第103話 ヒトノケッテンハスグニミエルケド、ジブンノコトハソウデモナイ

 俺の言葉を聞いた会長はなぜかニヤリと笑みを浮かべると、再び真剣な表情を浮かべた。


「さすがは勇者と言いたいところだがね、今の君が、勇者達が如何に強力な個性を持っていようが、どれだけ上手く個性を扱えようが、対人戦では聖十字騎士団の上層部には全く歯が立たないし、総合的な戦闘能力では黒鉄騎士団の足元にも及ばない。君が何を持って自分が強くなったと思っているのかはわからないが、所詮小さな魔物に対する強さだ。それは必ずしも“存在としての強さ”というわけではないのだよ」


「どういう……ことですか?」


「わからないことを素直に聞くことができるのは君の美徳と言っていいだろう。さて、では君はなぜあのような“小さな魔物”に勝てるからと言って、対人戦を得意とする連中に勝てると思ってしまったんだい?」


 言いたい事はわかる。彼らは対人戦を鍛えているから魔物との戦いでは本来の力を発揮できないと言いたいんだ。だけど、普通に考えて、いくら得意だからと言っても、彼らが苦戦し、逃げ出した相手を倒せる俺が、彼らに負けるはずがない。そう思えてしまうのも事実だ。


「君、武器はいくつ持ってる?どんな形状で、どんな系統だ?」


 追及するように、会長が俺に言葉を投げかけてくる。

俺の中で答えは出ているんだけど、どうにも会長は俺の意見を覆させたいんだろう。


「俺の武器はこいつだけです。使い慣れていない武器をいきなり使うのは怖いですし、他の武器を使って、今の武器を疎かにしたくないんですよ。俺の個性は“サムライ”ですから」


 武器を持ち換えるのももったいないし、それに、他の武器を使うメリットがない。


「じゃあ君は刀で金属を纏うゴーレムと戦うのかい?金剛石の甲殻を持つ土竜を切り裂くのかい?君たちの認識している最高の硬さを持つ物質以上の硬度を誇る外殻を持つ龍に、それで挑むというのかい?」


「……えぇ、挑みますよ。金属だろうが、ダイヤモンドだろうが、もっとすごい硬さだろうが、何だって切り裂いてやりますよ。一撃でだめなら二撃で、それでもだめなら……斬れるまで斬ります。会長が何を知っているかわかりませんが、俺はサムライの個性を得て、刀を扱うことが最良だと王に言われました。それを鵜呑みにしたわけではないですが、サムライの個性なら刀が相性がいいと俺も思いました。だから刀を使い続けます。他の武器の鍛錬なんかしてる暇があるなら、俺は刀を極めて、切れない物がない大剣豪になりますよ」


 今の会長はハッキリ言えば………少ししつこい。そもそも会長は武器さえ持っていないくせに、どうして俺の武器のことばかりぐちぐちと言って来るんだ。


「やはりそうだよね。そうなるとは思っていた。かくいう私も“最初”はそう思っていたんだよ。だけどね、そんなアニメや漫画のような事は、この世界ではほとんど起こらない。私達勇者の力……それこそ上位の勇者や英雄の全力に耐えられる武器が、この世界には殆ど残されていない。だからこそ、他の武器を持ち、敵に有った武器を使い、敵に有効な武器で仕留める。それがこの世界の戦い方であり、生き残り方だ。刀なんてものは所詮人間、ひいては私達とさほど大きさの変わらない相手を殺すために作られた道具でしかない。人間を殺す道具が魔物に通用するのは……存在として人間よりも下位の存在を相手にしているだけだからなのさ。それと同じで、騎士団の役割と言うのはそれ以外を想定していないのだよ。あえて、ともいうがね。彼らは騎士団であり、一つの武器なのさ。だから彼らはトータルパフォーマンスなんかよりも、ただ特定の相手を制圧、あるいは殺すことに特化しているんだよ」


「……会長は……一体何者なんですか……」


 分からない。会長の言っていることが。それに、どうして俺達と同じ生活をしているはずの会長がそんなことを知っているのかも。


「私かい?内緒にしてくれるなら教えるが?」


 少しいたずらっ子のような表情になった会長が俺にそう言って来る。


「はい。大丈夫です。絶対に言わないです」


「そうか……じゃあ信用するよ。まあ最悪は君も、そしてランバージャックの上層部も皆殺しにすれば問題ないんだけどね」


「さっき会長が自分で言ったじゃないですか“今の勇者達が如何に強力な個性を持ってようが、如何に個性を扱えようが勝てない”って」


「あぁ。だから言っただろう?“今の勇者”と」


 それって…………まさか…………


「そうだよ。私は500年前、この世界を救った勇者である―――時空の覇者だ。そして…………千器の弟子の一人だった女さ」


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