第43話 チョコチップメロンパン
ようやくお肉を飲み込むことに成功した少女が、改めて俺の前にやってきた。
「少し見苦しいところを見せましたわね」
「とてもな、とても見苦しかった、あと涎たれてるから拭きなさい」
「そんなことはどうでもいいのです、それよりもまず、謝らせてください」
「よし許そう、美女1000人で」
「死刑で良かったかしら」
「なに、俺くらいの紳士になれば女の子が謝って来れば何の見返りもなく対価もなく許すことくらいわけないさ」
「さすが道化ですわね」
「でしょ」
なんだろう、この少女、メチャメチャはなしやすい気がする。
というかノリいいなおい。
額に手を当て、やれやれと言った様子で肩をすくめた後、少女は少しだけ乱れた服を直し、俺をまっすぐに見つめてきた。
「私の名はローズ・バンク、このヴォーグ交易都市の領主の娘をしておりますわ」
あれ?ここってヴォーグだったの?こんなに栄えてたっけ、というかヴォーグって碌な名産も無いくせに名前だけある不思議な街じゃなかった?500年で交易の拠点になったの?
「俺はユウリ・オオツカだ、しがないイケメンをしている」
また呆れられる、そう思ったんだけど、どうにもローズの様子がおかしい。
俺の顔を見て、驚愕の表情を浮かべてやがる。
「ウォーツカ、ですって………?」
「オ・オ・ツ・カだ」
「まさか、あなた、“あそこ”の関係者じゃ………」
「あそこってのがどこのことかはわからないが、俺は旅をしている者でな、特定の拠点を持ったことはない」
ここで俺が身バレすると面倒になりかねないので、千器と繋がるような事は言わないようにする。
本当はネタバラシして、何故か上がったネームバリューに物を言わせたハーレムをしたいんだけど、どうにもあの副団長の発言が気になるし、明らかに噂が俺の実力を大きく逸脱してるからね、そんなことしたら速攻死刑宣告と同義の、超高難度クエストに駆り出されて棺桶の中に直行便だぜおい。
「そうですの、それは残念ですわ」
そう言っていくらか肩を落としたローズに、俺は別の話しを振ることにした。
このままこの話を続けていくと、どこかでぼろが出るかもしれないしな。
「ところでなんであんたはここに?」
「あぁ、そうでしたわ、あなたを迎えに来たんですの。こちらの不手際でこんなところに押し込んでしまいましたからね。お詫びもかねてお父様とお母様が食事を共にしたいと」
「よし、行こうか」
「………あなた平然と牢屋を破るのやめてくださいません?なんだか我が屋の防犯設備が心配になってきますのよ?」
「それなら大丈夫だ。ここ、なかなか良いつくりしてるから普通のやつらじゃ破れないよ」
俺みたいに支配人の合鍵とか、カギにまつわるアーティファクトを持ってるなら別だけど、さらに言えば、それを取り上げられないように隠せるならの話しだけど。
「もういいですわ、ともかく付いて来てくださいまし」
これでようやく薄暗くてじめじめした場所から脱出できる、そう思うだけで心が晴れやかな気分だぜ。
「自由って素晴らしいな」
「牢屋を自由に出入りしたり、改造したり、中で料理をし始める人が今更何を言ってますの?」
「は?だって脱獄すると余計面倒になるから大人しくしてたんだぞ?それってつまり拘束されてるのとほぼ同じじゃん」
「いや、まったく………はぁ、もうなんかどうでもいいですわ、あなたに関して深く考えるとろくでもないことになりそうですし」
再びため息を吐き出したローズが俺の前を歩く。若干プリプリしながら歩いていることから、結構怒ってるか、マジで呆れて物も言えなで感じなのかも知れない。あぁ、そう言うことか、生理だな。
彼女の背後を付いて歩くこと2分少々、ようやく食事をとる場所についたらしく、俺は扉の前で待てと言われてしまった。え、ここにきて放置?
最初にローズが入り、二、三話したあと、俺が手招きされたので、中に入れば、無駄に長い机の端っこに座るイカついおじさんと、見た目20代中盤から後半くらいのいやらしい雰囲気の女性が笑顔で迎えてくれた。
「てめえ何儂のローズちゃんの2m以内に近づいてんだぶっ殺すぞ」
前言撤回、一名サイコ野郎だった。
満面の笑みでそんなことを言われたら、小心者の俺の佐助と佑介は縮み上がって一体化し、合成魔獣ガーゼットになってしまう。
「お父様、こちらの方が先ほどお話しした方で、名前をユーリ・オオツカというそうですわ」
呆れた顔のローズが俺のことを手のひらで指し、紹介してくれた。
その直後、ローズパパとセクシーダイナマイトマミィが青い顔で、椅子をひっくり返しながら立ち上がった。
「ウォーツカ………だと!?」
「お父様、オオツカです、ちなみにそのくだりはさっきしました」
なんだかんだ仲いいのかなこの家族、というかパパん顔こわっ!?
「う、うむ、そうか、そうだよな、さすがに千器様の関係者がここにいらっしゃるわけがない………」
顎髭をなでつけながら、自分に言い聞かせるようにそう言ったパパんが、ゆっくりと席に戻る。
しかし、何故かママンが俺の顔をじーっと見て………それはもう穴が開くくらいじーっと見てきている。
あれ、もしかして俺のこと好きになっちゃったとか?全くモテる男はつらいねぇ、さすがに人妻はあかんよ?パパんだって娘だっているんだぜ?まあ凄いタイプだし?目元のほくろとかもうエロの化身ですか?って感じ………かんじ………ほくろ………え、アイツチョコチップじゃね。
「お前まさかチョコチ―――」
「ユーリ様ぁぁぁっっっ!!!!」
床を踏み抜くようなケリ足によって生み出された爆発的な推進力が、破城槌を彷彿とさせる威圧感を持って、彼女の体を俺に射出した。
一瞬の出来事で、反応が遅れてしまったので、仕方なく生体魔具を使い、大楯を呼び出しつつ、腰を落としてそれを防いだ。
「ふんぬぅぅぅぅっ!」
床に突き刺したバンカーが、俺の体が後退するのに合わせ、床の穴を広げていく。
久しぶりの運動強度に、筋肉が悲鳴を上げ、体中からプチプチと耳障りな音が聞こえてくる。
まさかだった。確かにローズの身長を考えれば………って無理だわ!俺がチョコチップのこと面倒見たのなんかあいつがまだミジンコくらいの大きさの時だったし。
「落ち着け!館が!館が壊れるだろうが!!!!!」
ついに壁際まで押しやられ、苦し紛れに声を上げてみれば、案の定突進はすぐに収まった。
え、もっと早く言っておけばよかった。これ絶対明日には筋肉痛だかんね?
「ユーリ様ユーリ様ユーリ様!!!!お帰りなさいませユーリ様!」
「まて、俺の話はマジでやめろ、俺が千器と繋がるような話も無しだ!千器だってバレたら間違いなく死ぬ!それに面倒に巻き込まれる!」
「はっ!?その異常なまでに面倒を嫌う物言い!間違いなくユーリ様です!500年、500年お待ちいたしました!」
「話を………聞かんかいッ!!!」
盾を換装し、次に呼び出したのは、スリッパ………型のアーティファクトだ。
トゥルースリッパという名前がある通り、これで叩かれるといかなる防御力を持っていたとしても、ダメージが通る。ただし、ダメージはスリッパで叩かれた時と同じ。
「はんふっ」
「とにかくだ、俺が千器だってバレると面倒なんだよ、それになんだか知らねえけど千器の名前がもう宇宙空間を突き抜けるくらいには持ち上げられて、既に違う銀河も突き抜けそうな勢いなんだ、だから俺の事は内緒にしてくれ!」
「わかりました!」
先ほどまでの落ち着いていて、柔らかい笑みを浮かべる人妻はなりを顰め、今の姿はまるで大好きな先輩に媚を売って学内カーストを駆け上がろうとする女子の様だ。
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