第66話 考え方を変えるんだ。そうすれば答えは見えてくる。

 メイドや給仕としての教育は受けてるようだけど、どうやら一般的な常識が欠落しているようで可愛い。

 口悪い子が、若干そわそわしながら「どれぐらいで来やがるンですかね」とか言いながら、キッチン見てるところも可愛いし「ここのやつらの個性ってどうなってやがンでしょうか」とか言ってるところとか―――もう好き。


 いやね。俺に注文してもね、意味ないんだよ。

 メニュー渡すときに「俺は鳥のグリルだな」とか言っちゃったから何か勘違いしてるのかもしれないし、どういう勘違いしてるのか分からないけど可愛い。好き。


「じれってぇですね。ただ待ってるってのは」


 まあ、どんなに待っても来ないけどね?というかさっきまでの暴れん坊具合がまるで嘘みたいに大人しくなったよ。どんだけお腹減ってんだよって感じで可愛い好き。是非俺の子を産んでくれ。


「なんでか知らねぇンですが、今すぐテメエを殺さねえといけねえ気がしやがります」


「すみませーんこれと、これとこれ、あと、これ下さい」


 最初に俺達を案内してくれた店員に注文すれば、それを驚いた顔で見た後、直ぐに俯いてプルプルしだしたカリラ。

 絶対今顔真っ赤で若干涙目で、唇とか噛んじゃってますよね?俺にナイフ投げるのやめるくらい恥ずか死にそうですよね?


 そのままカリラがプルプルしてるところを視姦しながら時間を潰していると、肉が焼けるいい音と、鼻先をくすぐる臭いが流れてきた。 

 

「お待たせしましたー」


 そう言って、カリラの前に置かれたステーキ。そのステーキが巻き上げる湯気に、肉とタレの焼ける匂いが乗り、さらに食欲をくすぐってくる。

 次に俺の所には、ライスとサラダが届き、店員が伝票片手に声を掛けてきた。


「ご注文は以上でおそろいですか?」


「おそろいじゃありません」


 なんでだよ!なんでサラダにライスなんだよ!おかしいだろ!俺の鶏肉のグリルはどこに行ったんだよ!


「えっ!?………あっすみません!確か、クラーケンの墨ジュースもでしたっけ!?」


「何それッ!?ねえ知らない!そんな飲み物メニュー見た後でも知らないんだけど!?というかクラーケンの墨って毒素あるからね!?しびれるやつ入ってるからね!?俺が頼んだのは鶏肉のグリルだよ!?」


「あ、えっと、無いです」


「うそつけぇっぇぇぇえ!!!!何も確認しないで言い切りやがったじゃねえか!!!もういいよ!俺もこいつと同じステーキで!」


「知ってますか?同じ料理は一回で同時に作った方が楽なんですよ?」


「知っとるわッ!お前強かだな!!!」


 なんだこの店!こんなんだから客が俺達の隣のやつしかいないんだろ!この従業員も相当ひねくれてやがるし!!!


「とりあえずサラダでも―――っ!?」


 それは………まるでナイアガラの滝の様だった(イケボ)

 とめどなく流れ出す清流が、力強さと大自然の素晴らしさを語り掛けるよな、優し気であり、なおかつ雄弁に語るその姿に、俺は………(イケボ)


「いや、優しく雄弁とか知らねえし、どうやんだって話だけど、これはあれか?俺が先に食わねえといけないやつだな」


 口を真一文字に結び、ナイフとフォークを握りしめるカリラが、今にも俺を殺しそうな目で見てきていた。

 勿論、口の端からは先ほどもイケメンな方の俺が言ったように、ナイアガラが完成してたけど。


「米旨い。やっぱあん時流行らせて正解だったね。とほほ」


 俺は仕方がなくソルティーライスを食べながら、時々サラダをつまむ。

 俺が食べ始めたのを見たのか、カリラは物凄い速さで肉にかじりつき、口いっぱいに詰め込んで噛み切ると、リスの様になりながら咀嚼を始めた。

 顎に残像が見えるくらいの速さで。


 ダダダダダダダダダダッ!!!っと、なんだかマシンガンでもぶっぱしてるんじゃないかって音が、目の前の女の顎から聞こえてくる。

 こんな音日常では工事現場くらいでしか聞きませんよ。あのアスファルト均すやつ。

 300グラムはあろうかというステーキをたったの2口で完食したカリラは、どうやらまだ食べ足りないようで、若干視線を右往左往させている。


「ソルティーライスうっまッ!うわナニコレ革命じゃん!食べてみる!?」


 俺の使ってたマイチョップスティックに米を取り、それを差し出してやれば、顔面に唾を吐きかけられた。


「………」


「………いや、しまえってんですよ」


 無言で箸を出し続けてたらツッコミが来た。


「こぉんなにおいすぃーのになんで嫌がるの?」


「嫌なのは米じゃなく、テメエです」


「わかった。じゃあこうしよう。その新しいスプーンで君が俺のを食べる。そして、そのスプーンを俺が食べる。これで解けじゅっ!?」


 熱々のソースをかけられた。しかも目に。


「あばばばばばッ!?」


 あまりの激痛に、店の床に転がって、眼球を抑えながら苦しみ悶えていると、急に背中を何かで止められた。


「お待ちどうさまです」


 パスされたボールでも止めるような気安さで俺の背中を踏みつけた店員が、かちゃんと、床にステーキを置いた。

 あの店員マジで覚えとけよ。その内触手とか魔法で出せる様になったら一番最初の犠牲者にしてやる。

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