第4章 勇者再び

第100話 ユウシャノタビダチ

「これより、商業都市および、その周辺地域の魔物征伐に赴く。初めての遠征ということもあり、分からないことも多いだろうが、今回は騎士団の中でも特に実戦に特化してる黒鉄騎士団から三名をを同伴させる。現地での動きについては彼らの指示に従うように」


 近衛騎士の人がそう言って、俺達の前に、皮鎧を身に着けた三人が現れた。

 その人たちは皆、とてもじゃないけど騎士と呼ぶには相応しくないような見た目で、街のチンピラだと言われた方がはるかに納得できるような人達だった。


「俺が今回の遠征の監督を任された黒鉄騎士団のニッカだ。後ろのはジムとトリス、まあ覚えなくてもいいが、指示には従え。生き残りたけりゃな」


 頭をかきながらそう言ったニッカ。こんな連中が本当に騎士団なのか?それに、装備だって鎧ではなく、皮じゃないか。あんな物で魔物の攻撃が防げるのか?


「初めまして。俺は勇者の神崎だ。後ろにいるのは右から友綱、虎太郎、京独綾子だ」


 一人ずつ紹介していては時間がかかってしまうので、こちらも紹介は端折らせてもらって構わないだろう。それに、ハッキリ言ってこんな人たちに礼儀正しくする必要はないしな。


「初めまして、紹介に預かった京独綾子だ。黒鉄騎士団の活躍はかねがね伺っている。今回の遠征で黒鉄の皆様とご一緒できることを光栄に思うよ」


「か、会長っ!」


 こんな薄汚い連中に頭を下げる必要なんかないのに……そう思てったら、今度は友綱まで勝手に自己紹介を始めた。

 最近の友綱はどこかおかしい。前まで俺の言うことはなんだかんだ言いつつも従ってくれたのに、最近になって急に自己主張するようになってきた。

 なんだかそれが無性にイライラする。


「初めまして、さっきも紹介してもらったけど、俺は宮本友綱です。ニッカさんに、ジムさん、それにトリスさん。今回はよろしくお願いします」


 なんなんだよ。勝手なことばっかしやがって。これじゃあまるで、俺達勇者がこの汚い連中の下みたいじゃないか。


「けっ」


 虎太郎が機嫌悪そうにそっぽを向くのを見つつ、俺はそれにどこか安心感を覚えてしまった。たぶん、他のやつと違って虎太郎だけは俺の知ってる虎太郎のままだったからだと思う。

 この世界に来て、もうそろそろ2ヶ月になるけど、今回が初めての王都から大きく離れた場所への遠征だ。他の連中はまだグズグズやってるみたいだけど、真の勇者の俺と、会長、それに虎太郎がいる俺達のパーティーが他の連中と同じなはずがない。


「虎太郎、頑張ろうな」


「あぁ。今回で俺達の実力を上のやつらに見せつけてやんだ。そうすりゃもっとレベルのたけえ仕事が回ってくんだろ」


 軽く出した拳に、虎太郎が拳を当ててくる。こいつはいつもそうだ。考え方はレベルが低いけど、本質的なところでは大事なことに気が付けるやつなんだ。

 だけど、他の連中はそうじゃない。俺達だけが本当の勇者パーティーで、俺だけが本当の勇者なんだ。差し詰め、虎太郎は勇者パーティーの格闘家って感じだな。俺と一緒に前線で戦って、後衛を守ってやる立ち位置だ。


「さて、じゃあ早速行こうか!」


 いくらか機嫌のよくなった俺に続いて、パーティーメンバーが歩き出す。

 その前を黒鉄の連中が歩いているのが気にくわないけど、馬車の位置が分からないから仕方がない。


「か、会長!遠征頑張りましょうね!」


「ああ、そこにいたのか。うんそうだな。頑張ろう」


 最近の綾子も、やっぱりおかしい。いつも何か考え事をしているみたいだし、夜になるとふらりといなくなることもよくある。

 食事に誘いに行くとたまにいないので、担当給仕に聞いてみれば、どこかのパーティーの人と話をしているって言ってたし。

 それに何より、なんで綾子は俺よりも友綱と仲が良さそうなんだ?俺の方が綾子に話しかけてるし、ジョブだって強いはずなのに。どうしてあいつなんだ。


「友綱、ちょっと来て」


「なんだ?どうかしたのか?」


 しらじらしい奴だ。どうせこいつも綾子のことを狙ってんだろ。いつも俺の陰に隠れてたくせに、急にこの世界に来て自分の方が凄いとでも思ったのか?だから身の丈に合わない綾子のことを狙ってるんだろうな。まあ、どうせ無駄だけど。

 こんな奴が綾子に相応しいはずがない。それに雅もそうだ。今はこっちに慣れてないから色々模索してるようだけど、その内どうせすぐ俺に頼ってくるに決まってる。

 あいつらはいつもそうだった。何か困れば俺を頼って来て、俺に縋ってたんだ。異世界に来たからってそれがどうにかなるとは思えないし、変わるなんて思えない。


「これからは二手に分かれて移動すっからよ。とりあえず、そこの姉ちゃんと、あとお前、お前らは俺と同じ馬車に乗ってもらう。残りはトリスとジムと同じ馬車だ」


 は?何を言ってるんだこいつは。なんでわざわざ別の馬車に分かれる必要があるんだよ。


「反対だ。これから初めての遠征に向かうんだ。フォーメーションの確認やチーム内の意思を統一するために俺達はまとまって乗った方が良いに決まってる」


「あぁ、俺も同意見だな。なんでわざわざ分けられなきゃならねえんだよ。お前らなんか勘違いしてる見てえだけどよ。俺達は勇者なんだぜ?テメエら三流騎士団なんかとは比べ物にならねえ貴重な存在なんだ。それがどうしてテメエらの指図をいちいち聞かねえといけねんだよ」


「言いたいことはもうねえか?じゃあさっさと分かれて乗り込めよー」


 俺と虎太郎の話しを無視しやがった騎士団のやつが、手をひらひらさせながら馬車に乗ろうとし始めた。

 こんな奴らに相手にされないのもむかつくし、態度もむかつく。こいつらは本当に騎士なのか?どう見ても傭兵崩れにしか見えないぞ?


「待てよッ!」


 虎太郎がそう言って、騎士…たしかニッカとか言うやつの腕を掴んだ。

 体格差は殆どないし、虎太郎の方が腕っぷしは太く見える。力じゃ虎太郎が負けるはずもないしな。


「―――びゅ!?」


 そう思った瞬間だった。

 虎太郎の体が俺の横を通り、後ろにあるもう一台の馬車の扉をぶち抜いていた。

 何かの個性か、トリスとジムのどちらかが攻撃を仕掛けてきたのか?


「別によぉ、テメエらの面倒見るのなんざどうだっていいんだ。最初にもいったが、いう事聞けねえならどうせ死ぬんだ。それが街ん中か、森ん中の違いしかねえんだよ。死にたくなけりゃ従え。死にてえならいくらでも突っかかってくりゃいい。次はこんなに優しく教えてやらねえからよ。授業料はテメエの命だと思いな」


 ガラガラと音を立て、馬車の中に吹き飛ばされた虎太郎の体が重力に従って倒れるのを見て、俺はついに我慢の限界が来た。


「お、おま―――っ!?」


 飛び出そうとした俺の前に、友綱が飛び出して、つんのめってしまった。

 だけど、もし、友綱が止めてくれなかったら……俺の首は友綱の目の前に突き出されたナイフではねられていたかもしれない…………。


「やっぱ俺の目に狂いはねえ見てえだな。それに……その“物騒な”もん……しまってくれねえか?おやじにゃ、それはちっときつい……」


 こいつは何を言ってる?どうして怯えて動けない綾子に視線を向けて、そんなことを言っているんだ?


「は……はは、これは、想像以上じゃねえか……」


 


 結局その後俺は虎太郎の様子を見に馬車に乗り込んで、そのまま出発させられてしまった。あのニッカとか言うやつの思惑通りに事が運ぶのはむかつくし、我慢ならない。どうにかして、アイツを出し抜いてやる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る