第49話 ギャグ要員は基本不死身

 馬車に乗り込み、馬面に行先を告げれば、ナイスガイポーズの返事が返ってきた。

 顔だけ馬なので、なんだかバカにされている気がする。

 ガタガタと揺れる馬車の中で、俺の正面に腰かけたローズを見やりながら、ビターバレーに付いたらどうするかを考えていると、危うく聞き逃しそうになるような小声でローズが語り掛けてきた。


「あなたは何者なんですの?」


 そう言いたくなるのもわかるよね。 

 だけどあんまり迂闊に話は出来ないんだよなぁ、それこそ、チョコチがどこまで話しているのか分からない現状だとこっちからは何も話せない。


「逆に何者だと思う?俺はイケメンだと思う」


 俺のボケは完全にスルーされ、ローズは考え込むように顎に手を当てて視界を上に動かした。

 俺はその間暇だったので、14歳の生足が目の前で組まれているのをいいことに、それを脳内に焼き付けようとガン見していた。


「私のお母様は………千器様の関係者です。昔同じクランに所属していたと聞きました」


 あぁ、そこまでは話してたんだね。

 

「そこで数々の冒険を一緒にしたと、昨夜教えていただきました。そこで初めてお母さまが千器様に詳しいことに納得できたんです」


 ほほう。チョコチのやつ、俺のことバカにしてたらまたケツをシバいてやろうかな。


「昔からいつも、お母さまはおっしゃっていました。千器様は特別な力がある訳でもなく、驚異的な才覚もない、ただの人だ、と。まるで当事者の様に語っていました。そのことにももちろん納得できました。何せ本当に当事者だったわけですから」


 ついに自分の母親が500歳越えのババアだって理解しちまったか、これは家庭崩壊の危機だね。


「ですが、どうしてあなたのことをそこまで高く評価しているのか、それだけはわかりませんでした。わかりませんでしたが、何となくわかってきた気がします」


 俺と千器が同一人物だってことがかな。


「力がなく、卑怯な方法で戦うあなたに、同じく力が無くても強大な敵に立ち向かっていった千器様を重ねているのではないか、と思いました」


「おお」


「図星の様ですわね。きっとどこかでお母さまと冒険をされたのでしょう。そこで昨日のような戦いばかりをしていたあなたを、千器様が突然姿を消し、取り残されてしまったお母さまにはあなたが千器様の様に見えてしまったんです。どうですか?何か違いますか?」


「いや、俺はチョコチじゃないから知らんわ」


 なんでいつの間にかお前のお母さんの話しになってんだよ。

 俺の正体の話はどこに行ったんだ。


「とりあえずだ、今のお前程度ならぶっちゃけ普通に戦っても負ける気しないから」


 あれだけ正直な戦い方してくるってことは、まあ他も同じなんだろうな。

 俺はそれだけ言うと、未だに何か言おうとしてくるローズを置き、1人、御者台に上がった。

 バシャヒクノスキーは本当に見た目以外は最高の性能を持っている。何せ言葉が通じるから意思疎通がしっかりと取れる。

 地図を覚えさせれば、目的地を告げるだけでそこまでは自動運転だ。自動運転機能に関しては現代よりも異世界の方がはるかに発展している。

 それに、バシャヒクノスキーは一つだけ魔法を使うことができる。これは生まれつき使える物で、鳥が飛ぼうとする事や、魚が泳ぐことと同じくらいの常識だ。

 その魔法が、バシャヒクノダイスキーフォーム。本当になんかもう、あれな魔法だが、この魔法があるからこそ、バシャヒクノスキーは龍馬を超える評価を得ている。

 その効果は単純明快、馬車を引いている時にしか発動できない魔法で、とにかく硬くなる。全身硬くなる。ついでに馬車まで硬くなる。

 これを使うとどうなるか、それを今から試す訳だ。


「とまれぇぇぇぇ!!!随分といい馬車に乗ってるみたいじゃねえか!金目の物を置いてくってんな―――」

 

 ぐしゃ、どごんどごん、と、何かに乗り上げる様な感触がしたが、まあ要するにこういうことだね。


「え、今、え?盗賊?え?轢いた?え?」


「だめだったのか?俺の知ってる法だと盗賊は殺してもOKだったと思うんだけど」


「いやいやいや、え?大丈夫ですわよ?大丈夫ですけど、普通止まりません?」


「なんで?面倒じゃん?それにバシャヒクノスキーが引く馬車の前に出るとか自殺志願者かよ。歴戦のバシャヒクノスキーとかマキナの陸上砲撃用装甲車と正面からぶち当たっても大丈夫なくらいやばいからね」


 要するに戦車、それにぶつかって生き残るというか、走り抜けるというか、もうとにかくスゲー馬野郎なんだわ。

 さすがにそこまでのバシャヒクノスキーはなかなかお目にかかれないけどな。


 ローズが盗賊の声で丁度出てきたところだったため、俺の犯行現場を目撃されてしまった。

 何事もなかった感じで進んでいきたかったのに。

 

「あ、ローズ、盗賊をみつけたら、その規模や、装備なんかをよく見ておきなさいね」


「そうですわね、相手の実力もしっかりと図らないといけませんから」


「は?違うぞ?規模がデカくて、装備に統一感がないなら、闇商人と繋がってない可能性が出てくるから、捌き切れないお宝がアジトにある可能性がある。装備が整ってたらそれを買うだけの伝手がある。だから無駄。アジトに宝はない。丁度今ひき殺した奴みたいにね」


 





 




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