第109話 ユウシャタチハアンヤクスル

◇ ◇ ◇


 友綱………嘘だよな………まさか、お前まで俺を裏切るって言うのかよ……。

 どうして、どうしてだ。

 俺の何がだめなんだよ………俺はただ、勇者として、それに相応しい立ち振る舞いを………。


 一人、頭を抱えてしまいたくなるような先ほどの光景を思い出しながら食事を食べていたが、周囲の話し声も、食事の味さえも、今の俺には全くと言っていい程感じられないし、聞こえることもなかった。

 そんな時、俺の肩を少し強めに叩くものが現れた。

 驚きながらそちらに視線を移してみると、そこには少し身をかがめ、周囲の視線を気にしているような虎太郎がいた。


「刀矢、さっきの話………聞いたか?」


 さっきの話?それっていったい………


「聞いてなかったのか?まあいいや。とにかくだ、あの魔族はぜってえいい奴なんかじゃねえ。そう思わねえか?」


 声を押し殺すようにそう言ってきた虎太郎。俺もその意見には賛成だったし、なんで会長があの魔族を殺さずに側に置いているのかが分からない。


「へへっ、その顔を見ると、やっぱ刀矢も真実に気が付いた見てえだな。俺もそうだ。あの魔族の言ってた魔物、きっとあいつはそれを守るためにこの周辺を見張ってやがったんだ。絶対その魔物を使って悪さをするに違いねえ」


「あ、あぁ、たしかにそうかもしれない。そもそも、監視をしていたのはその魔物の事じゃなくて、それを奪いに、あるいは殺しに来ている俺達みたいな人間のことだったのかもしれないな」


「皆騙されてんだ。だけど、ここまでのことで俺とお前はどうにも信用されていないみたいだし、たぶん話しても信じてもらえないと思うんだよなぁ」


「た、確かに………でも、会長だったら………ひょっとして俺達を試すためにわざとこんなことをしてるのかもしれない………」


「いや、それは考えにくいな、会長がそこまでする意味がねえし、それに会長はどちらかと言えばあのチンピラ共の方に近い気がする」


「………じゃあ、どうするっていうんだよ………このままあの魔族を野放しにしておくつもりか?」


 そんなことは、勇者として絶対に許せない。それに、あの魔族が匿う魔物がもし強力な魔物だったら、多くの人に被害が及ぶことになる。そんなことは絶対に認められない。


「………そこでだ。夜中、みんなが寝静まった辺りで、俺と刀矢の二人で魔族の隠してる魔物をぶっ殺しに行かねえか?」


「………そんな危険な事は………」


「大丈夫だって。それに、あの魔族の話し的にその魔物は封印されてるみたいじゃねえか。今ならなんの問題もなくぶっ殺せるぜ?」


「だけど、やっぱり二人で行くのは危険だ。だったら会長も…………それから………」


「友綱か?あの裏切り者も、俺達の正しい行いに本当に参加させちまっていいのかよ」


「………いや、でも………」


「きっと俺とお前だけで今回のことを成功させたら会長も、それに坂下もお前のことをしっかりと認めてくれると思うんだがな………」


 会長が、それに、坂下も………“アイツ”に奪われたものが、俺の元に帰ってくる?

 会長はあいつが消えてからおかしくなったり、いつもいつもあいつのことばかり話していた。それがどうしようもなくむかついて、俺は大塚を更に嫌いになってしまった。だけど、今回のことで、俺の活躍が認められれば、会長の中であいつの事は消えて、俺をもっと気に掛けてくれるようになるかもしれない。

 それに坂下だってそうだ。あいつのパーティーに勝手に行って、勇者パーティーである俺達の邪魔までしたんだ………だけど、幼馴染だし、それにいつも頼ってくる坂下が、アイツに引き込まれて、少しずつ俺から離れていくのが、なんだか悔しくて、寂しくて。

 友綱も2人と同じだ。あいつは関係ないけど、それでも、友綱はこの世界に来て変わってしまった。今までのように、俺のことを助けてくれてればよかったのに、何故か自身が前に出て、何か解決したり、何かをしようと動くようになっている。

 今迄からすればそんなことはなかったのに、どうして急にそんなことになっているのか、どうしてあいつは、会長とあんなに親し気に、それも、手まで………。

 あいつを、もしかしたら出し抜けるかもしれない。今はたとえ友綱に靡いていたとしても、俺は真の勇者なんだ。その真の勇者の俺が、負けるはずがない。

 何としても、結果をだして、そして、友綱からも、アイツからも、奪われたものを取り返してやる。


「―――あぁ、分かったよ。覚悟は……もう決めた」


「あぁ。誰が本当の勇者で、誰が本当に正しいのかあいつらに分からせてやろうじゃねえか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る