第68話 あと一人でアイドルグループ作れそうな数だな

◇ ◇ ◇

 変な男だった。最初にそう思ったのは、アイツに向けてナイフをぶン投げちまった時のことです。

 並みの相手だったら一発で脳天に風穴があいてもおかしくねえようなナイフに、アイツは反応し、見事に回避して見せやがりました。

 だけど、それよりおかしいって思ったのは、アイツが、私がナイフを投げるよりも早く動き出し、到底避けられるような速さではない動きで、そのナイフを避けちまったことです。

 回避の動作の方が、ナイフの動きよりも遅く、これだけの至近距離での投擲。到底避けられるはずがねえ。そう思った。なのにナイフは避けられてた。

 何かしらそういう個性を持ってやがるのか、ひょっとすると予知か、それに似た個性………もしくは何かの異能って可能性もありやがりますね。だからこそ、この男は私を引き取らやがった。そう言うことですね。


 まあ、無駄なことだってンです。過去に、強力な異能で成り上がった貴族に買われたこともありますが、そいつも翌朝にはピクリとも動かなくなっちまってましたし、強力な個性を持つ英雄に買われた時も、突如飛来した龍種に食い殺されちまいましたし。私を所有した連中は皆死ぬ。だからこの男もどうせすぐに死ぬだろう。

 だから、さっさと私何か手放しちまえばいいンです。そうすりゃ私も自由になれますし。


 こいつは今までの主人共と何か違う。あいつらは私が英雄だとわかると、何を思いやがったのか、腕を千切ったり、足を潰したり、そんな遊びを始めやがった。何のためらいもなく、まるで大道芸でも見てやがるみてえに、人の腕を切り取って遊びやがるンだ。

 時には鋸みてえな刃の荒いもンで削る様に切り取られ、強引に食事をとらされ、肉体を回復させられる。何度も何度も、買われたその日のうちに解体され、暴行され、そして、主人が死んでいる。

 いい加減飽き飽きしてンですよ。そんな人生。私は生きているだけで周囲を殺す最悪の女だってことは、もうわかりきっちまってンです。ただ運がわりぃだけ。そんなことを言ってきやがった奴隷仲間もいやがりましたが、そいつは食事に紛れ込ンだ魔虫に腹を食い破られて死んじまいましたし、なにより、過去に私を買いやがった“47人”の主人が一人の漏れもなくその日のうちに死んじまってる事実が、何よりの証明だってことです。

 これで48人目。こいつもきっとなんかの不幸が起こって死ぬ。それだけ間接的に人を殺してンですから、さすがに私は他の連中よりも“死の気配”って奴が分かる様になっちまってる。そして、こいつからはその死の気配が、他の主人共とは段違いのレベルであふれ出してやがるのもわかる。こいつはそう遠くないうちに死ぬ。だから、それまでにできるだけこいつを利用して、生きてるうちに金や物をできる限り恵ませてやる。

 飯を恵んで来たり、奴隷紋を解除したのも、おそらくは今までの主人と違うことをすれば死の運命から逃れられると思っているンだろうけど、所詮そんなもんは浅知恵でしかねえンです。中にはもちろン、奴隷紋をつけなかった主人もいやがりましたが、そいつもしっかりと死にましたし。


 奴隷紋の有無や、奴隷の私に対する態度なんか欠片も関係がねえンです。私の主人になっただけで、それだけでこいつが死んじまうことはもう確定になっちまってンですから。

 

「これを買いやがってください」


 新たに主人になった男と、服を買いに行き、こいつが死ンだあと、売っぱらうことを考えて、可能な限り高い服を要求してやりました。こいつは見た目こそ粗悪なもンを着てやがりますが、奴隷商に来るってことは、冒険中に大穴を当てたか、貴重なもンでも見つけて、一攫千金したような奴だと考えられます。その分気が大きくなって、私に色々してくれンのは、ありがてぇ。うまい事それを利用して、開放された後に、再び奴隷に戻らねえようにしねえですからね。


「え、そんなんでいいの?こっちとかオススメなんだけど」


 そう言ってあの男が取り出したのは………何もかかっちゃいねえハンガーでした。


「これね、アレ。バカには見えない服」


「じゃあテメエには見えてねえことになりますね。見えてねえのに何がオススメなンだってンです」


 速攻で却下だ。この糞主人は相当女に飢えてやがんのか、この私にさえもそう言うことを言ってきやがる。マジでバカなンじゃねえかって思っちまいますね。


「ちぇ」


 そンなことを言いながら肩を落として再び服を物色し始めたバカ主人。まあ頭がおかしい分扱いやすいってンですけどね。私としても、その方が今後の為にもなりやがりますし、何より………6万ゴールドの服を“そんなん”なんて言いやがる男だ。やはり金はそれなりにもってやがンでしょう。


 その後、結局服は私の希望した服と、護身用の武器防具一式、収納袋、整備道具、魔法効果を付与されたアクセサリーなどを強引に買い与えられちまいました。

 総額で100万を超えちまうようなもンだし、こいつがくたばったらせいぜい有効に使わせてもらうとしましょうかね。


「あ………ギルドにローズいるの忘れてた」


 そこからは、何やらギルドに仲間がいるらしいンで、そいつらと合流することになっちまったんですが………。


「な、なんなんだってんですか………あの加護の強さは………」


 赤い髪の小柄な女が放つ加護は、私が見てきた英雄共と比べても相当上位に位置するようなレベルの加護だった。私自身はそこまで強い加護をもっちゃいねえですが、それなりに戦えるとは思ってました。だけど、あの女に勝つにはどうしたらいいのか………個性を使わないと勝てない可能性までありやがります。

 ですが、個性を使うのだけは避けたい。私の個性は少し目立ちすぎちまいますから。

 表向き、個性が“触ったもンをナイフに変える”とかそんな感じに言ってますが、とてもあの女はそれだけじゃ手に負えないようなレベルだ。

 しかし、隣にいる男はそうでもないように感じちまいますね。年齢は………40過ぎのくたびれた感じのオヤジで、優しそうな笑みを浮かべてやがります。


「お、そっちのおっちゃんが釣れたのか?」


「釣れた等という言い方はよくありませんわよ!」


「いやね?あんまり仲良さそうに話してるもんだから、ついつい仲間探しじゃなくて“パパ活”でもしてたのかなぁなんて思ったり思わなかったり」


「パパ活………とは何ですの?」


「そりゃお前。股開いて性欲を持て余すおじ様からお金をびゅひょっ!?」


 なんて早ぇ突きですか………あの男の顔面に容赦なく打ち込むばかりか、踏み込みも完璧じゃねえですか。



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