第101話 コンビニッテイガイトオサケウッテル

◇ ◇ ◇


「それにしても……嬢ちゃん、あんた何もんだ?」


 揺れる馬車の中で、先程までとは打って変わって、笑みを絶やさないニッカさんが、会長に話しかけた。


「内緒だ。ただ、少しだけ腕には自信があるとだけ言っておこう」


「かーっ!こりゃ大物だわ!それと坊主!おめえもなかなかいい線行ってたぜ?なんせ俺の剣が見えてた見てえだしな!」


 そう言ってニッカさんは隣に座る俺の頭をぐしゃぐしゃと少し乱暴に撫でてくる。本来は人当たりのいい、優しい人なんだろうな。


「お、俺はそんなんじゃないですよ。あの速さをどうしようもできないって思ったんで、剣じゃなくて刀矢を止めたわけですし」


「かっかっか!それでも大したもんだよ!俺があのデカい奴を剣の腹でぶっ叩いたの見て、どうしようもねえって思ったんだろ?それであいつを止められるだけの判断力があるってこった!」


「いやいや!買いかぶりですよ!」


「そう謙遜するな。君の努力は私もしっかりと見ている。君は坂下君の次くらいに今の勇者では強いだろう」


「やっぱ俺坂下に抜かれちゃったんですね……最初は勝ってたんだけどな……」


「あぁ?この坊主よりやれるやつがいんのか?そいつは楽しみだな」


 馬車の中は賑やかなまま、会話が弾み、会長も珍しく笑顔を浮かべている。 

 ここ最近、と言うかあの仮面の……おそらく大塚を見てからどことなく元気がない様子だ。会長ってもしかして大塚のこと好きなのかな。


「会長って大塚のこと好きなんですか?」


 つい、気になって聞いてしまった。 

 この空間があまりにも居心地のいい空間だったからか、それとも、ニッカさんの軽い空気にあてられたのかもしれない。

 だけど、会長は少女漫画のようなてんぱったリアクションは見せず、普段ドおrの態度で柔らかく微笑んだ。


「あぁ。好きだよ。大好きだ。父の様に慕い、師のように仰ぎ、未知のように興味を引かれる」


 それって恋心ではない気が……確かにあの時の会長は恋人に向かっていくというよりも、薬物中毒の人の目の前に薬物をぶら下げたような、若干そんなジャンキーな感じがしたけど。


「んだ?嬢ちゃんは好きな奴がいんのか」


「あぁ。千器が大好きだ」


 あれ。それって副団長さんに口止めされてなかった?


「かっかっか!千器様と来たか!……だがよ、その話はこの国ん中だけにしとけよ。外に出りゃ千器に恨みがある連中なんざ山ほどいる。特に統制協会の連中は千器を毛嫌いしてやがるからな。迂闊に話して目でもつけられたらたまったもんじゃねえ」


「そうだな。千器は功績は人にくれてやるくせに、恨みだけは独り占めにしてしまうからな」


「……あんた、千器についてやたらと詳しいじゃねえか。どこでそんな話を聞きやがったんだ?」


「それはあなたこそだ。私が千器に詳しいのは当たり前だが、そう言うあなたこそ、どうやらそれなりに詳しいみたいじゃないか」


「まあ千器っていや異世界から来た勇者様だからよ。あんたがもしかすると千器と同じ世界から来たってんなら納得だが、俺は……いや、俺達黒鉄に所属してる連中は全員千器って名前にゃ返せねえくれえの恩があるんだよ」


「そうだろうな。黒鉄騎士団と言えば、かつてのJB……闇社会のまとめ役をやってる組織との抗争に負けたホワイトホースの生き残りだと聞く。全員が納得とはいかないが、国の為に戦うことで、今までの罪を免責され、過去を清算させられたのだからな」


「―――っ!?こ、こいつはたまげたな……そこまで知ってやがったのか。そうだよ………俺達はもともとホワイトホース、闇組織の一つでな、JBの連中にシマを追われて、路頭に迷いそうなところを、千器に拾ってもらったんだ。それから外の荒事専門の騎士団、黒鉄として代々国に仕えてるってわけだ。まあ、俺も爺さんから聞かされた話だからどこまで本当か分からねえがな」


「―――ふふ、本当だとも。あぁ、全て、本当のことさ」


 なんで会長はこんなに事情通なんだろう。確かに最近騎士団長と二人で夜中に白を抜け出したりしてるらし、騎士団長はかなりの千器オタクだから、その影響なのかもしれないけど。


「お、そろそろ休憩地点だ。俺はまたしかめっ面しなくちゃならねえからよ、お前らも上手くやれや」


「ありがとう。有意義な時間だった」


「ありがとうございます」


「まあ、本来なら魔物討伐の心得とか、これからどうするのかを聞こうと思ってたんだがよ。そこの嬢ちゃんがいりゃ、巨人でも出ねえ限りは大丈夫だろうし、話すことがなくなっちまっただけだよ。おら、さっさと降りた降りた。飯の支度は下っ端の役目だからな」

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