第42話 常識は、皆違って皆いい
頭から真っ逆さまに落っこちた女に、少し離れたところで成り行きを見守っていた藤堂LV10みたいなガチムチ連中が必死の形相で駆け寄っていき、動かなくなった女を抱き上げ、俺を睨みつける。
「貴様ぁァァァ!お嬢様に一体何をしたぁぁあ!!!」
そう、連行である。
それも、フルボッコにされてからの連行である。
おかげで、俺のハンサムフェイスがちょっとだけ不細工になっちまったが、まあ傷ってのは男の勲章みてえなものだからな、逆にこれで男が増したってもんだ。
「ッざけんじゃねえ!俺は無実だ!離せくそ!汗臭いんだよ!このガチムチン共が!!!」
言動と内面が一致しないのはよくあることだろう。
人間なんて二面性がある生き物だしね。こういう事も仕方ないと思う訳ですよ。
そのまま馬車の後ろに繋がれ、ドナドナされていく事20分、街の連中からは好奇の視線と、「見ちゃいけませ!」という賛美を浴びながら、俺はこの街で一際デカい館にたどり着いていた。
市内引き回しをされ、全身擦り傷だらけに泥だらけのまま、ミノムシみたいな恰好で館の門を潜れば、20人ほどのメイドが両サイドに列をなしてのお出迎え。それに加え、メイドの背後には美しい庭園が広がっており、色とりどりの花々や、豪華な噴水を始め、放し飼いにされているのか、小動物たちがそこを駆け、そのさらに背後には身長90センチくらいの一筆書き出来そうな顔のオヤジがパンイチで走り回っている。何を言っているのか分からねえと思うが、俺が一番わからねぇわ。
視界に写り込んでしまった汚物に心底気分を悪くしながら、メイドの作った花道を引き摺られ、二分後には冷たい石床の牢屋にぶち込まれた。
あれ、おかしいな。俺食客になれるってんで来たはずなのに。
「貴様の処遇はお嬢様がお目覚めになられてから決定する。それまでに………懺悔でもしておくんだな」
殺す気満々じゃないですかヤダー、ってマジか。
このままじゃ殺されるの俺?なんで異世界に来て、ようやく自由気ままに生きていけると思ったのに、いきなりこんなのってひどすぎるよ!世界は残酷だ!
「まあよくあることですな………脱出成功っと」
生体魔具で呼び出したナイフで俺を拘束しているのか、あいつらの趣味なのか知らないロープを切り刻み、体の自由を得ることができた。
まあ、並ばなくて済んだだけでもよしとしようじゃないか。
「それにしても、やっぱ倉庫送りにしておいてよかったわ」
いや本当に良かった。あの剣をアイテムボックスに送っておいたお陰で、無駄に死人が出なかったわけだしな。
あの護衛連中も、俺とあの女が話しているのを無理に止めたり、いちゃもんをつけてきた訳ではないし、純粋に仕事だからね、心の広い俺は許すよ。
だけど、いくらか請求はさせてもらうつもりだけど。
「どうしましょうかね。下手に逃げだすと経験則的に事態が余計悪化するんだよね」
前の時もこんなことがあったが、その時に勝手に牢屋を破って無実を訴えたら、有罪無罪云々の前に、お前、牢屋直してこいや、って言われて、直したら結局有罪認定されて、自分が直して、ちょっとサービスしてやろう、とかふざけて魔改造した脱獄不可能な牢屋に投獄されたんだよね。
ほんと、閉めると壁になるドアとか反則だわ、支配人の合鍵使えねえし。
特にやることもなかったので、非常食用の燻製とか、塩漬け肉を作り溜めることにした。
もう二度とレーションなんか食いたくないからね。さっさと収納袋じゃなくてアイテムボックスを取り戻さないと。
長期保存用の容器に入れてた調味料は無事だったけど、他の食料一式は全滅してたしな。道中ロイヤルウルフに500年物の熟成残飯をくれてやったら10秒くらいで泡吹いて倒れてたし。
「………いやあなた、何をしていますの?」
保存食作りに勤しんでいると、突然牢の前から声が聞こえたので、視線を移してみると、俺の肉をガン見しているあの女がいた。
心なしか食べたそうに見える。
「食べる?」
「ひ、一切れだけ、もらって差し上げますわ」
欲しそうにしてたので、肉を少しそぎ落とし、それを紙皿に乗せ、牢屋から出て看守用の机にそれを置いてあげた。
「まだ少しえぐみがあるかもしれないけど、まあ食えるっちゃ食えるぞ」
「えっ!?ドア………!?ええぇ!?」
「何してんの、早く食べないと見つかって怒られるでしょうが」
「い、今ドア、え、普通に開いた?、え、カギは?というかロープは?」
「どんだけ質問攻めしてんだよ。大人はな、自分で答えを見つけなきゃいけない生き物なの。誰も答えなんか教えてくれないの。教えてくれたとしても、それはそいつの答えで、お前の答えじゃないの。分かったらさっさと食えよな?俺は戻るから」
全く、これだからいいところのお嬢様ってやつは。なんでも教えてもらえると思ってたら大間違いだぞ。
とにかく、看守が来る前に牢に戻って、カギをつけなおして、完成した肉をしまって、天日干し用に作った窓にカーテンかけて………よしよし、まあこれで何とか誤魔化せるだろ。
「窓ッ!?窓なんてありました!?普通に窓開いてましたし!?って言うかお肉美味しっ!?ナニコレおいしっ!?」
少女がなんだかぶっ壊れ始めてるけど、まあ俺の知ったことではない。
あの藤堂LV10みたいなのが来るまではおとなしくするって決めたのだ。これ以上殴られたらさすがの俺も我慢の限界だ、マジでウンコ漏れる。
「そういやアンタ、なんでこっち来たわけ?」
肉にがっついてる少女に声を掛けると、とてもいいとこのお嬢様がしていい恰好じゃなかった。
肉を噛みちぎろうとしているのか、かじりついたまま、口の隙間から涎が垂れている。
っていうかね、それはね、かじるものじゃないの、しゃぶるものなの、そうやって柔らかくして、最後に噛むの、分かる?
「とにかくそれを一回置きなさい」
「いふぁでふふぁ!」
「あ、はい」
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