第52話 尿管結石は恐ろしい

 冷や汗を吹き出し、光を余計に反射するようになった頭を磨くように拭ったカルブロ。

 俺のコレクションの中でもそれなりに価値のある一品で、唯一ランバージャックの王都にあったアイテム袋に入れてた非常換金用のアイテムだ。

 名前を要塞龍の結石。うん。馬鹿でかい龍の尿管結石ですわ。


「これの価値が分かるってことは、やっぱアンタ凄いな」


 これは俺と、キルキスという基地外、エヴァン・ウィリアムズという血液にトラウマのある阿保吸血鬼など、チョコチの言うところの変人サーカスの面々と、当時のランバージャック国王ミハイルと共に出たクエスト、要塞龍の討伐の際に手に入れた物だ。

 要塞龍ってのはまあ、要塞を“一飲み”にしちまうような巨大な龍で、討伐ランクをあてがうとすれば、200は超えるんじゃね?俺以外のやつらが超人外だからどうにかなったような物の、あれ以降キルキスに目を付けられたんだったな。


「過去に一度だけ市場に流れたって話を聞いた………その時にゃたしか………」


「国家間でセリになったらしいね」


 俺はキルキスに命を狙われるようになって姿をくらましたあとだったけど、その話を聞いた時は本当にキレそうだった。

 分け前無しって言われたし。

 この結石の凄いところは、この欠片一つで大都市五年分の魔力需給を可能にしちまうようなとんでもない魔力を内包しているんだわ。

 俺がなんでそんなものを残してるかって?下手に魔力を吸収したら剣の力で爆発するかもしれないでしょうが。


「どう?悪い話じゃないでしょ?これを持ってこられる人間とコネクションを持つこともできるし」


 ぶっちゃけ売りたくない。だけど今はこれ以外に売れそうなものが何もないからこその、本当に苦肉の策だ。


「あんちゃん、名前は?」


「俺?ユウリ・オオツカだ、しがないハンサムをしている」


「そうか、ユーリの旦那か」


「無視ね、ってか最近誰も突っ込んでくれないよね」


 1人ソファーの上で頭を抱えながら何かを決心した様子のハゲブロが、俺の目をまっすぐと見つめてきた。


「決めたぜ、ユーリの旦那。あんたと、あんたの仲間がまたタートルヘッツに来たら一切金はとらねえ。いや、商人として取れねえ。今すぐ釣銭を払うことも、これから釣銭を用意することも恐らく出来ねえが、それくらいはさせてくれねえと、商人の魂が廃るってもんだ」


「それは良いんだけどさ、大丈夫なのか?そんな事言って」


「もともとビターバレーにゃ迷宮からとれる魔石を買いに行くのも目的の一つだったんだ。こいつでその費用も、足元を見られる可能性も無くなった。これだけのことをしてくれたってんなら、それに報いるのが商人ってもんよ」


 あんたは商人というよりも職人って感じだけどな。

 なんてことは言わず、ご厚意には甘えておこう。今後ともいいタクシーになってもらうぜちんこシティー。


「にしても、まさかこんなお宝に巡り合えるなんてな。人生ってのはなにがあるかわからねえもんだな」


 ハゲブロも良くできた男だよほんと。 

 だってさ、俺にその結石の出所を聞かないしさ。普通ならそれとなく聞いてくるか、探りをかけてくるはずなのに、それがないってことは、俺のことを“上客”だって認めてくれたってことだし。


「とりあえず後13日、よろしく頼むわ」


 

 ハゲブロと別れた後は、最初に俺達を案内してくれた女が再び俺とローズを客室に案内してくれた。

 全部で7頭から成る亀の背中はそれだけの大きさを誇り、魔物も殆ど近寄ってこない。

 まあ南部はオークやオーガ何かが多い地域だからね。北上すればドラゴンがいるだろうからそっちにはまだ行けそうにないな。

 この亀の移動速度じゃ、いい鴨にされるだけだし。


「もし?先ほどの石ころはそんなに貴重な物なんですの?」


 俺の服を引っ張りながら話しかけてきたローズ。ちょっとその仕草が可愛いって思ったのは内緒だ。俺は糞ペドとは違う。


「まあそれなりに貴重なもんだな。お前のかあちゃんにでも聞いてみなよ。“結石”って言えば多分伝わるから」


 俺がわざわざ説明するのも面倒だし、そう言うことはチョコチにぶん投げ回避ですわ。

 俺の返答が気に食わんかあったのか、小さく舌打ちまでかましたローズが俺のズボンを突き飛ばす様に放し、すたすたとソファーに向かっていってしまった。

 あ、ちなみに部屋は一つです。何やら気を使わせてしまったようですが、何度でも言います。俺はあの糞ペドとは違います。酒は美味いのに、性癖はマズいんだよね。それはもう色んな意味で。


「んじゃ暫くゆっくりできるみたいだし、リラックスしすぎない程度に体を休めときなさいよ」


 果たして俺の言った意味が伝わったのか分からないが、ローズはちらりと俺の方を見てから再びあのアーティファクトに耳を当て始めた。

 どうにもはまったらしい。



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