第84話 基本的に何されても業界的にご褒美になるんです
「ヤダよ。なんでそんな勿体ないことしなきゃならねえんだ。美少女のケツ拭くとか俺ほどの変態になるとご褒美以外のなんでもねえんだよ。むしろ嬉々として拭きに行くね。うん、絶対」
「ばっかじゃねえんですか!?この状況が!あの戦乙女と二人でようやくどうにかしたバケモンが溢れかえってるってのに、どうしてテメエはそうなんですか!それにテメエは言ってやがりました。ブランクが、とか、なまってるっ……って!それじゃ、戦乙女がいねえだけじゃなくて、もっと最悪の状況じゃねえですか!それなのになんでテメエが私のケツ拭くとか抜かしてんですか!雑魚で無能で!何の力もねえテメエが!なんでこんなことをしなくちゃならねえってんですか!」
目に涙を貯めこみ、感情を爆発させたカリラ。確かに昔はチョコチと2人でぎりぎりどうにかなった。それに、今の俺はあの頃よりも明らかに鈍ってるし、チョコチだっていない。
だけど、それでも行かなきゃならねえんだよ。
「…………
「それだけの…………理由でテメエは…………」
「それと、最近俺のハーレム候補に入った不器用な奴隷がいるんだけどさ、そいつが何か気にしてるみたいだし、ここいらで少しだけカッコつけてポイント稼いどかねえといけないからさ」
何かを言おうとするカリラを糸で拘束し、そのまま人がいなくなった宿の一室に投げ込む。
申し訳ないけど、そこで大人しくしててくれ。じゃないと、結構やばいんだ。
「んじゃ行って来るわ」
部屋を出て、後ろ手にドアを占めれば、背後からは俺に文句が大量に飛んでくる。
でも、マジで巻き込むわけにはいかないんだよね。結局“コイツ”のせいで俺は、もう一人連れていた方の弟子を死なしちまったわけだし。
「今度こそ、完全に殺してやる」
仇討ちなんか趣味じゃねえんだけどさ。まあ、こいつの本体の見つけ方は大体わかってるし、さっさと本体をぶっ殺して、この騒動を終わらせるとしようかね。
宿を出て、まず初めに探したのは“寄生されている”人間。
周囲一帯を見回しても、茜色に染まる街並と、干からびた死体が転がっているだけで、他に何も見えない。
仕方ないので干からびた死体に近寄り、剣で死体をひっくり返すと、肉腫が寄生していた痕を発見した。
「向こうか」
肉腫は、人間の体温を感じ取って近寄っていく。視覚がどうなってんのかなんざ分からねえが、過去に閃光灯を使っても、本体だけは俺のことを感知してきやがった。肉腫の構造なんざ分かりゃしねぇが、それでも、この死体から離れた肉腫が這いずった痕は目を凝らせば見つけることができる。
傷跡を見たのは、この死体がどれくらい前にできた物かを確かめるためだ。
「時間がねえな」
急ぎ、肉腫が向かっている場所に、俺も駆け出す。
肉腫が向かっているのは、ビターバレーの巨大商業施設……カリラを買った建物で間違いないだろう。
「ったく……統制協会のバカ共は何してやがんだよ」
せっかく支部があるってのに、こんな時に出てこねえとかどうしたんだっての。
ひょっとすると、避難に行った連中でごった返して動けなくなってんじゃねえだろうな。
面倒がさらに増えやがったな。しかし、それにしても想像以上に感染者が少ない…………俺の想像の1/100くらいじゃないか?
統制協会のやつらが活躍してんのか、それとも過去の経験から避難が迅速だったのか、まぁどっちでもいいや。とにかく被害が少ないことに感謝しねえとな。
「ようやく…………一匹目ッ!」
建物の陰から、俺の足に飛びつこうとしてきた肉腫を“神剣”で斬り飛ばす。
こいつらは下手に瀕死にすると分裂しやがるからたまらねえんだよな。
ボフっと、気の抜ける様な音で爆ぜた肉腫を見やりながら、俺は次の肉腫を探すために建物の屋根に上がる。
「…………統制協会はそれなりに上手いことやってるみたいじゃねえか」
目にしたのは、多くの民が統制協会の支部に隠れ、窓から街を見ている光景だった。
あの支部には結界が張られてるのか、肉腫が見えない壁に張り付いて蠢いているのが見える。
しかもそれが相当数だ。
「お、あれはジャック級…………いやクイーンか?」
統制協会の独自のランク付けで、下から二番目に位置するクイーン。だけど、かなり上位の勇者や、その血を引くやつらで結成された統制協会は、最下位のジャックであろうと、他国の将校や騎士団の副長に匹敵する力を持ってやがる。
クイーンは、まあ英雄の中でも強い部類の連中だわな。
そいつが炎でできた巨大な蛇を操り、肉腫を焼き払っていく。
対処法もわかってるみたいでよかったぜ。
統制協会から視線を切り、商業施設に目を向ければ、最悪だった。
パンデミックが起こってやがる。
恐らく、肉腫を持った奴が中に紛れ込んじまったんだろう。
商業施設の前や、周辺では既に、殺し合いが始まっていた。
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