第67話 抉る様に打つ。撃つ。鬱。
「とりあえずだ。バカみたいにソルティーライス食ってたら意外と腹いっぱいだし、これ食っていいぞ」
「仕方ねえですね」
そう言いながらも、頬がぴくぴくしてますよー?めっちゃ嬉しそうな顔しちゃってますよー。
まあこれでようやく落ち着いて話ができるな。
今度は肉を3口で食ったカリラが、口元を、手の甲で拭ってこちらを見てきた。いやん、仕草がイケメン。
「で、あんたの話しってのはなんなんですか?」
足を組み、優雅に紅茶を飲む奴隷に向かって、俺は若干真面目な顔を作り、質問を投げかけた。
「お前、なんであんなに驚かなかった?なんで動揺しなかったんだ?」
そう。こいつは腕を跳ね飛ばされた事よりも、何をされたのか分からなかったことに対して驚き、腕が無い事よりも、得体の知れない何かがあるかもしれないという可能性に動揺していた。
「………なんのことか分からねえです」
「俺は雑魚だし、特殊な異能もない。だけどな、長い事戦場に立ってるから、戦ってる相手がどういう事を考えて、なにに興味を持ち、なにに恐怖を覚えるか、とかそう言うことはわかるんだよ」
「―――ハッ!アンタみてえな若けえやつが何言ってやがんですか!長い事って言っても所詮5ね―――」
「50年だ」
「………は?アンタ、人間じゃねえってんですか?エルフの混血とか………にしちゃ耳も長くねぇですし、顔も整ってねえですね」
「はうっ!?………か、顔の事は良いんだ。うん。ほんとに。それに俺は長寿の種族でもない。普通に50年戦場に立ってただけだ。まあ最近は肉体に精神が引っ張られてる感じがするけど。もともとこんな性格だった気もするし。そのあたりはどうでもいい。とにかく、俺が気になるのは、どうしてお前が“腕が飛ばされる事に慣れてる”かってことだ」
13で召喚され、そこから65歳まで俺はこの世界にいて、千器として生活してきた。その中で培った経験が、俺に教えてくれる。
数々の強敵や、とんでもないバケモンから逃げ続け、そして生き残った俺だからこそ分かる。人間の機微以下の、最小単位に限りなく近い変化と異常。それに気が付くことができる。
「………」
押し黙るカリラに、少しだけ威圧の意味を込めた視線を送りつけると、さすがに俺が確信を持ってこの質問をしたことが分かったのか、彼女も表情を暗く、そして禍々しい物に変え、俺と同質の視線を返してきた。
「はぁ、“それ”に気が付きやがるってことは、テメエも同じようなことを散々してきたってンですね」
「否定はしない。人の腕を飛ばす様な事は結構した。だけど、俺は好き好んでそれをやったことはない。それだけは誓って言える」
そうだ。俺はいつも自分を守るために刃を振るってきた。俺のような弱者が、強者が溢れかえるこの世界で、圧倒的な連中の中生き抜くために、身に着けたたった一つの突破口。雲の上どころではない実力差を、関係なしにひっくり返すためだけに生み出し、ただ出が早いだけではだめで、ただ視認できないだけでも駄目な、頭のおかしくなるような経験の中で生み出された俺の生命線だ。
数多く見せれば、自分の手の内を明かすことになる。現に“あいつら”にはネタがバレていたわけだしな。さすがにそれだけで瓦解するような物でもないが、可能性はゼロじゃない。俺はそんなリスクを自ら好んで選択して生きていける程強くはないんだ。
「どうだか。ただ、初めてそんなことを気にする主人に買われちまって驚いてンですよ」
「ならもっと驚くことになるぞ」
「何が言いてえんですか?」
「俺………脱ぐと凄いから」
標準的な人間。この世界において、加護や寵愛、魔力などを一般的な量しか持っておらず、異能や特異体質を持たない人間のことだが、そう言った一般人は、基本的に、至近距離から放たれる、えぐるような右ストレートを避けることはできない。
さて、何故俺がこんなことを言っているのか、察しのいいやつならもうわかっていると思う。
要するに、凄く痛い。おたふくにかかった上に、同じ側の頬に虫歯が出来たくらいとんでもない腫れ方してる。
これはもうあれだ、悠里さんファンが大号泣だ。匿名掲示板が大荒れで大炎上だぞ覚悟しろよな。
顔面にいいのを貰っちまって、ふらつく足取りで、カリラの服を買いに行くことになったんだが、まあ今回はこんな感じでもいいかな。
なんせ“初めてそんなことを気にする主人”って言ってもらえたわけだし。
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