第82話 秘密のままにしたいが故の秘密兵器

 翼膜を大きく切り裂かれ、そこから竹を割る様に一気に広がった亀裂。 

 ブラックドラゴンはついに空にいることを諦め、地面にその足を下ろしたが、それでもドラゴンってのは強力な個体であることに変わりはない。地面におりようが、並大抵の敵では相手にもならない。


 瞬く間にブレスを横薙ぎに放ち、雑魚を一掃しながらもオルトロウスにダメージを与えたブラックドラゴン。

 オルトロウスも剣を盾にして耐えたようだが、体の至るところから煙が上がっていることがダメージの証明だろう。


 口元に即座に次のブレスを溜めこんだブラックドラゴンに向け、頭部を食いちぎられたフレアワイバーンの死体と、肉厚なハングブッチャーの死体を剣に突き刺したオルトロウスが、ブレスを用意し待ち構えるブラックドラゴンに向けて走り出す。

 ブラックドラゴンもそれにブレスを再び吐き出し、応戦するが、ハングブッチャーの死体が炎の激流を遮り、脇を抜けた炎を、さらにフレアワイバーンの熱に耐性のある甲殻で完全に防ぎ切ったオルトロウスは、その死体の刺さる剣をブラックドラゴンに投げつけ、2つの頭から生える4本の巨大な角でブラックドラゴンの首を貫いた。


「今だな」


 それを見た俺もブラックドラゴンの元に駆け出し、そしてある物を投擲する。

 握りこぶし程の金属の塊。それがオルトロウスとブラックドラゴンの目の前で爆散。中に仕込まれた金属の礫と火薬が一斉に周囲に吐き出され、叫び声をあげていたブラックドラゴンも、満足そうに嘶いたオルトロウスも、両者の瞳や口内に高速で金属の礫が襲い掛かった。


「雷撃陣」


 すかさず陣を起動すると、仕込まれていた小さな礫に刻まれた陣が、ブラックドラゴンとオルトロウスの魔力を吸い上げ、起動した。


 爆発の音はないが、その代わりに聞こえてきたのは、ブチャブチャッと、肉片が飛び散って地面に落ちる音。

 そしてその後に続くように、2体の異なる叫び声がボス部屋内に木霊した。


「お前は危険すぎんだ…………よっ!!!」


 巨大な魔物討伐用に拵えた、巨大な鉈と鋸を足して2で割ったような獲物。

 大剣のような形状だが、刃は片方にしかついておらず、刃のある方にはいくつものスパイクが取り付けられた武器であり、あの要塞龍の牙と爪をふんだんに使った世界でも指折りの高級品。

 それでオルトロウスの2つある頭を、根元から切り離した。


「よし、まずは一匹…………結界陣ッ!!!」


 魔力の殆どない俺ではいくつも起動できない陣。それにあらかじめ魔力を溜めておいてストックしていた物を盛大に使い、体の左側面に大量の結界を張る。

 その直後、結界を叩き割りながら進んでくるドラゴンの尾が見えちまった。


「―――グッ!?」


 パイルを放ち、攻撃の進行方向に飛ぶことでまともに食らうことは避けられたが、それでも貧弱な俺からしたら大ダメージだ。

 さすがに油断しすぎたぜまったく。


「ごはっ…………やってくれるじゃないの…………お前の鱗でバック作ってやっから覚悟しやがれ」


 ワニでもバックを作るんだからドラゴン製のがあってもいだろ。作ったらカリラにでもあげてご機嫌とらないとな。今のところ性格が破綻してない女がカリラしか周りにいないことだし………あ、でもそしたら須鴨さんとか坂下にも作ってやろう。きっと喜ぶはずだ。お礼にワンチャンあるかもしれないし。


「てなわけで、死んでちょ」


 視界を潰され、閉じられた目から血を垂れ流すドラゴンに向けて、俺は拳大の金属の塊を投げつける。

 視覚は既に奪った。だからこそ、次に奪うのは聴覚だ。

 

 スタンピードの前触れ、あの階層に逃げて来てたやつらを殲滅した時と同じく、金属を高速ですり合わせる様な音が、ブラックドラゴンの鼓膜を破壊し、そこから血が噴き出す。

 だが、まだだ。この程度じゃ“実はまだ聞こえてたんすよー!えへへ!”とか世界が俺を殺すために言い出しかねない……のでもう一発。


 再び大仰な反応を見せたドラゴンの姿を見て、俺はあの時に油断して近寄らないで本当に良かったと思った。


「じゃじゃじゃーん。龍狩り」


 視覚聴覚を奪われ、感覚触覚を麻痺させられ、動きも遅くなったドラゴンが、パニックになりながら暴れ出す。今までの様に何かを狙っての攻撃ではないので、素人目に見ればどう動いてくるか分からない危険な状況なんだろうけど、仮にも50年間この世界で生きて、40年間ギルドで働いた俺からすれば、しっかりと規則性や、癖があり、怪我の箇所を庇っているような動きも多い。

 龍狩り、龍種の天敵とされていた巨人が鍛えた短剣。それをアイテムボックスから引っ張り出す。

 短剣って言っても、人間で言う大剣か、それよりもデカい。こんな巨大なもんを俺の筋力で振り回すのは不可能なので、秘密道具の出番だ。


「ユーリさん的カタパルトデストロイロケットファイヤーシューター」


 通称巨大ゴムパッチン(カタパルト付き)を出し、それに龍狩りをセットする。

 巨人族が龍の首を落とすために作り上げた龍狩りシリーズの中で、唯一俺が手に入れることができた短剣。これには巨人の呪いが付加されており、龍の首に当たれば、硬度を無視し、切り裂き、体内に呪毒を流し込むという物。ちなみにお値段は…………ランバージャックの王城が2つは建つね。


「ユーリビーム発射!」


 繋がる糸を切断してやれば、剣はカタパルトという滑走路で軌道を安定させ、刃をまっすぐと首に向けたまま超高速で飛んでいく。

 しかし、ギリギリのところでそれにドラゴンも“巨人の気配”を感じ取ったのか、僅かに体を横に倒した。


「とりあえず成功だな」


 切断には及ばなかったが、射出された剣はブラックドラゴンの首を大きく穿ち、背後の迷宮の壁に突き立っている。

 今に呪毒が全身に回ってこいつは死ぬ。しかし、ドラゴンはふらつく足取りながら、俺に突進をしてきやがった。

 どうやら一人で行くのは寂しいみたいだね。ほんとやんなっちゃうよ。




 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る