第47話 ダブルノックアウト
ぶっちゃけ五感系の異能で、視覚以外は俺と戦う場合、バットステータスでしかないんだわ。
今までに腐るほどそう言うやつを相手にしてきてもう対策も打ち終わってるしね。
「オラオラ!正々堂々勝負じゃこら!げぷっ」
ついでにゲップまでしてやれば、泣きながら手を前に出し、イヤイヤ、てしながら後退していくローズの姿が見える。
だけどね、まだまだ終わらないのよ、俺の前に立った以上、今後二度と俺の前に立ちたくないって思わせないといけないからね。
「それと、拝借してきました!パパんの枕カバー!!!」
「ぎゃああぁぁぁああおええええぇぇっぇええええええっ………おろろろろっろ………」
この勝負、俺の勝ちだっっっ!!!!
選手とセコンド、両方のメンタルを一手で打ち砕く、これぞ完全勝利!!!
リングの端で、キラキラを吐き出しているローズをしり目に、チョコチに視線を向ければ、かつてのトラウマが甦ったのか、血の気のひいた顔してやがる。
今回の面倒ごとは俺の得意分野だったため、簡単に決着することができた。
英雄みたいな連中と真面目に戦ってたら命がいくつあっても足りないからね。
腕吹っ飛ばしても爆笑しながら生やしたり、切った腕をくっつけたりする基地外が世の中にはいるんです。
流れで決闘に勝ったわけだけど、どうにもあれからローズが俺と距離を開けている気がする。
恨めしそうな顔でこちらを見ながら、視線を向けるとひゅっと引っ込んでしまう。
まあね、女の子だしね、げろ吐いてるのを見られちゃったしね、なにより『騎士の剣がうんたらかんたら、だから無敵ザマス!』とかほざいてたしね。あんまり覚えてないけど。とにかく俺なら間違いなく2年は部屋から出られない。
この日の夜に再び俺はチョコチに呼び出され、何故か執務室のようなところに通された。
黒い革張りのソファーに腰かけ、俺の挙動に目を光らせる給仕を冷かしながらチョコチが来るのを待っていると、数分ほどで、部屋の外に人の気配が近づいてきた。
自分の家だというのに、律義にもノックをしてから入室してきたチョコチと、頭に包帯を巻いているパパん、そして俺をめちゃくちゃ警戒しているローズ。
パパんとローズがいるのは少し予想外だったけど、このメンツからして話す内容はあのことだろう。
「お待たせいたしました」
静かに俺の正面のソファーに腰を下ろしたパパんとチョコチ、そしてかなり嫌そうな顔をしながらローズが俺の隣に腰かけてくる。
そんなに嫌な顔されるとおじさん泣いちゃうぞ。
「今回の決闘では、娘に怪我をさせないようにご配慮いただきありがとうございます」
まず、チョコチが俺に頭を下げてきた。
しかし、それをパパんとローズが必死にやめさせようと動き出す。
「おまえ、あれはこいつが卑怯な方法でしか戦えなかったから、たまたまそうなっただけだ!」
「そ、そうですわ!あんなもの、決闘でもなんでもありません!まともに戦っていれば私が負けるはずありませんもの!」
確かに嗅覚系の異能なら、危険をかぎ分けることもできるだろうし、なかなか強いんだろうけど、所詮は外れの異能だ。
超一流のやつらには当然のこと、一流のやつらは、それを掻い潜る術を持っているし、二流はそれに対抗する策を講じてくる。
「あなたは黙ってて。それにローズ、あなたはまともに“戦えなかった”のではなく、まともに“戦わせてもらえなかった”だけよ。そんなことも分からないから討伐ランク30程度の雑魚に負けるのよ」
確かにね?チョコチレベルになれば雑魚かもしれないけどさ、普通の人間に取っちゃ村崩壊レベルの災害だからねそのランク。
俺も蔵書庫の中身を読み漁ってから知ったんだけどさ。
「あ、あれは………私が油断してただけでして………」
「あなたの戦い方は冒険者の戦い方じゃないの。これを指摘せずに放置してしまった私の責任もあるけど、そのことに気が付かせてあげなかったあなたにも責任は十分にあるわね」
そう言って今度はパパんが睨みつけられてる。
肩がビクッとして、急に縮こまり始めたパパんは汗を垂れ流しながらどんどん小さくなっていく。
「そもそも、魔物討伐にどうしてそんなちんけな獲物一つで出かけようと思ったのかしら、その剣には神の力さえも暴発させるような特殊な力でも備わっているの?」
あ、それ俺の剣のことじゃん。
ってかあれ、厳密に言うと剣じゃないんだけどね。
「そんな能力は………」
「であれば、そのちんけな剣で、15メートルを超える巨大な魔物をどう倒すの?何週間も斬り続けるの?一度でも当たれば即死してしまうような攻撃を、それだけの間回避し続けることがあなたにできるの?」
うわ、これって俺が美人局に装備奪い取られた時の話しじゃん。
後から全部回収したとはいえ、あの時は死ぬかと思ったね。
「そんなこと………私にはできません………」
「であれば、冒険者の戦い方を学びなさい。丁度、世界中どこをさがしても、これ以上の先生はないというお方があなたの隣にいるんだから」
違います。
僕のできることは卑怯な方法で、安全かつ迅速に魔物を嵌め殺しにする方法だけです。
「この人が………そんな………」
「あなたの嗅覚はさすがと言えるわね。世の中に数多く存在する冒険者の中で最も優れている方を引き当てたのだから」
そんなわけあるか。
何ならここに連れてこられる前にこいつのボディーガードにボコられたばっかりだわ。
こんな貧弱から学べることなんて、食べられる草の見分け方、くらいのもんだ。
「チョコチ、俺を持ち上げるなよ。変に期待させても落胆されるだけだろ」
「ふふふ、どれだけ期待させても足りませんよ。どうせ一か月もしないうちに認識を改めることが起こりますし」
おい、それって暗に月一でアクシデントを俺が起こす。みたいなニュアンスに聞こえるんだが。
「ビターバレーのギルドに紹介状を書いておきました。中にはユーリ様の物も同封させていただいてます。我が家保有のバシャヒクノスキーを二頭程お貸ししますので、それを使ってビターバレーまで向かってください。ローズ、あなたはビターバレーの迷宮で………そうね、50階層を超えるまで帰ってくることを禁じます」
馬野郎を貸してくれるのは嬉しいんだけどさ、あいつら一回逃げ出すと勝手に家に帰りやがるから面倒なんだよね。
そこらへんで道草食っててくれる馬とは全く別物だし。
それに50階層じゃ、長くても1週間ちょっとしかかからないぞ?なんでそんなに大事みたいな顔でパパんもローズも驚いてんの?
あ、そう言うことか、俺みたいに“降りるだけ”じゃなくて、“攻略”ってことか。
だとしたら確かに2,3年はかかるね。
「必要最低限の装備を整えたら街を出なさい。そして、本当の冒険者になった所を私に見せてみなさい」
ちげーわ、こいつあれだ、俺のトラウマを共有したい人間を探してるだけだ。
なんて女だよ、自分の娘に何てひどいことしやがるんだ。
「ちなみにだけど、私はかつてとある方と旅をしてたんだけど、その方は荷物の全てを私に持たせて、自身はアイスキャンディーを舐めながら森を歩いてたわ。あの時ほど殺意が湧いたことは無かったわ。だけど、そう言うこともきっとあるから、とにかく頑張りなさい」
何コイツ、さらっと毒吐き出しやがったぞ?
というか、ただ飯食らいを働かせるのなんか当たり前じゃん、何が悪いのよ。
「そ、そのようあ悪逆非道な方と旅を………お母さま!私頑張りますわ!頑張って、いつかこの男をブチ転がしてやります!」
口きったねえなおい!お嬢様がブチ転がすとか止めなさいよ!それに誰が悪逆非道じゃ!それお前の憧れてる相手だからな!?憧れの千器様の話しだかんな!?
「あなたはローズと装備を見繕ってきてあげなさい。私はこの方と少しお話しがあります」
パーフェクトエアーになったパパんが、結局ほとんど口を開かずに退出していった。
ざまあみろ、枕カバーくっせえんだよばーかばーか。
「はぁ、強かになりやがって」
「ふふ、ユーリ様こそ、随分と懐かしいお姿になられて」
懐かしいな、童亭のやつらと一緒に冒険してた頃とか。
こいつを連れ回した時期とか。
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