第48話 貸し借りは大事。踏み倒せるかも含めて。

 懐かしい昔話に花を咲かせ、紅茶が冷え切ったころに、俺は貸し与えられた部屋に向かった。

 明日はとにかく一度収納袋の中身を換金して置きたい。

 それと、迷宮に潜るなら色々と必要になる。

 あのガキのことも、まあ昔のよしみで面倒見るとして、できるだけ早いうちに独り立ちできるくらいの警戒心と、実力を身に着けさせないと。

 じゃないと俺の次の目的が果たせなくなる。

 

「にしても、あの時代の生き残りがいたとはな………」


 長寿の種族が生きているかも、とは思ってたけど、まさかこんなに早く出会えるなんて思ってもみなかった。

 それに今更になって思い出したが、大きな街には身分を証明できる人間か、公的身分の高い奴の紹介状が必要になる。 

 俺は今、まともな身分証を持っていないので、あのまま列に並んでたら街の中には入れなかった。

 こう考えると、俺はそれなりに運は良いのかもしれない。しれないが、この幸運が、次の不幸の度合いを大きくしていく気がしてならない。


 この世界に召喚され、改めて日課に戻した各装備のメンテナンスを行いながら、ランバージャックに置いてきたクラスメイトのことを漠然と思い浮かべる。

 坂下は大丈夫か、須鴨さんは頑張っているか、脇役は脇役か、デーブは糖尿病になっていないか、ガリリンは骨粗しょう症になっていないか、神崎は相変わらずウザいのか、藤堂は脳みそが筋肉になってないか、様々な心配が脳内をめぐる。

 チクショウ、こんなことになるんだったら、ぶっ飛ばされてもあの時坂下のおっぱい触ってりゃよかったぜ。


 あとなんかサイコ野郎がいた気がするけど顔も思い出せねえわ。


 メンテナンスも終わり、ベットに入ると、直ぐに眠気が襲い掛かってきて、俺は目を閉じた。

 今日一番きつかったのはチョコチの突進を受けた時だな。




 翌朝になって、マリリンの生絞りジュースが飲みたい衝動を堪えながら起き上がり、身支度を済ませる。済ませるって言っても、ほとんどないんだけどね。まず、立って、着崩れた服直すじゃん?終わり。

 生体魔具と接続した収納袋を取り出し、接続を解除しておく。

 こうした使い方ができるのが最高なんだよね。

 

「ローズのロはロリロリのヴッ!?」


 ノリノリで最高にロックなミュージックをシャウトしてたらドアが突然開き、顔面に直撃した。

 そのあまりの破壊力に、俺の顔面がドアをブチ抜き、そのままドアを巻き込む形でゆっくりと地面に倒れた。

 最後に見た景色は、まるで便所に沸くコバエでも見る様な目で俺を見てくるローズの姿だった。


「何をふざけているんですの?早く行きますわよ」


「容赦ねえな」


 なぜこの女は俺のことをこうまでしてドナドナしたがるのか。もしかしてこいつはドナドナすることに性的興奮を覚える異常者なんじゃないか?だとしたら親の顔が見てみたいね!きっと母親の育ての親は超絶イケメンのダンディーハンサムに違いねえ!

 何か考えてて悲しくなってきたからやめよう。歩く手間が省けたと思えばそれでいいや。


「お母さま、準備が出来ましたわ」


「そうみたいね、ユーリ様、どうか娘をよろしくお願いいたします。これは授業料や、当面の生活費などを入れさせていただきました、どうぞお持ちください」


 館の門の所で待っていてくれたチョコチが、俺に金を渡してきた。

 革袋一杯に詰められた金を受け取り、俺はようやく立ち上がる。


「面倒ごとを押し付けてきたんだ、俺も頼みも聞いてもらおうか」


「ギブアンドテイク、冒険者の常識ですね」


「そう言うこと。普通だったら絶対に受けたくない面倒だけど、今は少し立て込んでてな。取り合えずさ、俺の“一張羅”の情報を集めておいてくれよ。それか、オークションに出てるようなら買い戻して欲しい。金は必ず返すからさ」


 そもそも、一つ目の倉庫にたどりつきさえすれば問題ない。

 倉庫自体を生体魔具に登録しておけばいつでも呼び出せるしな。


「一張羅………まさかそれって………」


「そうだよ、アイツが作ってくれた俺の一張羅のことだ」


 剣と一張羅、この二つがあればぶっちゃけ後の物はどうにでもなる。

 ただ、この二つは一点ものだから無くなると死ぬ。


「………わかりました、随分と吹っかけられたみたいですね」


「条件を聞かず頷いたお前が悪い。また一つお勉強になったねやったじゃん」


 これ以上話すこともないので、俺は外に止めてある馬車に向かって歩き出す。

 パンツ一丁の馬面がこっち見て嘶いてるけど、見なかったことにしよう。

 絵面以外は最高の性能だしな。


「ではお母さま………行ってまいります」


「えぇ、行ってらっしゃい。強く、強くしてもらいなさい。その方に」


 そう言って、ローズの肩を優しくこちらに押したチョコチ。

 なんだか感動的な場面なんだろうけどさ、門の陰になんか血まみれのパパんっぽいのが転がされてるのに関しては、突っ込まない方が良いのかな。

 メイドたちもなんか、見て見ぬふりしてるし、明らかにローズを引き留めようとして先回りしてたよね?それをチョコチにボコられたあとだよねあれ。



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