第104話 ユウキトムボウ
「つまり…………会長は…………大塚の弟子だったってことですか?」
「やはり君は気が付いていたようだね。そうだよ。私も……そして彼も、この世界に来るのは500年ぶりの二週目なのさ。まぁ彼は私の事など覚えていないようだったがね」
あいつがそうだろうとは思っていた。あいつがあの時俺達の目の前に現れ、そしてそれを会長は千器だと言った。それと、聖十字の騎士団の団長が話してくれる内容からも、そうだろうと察していた。
だけど、まさか大塚が、世界を救った勇者の師匠だったなんて思いもしなかった。
「俺…………あいつと摸擬戦した時に一切手ごたえを感じなかったんです。まるで素振りみたいで、なのにあいつは吹っ飛んで…………」
「彼はね………私や君、他の皆のような“勇者の力”も“神の加護”も“世界の寵愛”だって持ってはいないんだよ。だけどね、彼が実践の中で磨き、会得した技術は今の私であろうと、どんな最強であろうと再現することができないし、理解することもできないような、異常な領域にあるんだよ」
「世界を救った勇者が、理解もできない…………ですか?」
「何の力もなく、召喚後たった3日で、魔物の討伐訓練の最中に遭難し、行方をくらましてしまった彼だからこそ、そう言った物を身に着けなくては生き残れなかったんだ。この“強者ばかりが集まる世界”でね。そんな彼が、一番最初に教えてくれたことが、武器のことなのだよ。武器が相応しくなければ、相手は倒せない。仮に倒せたとしても、必要以上の時間や、労力を掛けなくてはならない。強い私達であれば問題ない事だが、弱い彼にはそれが致命的になる。時間をかければかける程、他の敵や、第三の敵が現れる可能性がある。そうなれば“一対一”に限りなく特化した彼では、どうしようもない。だからこそ、彼はより効率的に、効果的な方法で、圧倒的なまでに相手を倒してしまうんだよ。まあ、“彼の領域”が展開されれば、文字通り彼に全く隙はなくなるどころか、世界中の全ての国が手を組もうが、彼を“椅子から立たせる”事さえできないだろうね。そもそも、普段の彼を“本当の彼”だと認識してしまった時点で、彼の滑稽な姿に何か思った時点で……いいや、もっとそれ以前の、彼が何も持たない男だと感じた時点で、既に彼の術中なんだよ。彼は自身の生き方さえも、生き残るための道具にしてしまっているんだ」
「…………なんであいつは…………そんな力があるのに魔王を倒さなかったんですか?」
「誤解してはいけない。“彼に”力は殆どない。だが、“彼の”力が埒外のそれなのさ。彼は決して強くはない。それは覆しようのない事実だ。だが、彼はそれと同時に、絶対に負けない。相手がどれだけ強大だろうが、どれだけ異常だろうが、どれだけ理外に存在していようがね。だからこそ彼はとある組織の最高幹部達から“
若干理解ができないような話だ。だって、会長はあの時、俺や刀矢が認識するよりも早く刀矢を倒してしまったんだ。どんなに凄い技があろうと、認識する前に倒されてしまっては意味がない。
文字通り手も足も出ないはずだ。なのに、なんで会長はそこまで大塚のことを…………。
「まあこの話はまた暇な時にでもしてあげるよ。私のことを時空の覇者だと知っている人間は聖十字の団長と、あとは千器、そして黒鉄の団長くらいのものだろうね。彼らは信頼できる人間だ。この国にこれから何かあった時は聖十字の団長か、黒鉄を頼るといい」
まるで、これからこの国で何かが起こるような、そんな言い方だな。
「何となく話は分かりましたが、やっぱり納得できない部分はあります」
「そうだろうね。まあ、そうなるのも仕方がない事だと思うよ。だから、君は一度壁に当たって、絶望するといい。そうすれば賢い君のことだから、きっと自らの力で答えにたどり着くはずだ」
そこまで話をして、会長は颯爽と黒鉄騎士団の方々の所に戻っていった。当然、その場に残された俺は釈然としない感情を胸の内に秘め、一人悶々とする感情を押し殺していた。
「…………須鴨さんに会いたいな」
急に、本当になんの前触れもなく須鴨さんに会いたくなった。
最近は結構話しをするようにもなったし、二人で食事したり、こっそり特訓したりもするようになってきた。恋愛経験はないけど、これは世間一般で言うところの“結構いい感じ”なのではないだろうか。いや、是非ともそうであってほしい。
そんな馬鹿なことを考えながら、俺は皆の元に戻った。
既に食事の用意は終わっていて、器用で要領のいい刀矢が作ったそれなりの食事を黒鉄の方も一緒になって食べた。
食事中も刀矢と虎太郎はピリピリしてたけど、それでも食事は滞りなく済み、いざ出発しようとした時だ。
「―――っ!?伏せろッ!!!!」
ニッカさんの声が聞こえると同時に、俺達は…………“魔族”と呼ばれる存在に襲われる事となった。
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