヤーのような物。それの内側には木製の祭壇のような物が組み上げられており、各段には何かの置物や、魔法道具とわかるような魔力を放つ道具が置かれている。
虎太郎はそれらを一切気にした様子無く、中に入っていき、当然のことながら俺もそれに続いていく。ワイヤーは簡単に潜ることができるし、祭壇の周囲には魔族さえいない。
ゆっくりとした足取りで祭壇の前に来れば、遠くから見たあの剣が如何に凄いかも窺い知れる。その存在感だけでも鳥肌が止まらず、まるで日焼けでもしたかのように、肌がピリピリと小さな痛みさえ放ってくる。あれがきっと、隠された魔物を倒すための剣なんだ。
直感的にそう思った。ゲームでも、封印された魔物や、魔族の秘密兵器を倒すときには伝説の武器が手に入る。きっと、あれはそう言う類のものだろう。
虎太郎に一度アイコンタクトをして、お互いにうなずき合ってから、俺達は祭壇を登っていく。これから来るであろう大きな戦い。それに備え、装備も整えてきた。
これで、俺の奪われたものが全て戻ってくる。俺はなんの憂いもなく、今まで通りの勇者になれる。そんな期待に胸が張り裂けんばかりだ。
「―――ようやく追いついたぜお前ら」
「領域を犯すとはッ!愚かな!!!」
そこに現れたのは、魔族の男と、そしてニッカだった。
そうか、端からお前は魔族側の人間だったんだな。だから妙に俺達を敵視してたし、馬車も分けた………そうか!会長と友綱はあの馬車の中で洗脳されたんだな!
卑怯な事しやがって……絶対に許さない………。
「虎太郎」
「あぁ、分かってる」
俺と虎太郎は何を話すわけでもなく戦闘態勢を取る。
俺は剣を、虎太郎は肘まで覆い隠すガントレットを付け、腰を落とした。
「なんだよ。やろうってのか?」
「封印を解くことは許されないッ!」
ニッカは武器を、魔族の男は腰を落とし、深く息を吐きだしている。
そこからは、何の合図も無しにお互いが、まるで示し合わせたようなタイミングで動き出した。
俺の剣はニッカへ、虎太郎の拳は魔族の男へ向かったが………
「まあ、及第点ってとこだが、所詮そんなもんだよ」
俺の剣よりも一回り小さな剣で攻撃を防いだニッカは、直ぐに逆の手で同じ大きさの剣を抜き、それを振り抜いてきた。
間一髪のところでそれをバックステップで回避することに成功したが、一度ニヤリと笑みを浮かべたニッカが、なんと手に持つ剣を投げてきた。
ぎりぎり、間に合う。そう思って剣で撃ち落そうと思った時、その剣の陰に隠れるように、その剣よりも早い速度でこちらにナイフが二本飛来してきているのに気が付いた。
「う、おぉぉおおおっ!?」
剣が脇腹を、ナイフが右の二の腕と頬をかすりながらも、地面を転がることで何とか回避することができた。
立ち上がったら、聖属性のシャインソードで武器ごと両断してやる………そう思って立ち上がれば、既に眼の前には剣を突き付けた状況のニッカがおり、横目で見えた虎太郎は、魔族の男に吹き飛ばされていた。
「なんで………なんでなんだよ!アンタは人間の仲間じゃなかったのか!どうして裏切ったんだ!答えろよ!」
「はぁ?何言ってんだお前。裏切り行為はテメエのことだろうが。あのパーティーじゃ、俺の決定はパーティーの総意だ。それを反故にしてんのはテメエだろ」
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