第51話 テンプレ中世じゃないんだよなぁこれが

  商隊の男に投げおろされた梯子を上り終えると、キャンプというよりも、簡易的な建物に近いものが多く、住居と工房などまで棲み分けがされていることが分かった。

 

 俺の後ろでようやく上り終えたローズに手を貸し、引き上げると、それを見計らったかのように先ほどの禿男が話しかけてきた。


「子連れ………ってわけでも無さそうだな、兄妹か?」


「訳あって暫く面倒を見ることになった知り合いの子供だよ。それよりも、これってキャラバンじゃないのか?」


 俺の疑問に何故か気をよくしたのか、禿げ男はニカッと快活な笑みを浮かべ、俺の前にズイッと寄ってきた。


「スゲーだろ!これが南部移民連合で噂になってる移動都市タートルヘッツだ」


 なんか日本語にしたくないような名前だなおい。

 ぎりぎり大丈夫な気がしないでもないけどやっぱ連想できるものがアウトだわ。


「生憎田舎者だからね、あんまり知らないやごめん」


 素直に謝ろう。世の中には、謝れ!もしくは奴隷な!とか言って来るやつまでいるわけだし、あれ?あいつは異世界人だから世の中に含まれない?………あぁ駄目だ、謝ったらもっとキレたやつが隣にいたわ。


「かかっ!俺達の名前はこれからももっと広まっていくからよ、その時にでも思い出してくれればいいさ!っと、それよりもだ、ビジネスの話しをしようじゃねえか」


「おお、そうだったな。とりあえず村長?町長?ここの長的な人を呼んできてくれないか?何度も話を通すと齟齬もあるし、お互い面倒だろうしね。あ、忙しかったら大丈夫だぞ」


「はは、忙しくはねえから大丈夫だぜ。じゃあ付いてきな」


 禿げ頭は再び笑うと、俺達を先導して歩き出した。

 これから応接間的なところに行くんだろうかね。


 亀の甲羅の上にしては妙に柔らかさのある足元を不思議に思いつつ、工房が固まっている甲羅を抜け、ようやくたどり着いた場所は………。


「でっけえ工房だな、それにどうしてここだけ他の工房と離れてんだ?」


「へへっ、そいつは中に入ってみればわかるってもんだ。ほら、ぼさっとすんな、行くぞ!」

 

 目の前にある工房は明らかに他の工房とは一線を画した設備、そして大きさを誇り、外目を見ても、マキナの都の技術が少しだけ取り入れられているのが分かる。

 

「ようこそ、俺の工房、カルブロファクトリーへ!」


 入って早々、声高々にそう言った禿男。両手を広げ、背後で忙しなく走り回る従業員を無視し、まるで子供が新しオモチャを自慢するような顔で俺を見てきている。


「あんたがここの長だったってことか。なに、暇なの?」


「生憎と暇じゃねえぞ。これからビターバレーから発注された武器を仕上げていかねえといけねえってんで、あちこちてんやわんやだ」


「やっぱりビターバレーに向かってたんだな。丁度俺達もあそこの迷宮の調査に行くところだったんだ」


 パパん譲りのパーフェクトエアーを発動したローズの頭に軽く手を置くと、即座にはたき落とされてしまった。それを見た禿げ頭が何を勘違いしたのか、再び笑みを浮かべながら俺とローズの顔を交互に見てきた。


「いいコンビじゃねえか。まあ話は奥で聞くからよ………おい!お前!この二人を俺の部屋に案内しとけ、大事な客だ。丁重にな!」


 たまたまそこを通りかかった売り子のような格好の女性に声を掛け、禿げは俺達の前からさっさといなくなってしまった。

 いきなり面倒を押し付けられた女性は少し疲れた顔を俺達に向けた後、直ぐに表情を戻し、禿げの部屋に案内してくれた。


「こちらでお待ちください」


 それだけ言って女性は出て行ってしまったが、それと入れ替わる様に禿が入ってきたので、特に待つこともなかったが、こいつ部屋の外で待ってたんじゃないだろうな。


「よぅし、んじゃ早速だけどよ、ビターバレーにつくまでの残り13日間の安全と、宿賃に足りる現物ってのを拝ませてもらおうじゃねえか」


 禿げ頭もとい、カルブロはそう言いながらモノクルのような物を装着した。

 あれは恐らくアーティファクト、それも鑑定系の珍しい物だろう。

 ぜひとも欲しい。


「あぁ、そうだな、むしろ釣り銭は用意できてるんだろうな」


「かかっ!バカ言っちゃいけねえ。ここは商業を生業とする都市だ。それなりの金は積んでるつもりだぜ?」


 自信満々にそう言ってきたカルブロ。ならばいいだろう。俺のコレクションを一つ、手放してやろうじゃないか。


「これだ」


「………おまえ………そいつを一体どこで………」


 俺の取り出したものは、小指の爪ほどの大きさをした、石だ。

 それを見たローズが「は?死ぬ?」とでも言いたげな顔で俺を見てきているが、まあこいつくらいの男、それもアーティファクトを保有するレベルになればこいつの価値もわかってくれるだろう。


「か、かか、た、足りねえ………な」


「え、まじ?じゃあ後三つあるけど全部持ってく?」


 うお、驚きはしたみたいだけど、どうにも足りないらしい。さすがに値段を確かめずに、しかも現物支給だと吹っかけられると予想してたが、ここまでとは思わなかったな。


「ちげえよ、あんちゃん………この都市にある金じゃ………その一欠けら買うのにも足りねえってことだ………」


 


 


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