第64話 どんなものでも使い道はある。ってか作る。

 どうやらこの奴隷商は、この奴隷を何があっても手放したいらしい。

 それくらいにやばい奴なのか。


「理由を聞かせろ。そうしないと騎士団を呼ぶことになるぞ」


 俺の逃げ足は数多の戦場を生き抜いてきた英雄であろうと追いつくことができない。それくらいの自信がある。昔にキャメロン・ブリッジというロリ魔女に追い掛け回されたので、肥溜めに落としたことがあるが、その時から、周囲の連中が追いかけるよりもまず攻撃。それで仕留められなければ諦めるという作戦に出るくらいには逃げ足に自信がある。

 なんせあのキルキスから4年もの間逃げ続けた実績を持っているんだ。


「ぐっ………わかりました。ですが、話しを聞いたからには、必ず連れ帰るか、もしくは引き取り手を探すのにご協力ください………でないと、私だけではなく、あなたも不幸な目にあうことになりますから………」


 そう言った奴隷商が語り始めた。妙に緊張してるし、冷や汗も噴き出しているが、俺からすれば、不幸なんてデフォじゃないっすか。って感じだ。今更これ以上不幸になってたまるか。


「この奴隷………名をカリラと言い、今まで彼女の主人となった者は一人の例外なく、その日のうちに命を落としております。今は複数の奴隷紋を経由することでそれをどうにか防いでいますが、彼女自身の強い反魔の力が、奴隷紋をどんどん破壊しており、現状も長く続きそうにありません。それに、彼女の特異体質を抑え込むためにこれだけの道具が必要であり、その維持費もバカになりません。」


 え。そんだけ?


「わかった。この女はコチラで引き取ってやろう」


 そう言って、諸々の手続きを終わらせ、未だに拘束されている彼女を伴って外に出た。これで次回の奴隷購入時に、今回の恩を盾にしてやりたい放題してやろう。

 

「奴隷紋を……“全選択”“切取り”っと。はい、もう自由だぞ」


 未だに拘束は残っているが、それでも奴隷紋で命令を無理やり聞かされるなんてことはなくなったはずだ。

 それに脱走してくれたらありがたい。ノーリスクで恩だけ売れることになる。今この状況で、突然奴隷紋がなくなったといっても、誰も俺を疑わないはずだしな。


「テメエが私の新しいご主人様でやがりますか?」


「おう。奴隷紋は破棄したけど、できることなら仲良くなりたいかな。お姉ちゃんおっぱい大きい―――っ!?」


 危なかった。間一髪、本当にギリギリのところで彼女が投擲してきたナイフを回避することができた。

 いつの間にか、拘束に使われてた魔々織や、鉄球がなくなって、ナイフが飛んできてた。これは恐らく“触れることで物質を変換するタイプ”の特異体質だな。

 ってことは、これ以外にも個性がある可能性があると。


「厄介だな……」


 少し、本気で殺そうかなって思ったが、どうやらカリラは今のナイフを“つい”投げてしまったようで、自分自身、少し驚いたような顔をしていた。


「奴隷紋を本当に解除しやがるとか頭いかれてンじゃねえですか?」


 荒い口調で、俺にそう言って来るカリラ。また冗談の通じない子が増えちゃったじゃないの。


「とりあえずさ、服買いに行こうぜ」


「誰がテメエなんかと行くかってんです。行きたきゃ勝手に行きやがれですよ。それになんで奴隷紋の解除なんかしやがったんですか?哀れにでも思ったってんですか?それとも、優しくすりゃあの男の言ってたような未来にならねえとでも?そんな馬鹿なこと考えてるんだったら、今すぐその脳みそ引きずり出して豚の餌にでもしてやるってんですよ」


 もうね。悠里さんの心はぼろぼろです。

 いやね?だってね?今までひどい扱い受けてきたんじゃないかな?ここで少し甘くしたら、異世界転生特有の“理由なき情愛テンプレチョロイン”が発動してもおかしくないよね?とか思ったし、あわよくばズッコンバッコンしたかった。

 だけどさ、ここまで口が悪いと思わないし、ナイフなげて謝らんし、もうね。少しオコだわ。悠里オコだわ。


「何とか言いやがれって―――っ!?」


 腕を撥ねた。

 理由は一つ。俺に向かってナイフを投げようとする気配を出しかけたからだ。

 この女は強い。俺なんかよりも遥かに強いだろう。まともに戦えば俺なんか10秒も持たないでハリセンボンかサボテンみたいになる自信がある。

 だけど、こと初手の速さだけなら、俺はお前ら英雄にだって引けを取らない自信がる。そして今の攻撃で“驚いた”お前は、もう俺の必勝嵌め殺しパターンにどっぷり肩まで浸かっちまってるんだよ。


「何しやがったですか………っ!?っぶねえですね!今度は何投げて来てんですか!」


「え?馬野郎の糞だけど?」


 亀頭シティーに行く前に馬野郎のウンコを幾つか回収したんだけどね。対人戦においてウンコってなかなか強いんだよね。なんせ防御したくない攻撃になるから必然的に回避しか選択肢に上がらなくなるし。


「おまっ!?んなもん投げんじゃねえですよ!」


 腕を少しずつ回復させる様子から、こいつはそこまで英雄としての素養は高くないと判断できる。素養の高い者はもう“ずぼっ!”って感じで生えてくるからね。蜥蜴の遺伝子とか組み込まれてるんじゃないかな。

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