第3章 攻略再び
第63話 綺麗な華には毒があるというよりも、むしろ見た目からしてアウトな奴。
ローズに小言を………もはや大言と言って差し支えない程、大声で罵倒され、仕舞には脛に蹴りまで食らった後、俺はギルドで再び知人の娘に身柄を保証してもらうという赤ちゃんさながらの辱めを受けた。
もうね、蹴られて赤ちゃんプレイですよ。どんな趣味のやつだよって感じ。
多分あの糞ペドのイクトグラムだったら興奮で大爆発しているだろうけどね。
「にしても、まさか登録があんなに簡単になってるとは」
さすがはギルドだ。昔は紙に色々かかされて、だらだらした説明を聞かされて、その後にカード発行まで1週間はかかったのに、今じゃマキナの技術が使われてるみたいで、タブレットにサインして、規約を適当にすっ飛ばして終わり。それでカードが発行されるんだから恐ろしいよ。
まあ、俺の場合は身分を証明するものがないから、そのあたりは受付に話をつけに行ったんだけどさ。それを加味しても、かなり早い。
「早速迷宮に行きますの?」
そう言って来るローズ。彼女は50層を攻略するまで実家に帰ることを禁止されている家なき子だからな。
対して俺は、召喚した国の人間に、モンスターの前に突き飛ばされて生贄にされたリアルホームレスだ。
さらに言えば、サクッと最下層におりてやろうと思っていたが、それがどうにもできないらしいので、やむを得ず俺も迷宮攻略に乗り出すことにしたわけだ。
まあ、正々堂々戦うつもりはないし、各階層に沸く雑魚はガン無視だ。あんな無限に沸いてくる、増えるわかめみたいな連中と戦ったら俺は速攻で死ぬ自信がある。
「俺達には足りない“もの”が多すぎる。だからまずはそれを集めるんだよ」
そう言ってやれば、野糞に集るハエでも見る様な視線から、昼間の新宿駅でパンツ一丁になって全身ローションまみれになる狂人を某動画投稿サイトで見た時の友人のような顔で俺を見てきたローズ。
「足りない物………ですの?」
「あぁ、迷宮攻略なら相当量の食料が必要だからな。ローズにも最高級の収納袋を買ってやるし、その中に日持ちしそうな食料と、調味料、武器防具の手入れ道具、テント、スペアの武器防具一式、松明やカンテラのような生活で使う物。もちろん簡易トイレなんかも必要になる。それに回復薬も解毒剤も薬一式は必ず必要になるし、ギルドが発行してる地図なんかも勿論必要だ。あとは回収した素材を腐らせないようにする防腐剤に、剥ぎ取りや解体用のナイフ、それらを洗う洗浄用の水、飲み水、体を拭くための布や水何かも必要だ。それ以外にも腐るほど必要なものがあるが、なによりこのパーティーに足りないものがある。それは………ヒロイびゅっ!?」
顔面にめり込むローズの拳をぺろぺろしてやろうと思えば、何かを感じ取ったローズは即座に手を引っ込めやがった。
チクショウ。なかなか良い勘してるぜ。
「まあ、冗談はさておき、人手が足りないのは事実だ。俺はまあ遊撃とかならそれなりにできるが、ハッキリ言ってそこまで役に立てないことの方が多い。それにローズはオールラウンダーだが、適正属性的にも攻撃面だけって感じだろ?だから最低でもヒーラーが必要だ。爆乳でエロイ感じのシスターとかいいよヴぁっ!!!?」
「あなたは一度殺されないと凝りませんの?」
「じょ、冗談だ」
「では私がギルドにパーティーメンバー募集の張り紙を出しておきますわ。その間にあなたは必要なものを買ってきてくださいまし」
「うぇーい………雑用かよ」
俺の話しに対して、ひどい侮蔑の視線で返事をしてきたローズが、そのままギルドの方にとんぼ返りを決めていく。
ねえ。俺ってさ?この街の地理、500年前のしか知らないんだよ?ねえバカあの?パワハラで訴えるよ?
「とにかく………動かないと始まらないよな」
それだけ言って、俺は宛てもなく歩き始める。人生という長い旅路を………END。
「看板って素晴らしい」
結局大通りに面したところに店が立っており、そこでほとんどの商品を買うことができた。
そのついでに、素材屋に顔を出し、道すがら(ローズが)殺した魔物を売り払ったり、俺が採取しておいた薬草を薬に調合した物を販売したりして、必要な金を捻出した。これも文字が読めるお陰と、この世界に“定価”という概念が存在しないからこその儲けである。
こっちの方では、移動手段も限られ、陸路で運ばれるものが殆どだ。ごくたまにドラゴンライダーみたいな連中が運送屋まがいのことをしているが、この時代の世界では一度も見たことがない。
俺が商品を購入したのは、この世界では当時珍しかった“縦に高い建物”の中でだ。建築技術がそこまで発展していないこの世界では、たっぱのある建物が珍しい。魔法で補強をできる連中がごくまれに作ったり、要塞などに使われることはあるが、それが商業施設に使われているのは、統制協会のおひざ元である“異世界都市コイキ”くらいのものだ。
なぜ俺がこんなことを考えてるかって?そんなもん暇だからに決まってるでしょうが。今は仲間を集めるために立ち寄ったある店で、少々商品を見せてもらっているところだ。そして、そこの店主に、俺の要望を伝え、その商品を見繕ってもらっている最中でもある。
「お待たせしました。こちらがあなた様にぴったりの“奴隷”でございます」
恰幅が良く、背が低い金歯の怪しい男が、俺の前に連れてきたのは、1人の奴隷だった。全身を紫色に発光する“封魔の鎖”で縛り上げられ、そればかりか、掌は“減退の魔々織”と呼ばれるコイキの開発した退魔の織物でぐるぐる巻きにされ、脚には重そうな鉄球をいくつも付けている女。
首には重厚な金属の首輪と、肘関節から肩に掛けて、何本もの封印系統の力を持った杭を打ちつけられている。
「いらない、凄くいらない」
一目見た時からそう思ってた。だってコレ、明らかに面倒ごとの臭いがするんですもん。確かに回復職は欲しいんだけどさ、それでもそうじゃねえよって思えるんだよね。
「この娘は素晴らしい素質を持っております。こと魔力量に関しては並大抵の英雄では相手になりません。それに身体能力も恐ろしく高く、近接特化の英雄と互角か、訓練次第ではそれ以上になるでしょう!それにご要望でもありました回復魔法ですが、この娘は回復魔法を使えます―――
「なんでそんな超優良物件を俺の前に出すんだよ。うさん臭さしか感じねえわ!そんなとんでもない性能の奴隷なんて幾らするんだよ」
「ふふふっ!今なら出血大サービスと、あと週末セール、在庫一掃セール、年末セール、あと、あれ、えっと、1000万人目のお客様ということで0ゴールドでお譲りします!」
「お前その顔とその見た目で嘘つけない奴なんだな……………奴隷商向いてねぇよ。まあとにかくだ。俺の欲しい感じじゃないから要らないんで戻してください」
「今お戻しになられますと、手間賃と、それをする従業員の危険手当で1億ゴールド程頂くことになりますが、よろしいですか?」
「え、こんな美女貰っていいの!ほんとに?もう返さないからね?」
チクショウ。完全にバカにされてるじゃねえか。それにしてもだ。こいつの“全身”にある奴隷紋はどうしたらそうなるのか分からねえようなもんばっかだな。
全ての命令に対応できるはずの奴隷紋が、何故かたった一つの命令を遂行させるために使われてやがる。
例えば、喋ることを禁ずる。とかね。
本来であれば、一つの奴隷紋でも容易にできる命令、ってかほとんどの場合奴隷紋は一つしかつけないんだけど、こいつはそれが全身至る所に書かれてやがる。
それだけとんでもない化け物ってことか、もしくはそう言う体質なのかもしれないな。
世の中には、世界から魔力を勝手に吸い上げることで、実質的に無尽蔵の魔力って奴がいたくらいだしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます