第106話 カクサレタシンジツ、ソレガイマアカサレル
「―――なっ何してるんですか会長!」
これを行ったのは間違いなく会長であり、彼女の個性である時空間操作によるものだというのは容易に想像ができた。
「この魔族は敵ではない。私も些か鈍ってしまっていたようだ。それに、黒鉄の皆さん、申し訳ない。無駄な手間を掛けさせてしまった」
何故かボロボロになり、その場に膝をつく魔族の横でニッカさんたちに向かって頭を下げた会長。
そして、そんな会長の顔を見て、驚愕に表情を歪める魔族の男。
「君は恐らく穏健派の魔族だね?」
「貴様は―――っ!?―――!」
何かを言おうとした魔族だが、突然その魔族の声は俺達に届かなくなってしまった。
「声とは音、音とはつまり振動だ。如何なる振動だろうが、時間が経てばいずれ収まるものだよ…………さて、何故私がこの魔族を助けたのか疑問に思っている諸君に説明しよう。この魔族は“この地を守っている”だけに過ぎない。それに、過去の勇者が先代魔王に加担した過激派の魔族を軒並み処刑したのは知っているだろう?」
確かに、その話は王城で受けさせられている座学の勉強で聞かされた。全ての魔族を屠ったわけではないが、表立った反乱分子は処刑したそうだしな。
「突然襲い掛かってきたのも、それに先ほどの炎を放っても、こちらに近寄ってこなかったのも、彼らが私達に害意がある訳ではなく、純粋にこの地を守りたいからだと私は判断した。もし私の判断が違ったとすれば、その時は私が責任を持ってこの魔族を殺そう。この世界に一片の欠片も残さずにね」
会長は一度手を翻し、何かを言おうとする魔族に施した“何か”を解除した。
「―――っ!?はぁ、はぁ、はぁ…………き、貴様やはり…………」
「おっと、それ以上の発言は看過できない。殺すか、また黙らせるかして口を封じなくてはならなくなるが、それでもいいか?」
そう言えばさすがの魔族でも何も言い返すことが出来ず、押し黙るしかなかった。
「さて、いくつか質問しよう。君は何を守っているんだい?なぜ魔族の、それも穏健派がこんなところに」
「今では過激派も穏健派も区別ない。そう言っていたのは100年ほど前の連中くらいのものだ。そして我々魔族はこの地に封印される魔物を監視し、管理する役割を、“あるお方”から賜っている」
あるお方…………魔族がそんなことを言う相手なんて魔王くらいのものだろうと思うが、どうにも会長はそのあるお方とやらに心当たりがあるようで、顎に手をやり、何かを考えているような姿を見せた。
「ニッカさん。今日はここで一晩明かすのはどうだろうか。彼から話も聞きたいし、それに…………トリスさんがとても動ける状況ではなさそうだしね」
会長の言葉を聞き、視線をトリスさんに向けて見れば、顔色は蒼白で、唇も少し青い。そればかりか、呼吸もひどく浅く、早い物を繰り返している。
俺達に気が付かれないようにしていたのか、肩が上下していないことや、今も普通に立っていること、森の中ということも含め、注意してみなければ分からないレベルだろう。
「さて、話しもまとまったようだし、さっそく君たちはテントの用意をしてくれ」
様子をうかがっていたように見える刀矢と虎太郎にそう言うが、二人はその場から動かなかった。いや、動けなかったのだ。恐らく、今彼らを少し小突けば、そのまま背後に倒れてしまうだろう。
そう思えてしまう程、今の二人は情けない姿をさらし、それを必死に取り繕おうとしていた。
かくいう俺も、まるで足の裏から地面に根でも下したかのように、その場から動けない。
理由は一つだ。魔族の放つ魔力にあてられてしまった。ただ、それだけのことだ。
ドライブフォース、魔族の男がそう言った魔法を使う瞬間、そのまありの魔力量に、俺達の足は止まり、動くことさえままならない状況になってしまっていた。
それを食い止めたトリスさんの魔法もさることながら、三人がかりでやっとだった魔族を、まるで相手にさえしていない会長に、俺は更なる恐怖を覚えた。
「あぁ、それと、宮崎君、君は残ってくれ」
会長がこちらを向き、そう言ってきた。
恐らく、先程聞かされた話にも関係のある話なのだろう。
恐怖に震え、竦んでしまった足から生える目に見えない根を強引に引き抜き、俺は会長の眼の前に立ち、言わなくてはならないことを言ってやった。
「―――俺は…………宮本ですッ!!!」
「―――っ!?なん………だとっ?」
そんな驚くことなのかよ。と言うかこの驚き方から察するに、今まで俺のことを宮崎だと思って疑ってこなかったんじゃないだろうな。
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