第41話 会話のドッチボール

 今の俺のいる場所からビターバレーまでは徒歩で約1月半かかる。しかし、次の街で上手く乗合馬車とかに乗せてもらえれば、その時間が大幅に短縮することができるだろう。

 まあ、何にせよ乗合馬車に乗るのにも、装備をとりあえずどうにかするのも金がかかるわけだ。だからこそ、道すがら出会う魔物は解体して、収納袋にぶち込んでいる。


「目測で40万くらいか、まだまだ足りませんなぁ」


 40万は今日一日の利益だ。昨日は幸いにも小規模の盗賊団もどきがやってきたので、どうにかこうにか退けて、アジトの金品を巻き上げた。

 またいつかあいつらのアジトを襲いたいものだ。


 約4日のサバイバル継続で、ようやく街を囲う壁が見えてきた。

 この辺りは飛行系の魔物が少ない土地柄で、対空兵器は街を覆い隠す様に建てられた巨大な壁の上にバリスタやら、砲台やら、魔法兵用の高台やらを設置しただけのものだ。

 少し南に進んでいくと、こことは大きく変わって、壁の高さは低く、各住居の上にはバリスタ、高台の設置が義務付けられていた。高所から毒物や炎を吐き出されたら、身を守る壁が仇になることをよく理解しているためだろうね。

 それに、この辺りはまだ小型、あるいは中型が多いせいか、冒険者の武器も取り回しの良い直剣や、三叉槍が主流の様だ。

 つまり何がいたいかって言うとだね。入街希望者が列をなしているわけですよ。

 

 俺もその最後尾に並ぶと、人の列が少しうねっているように見えるくらいには距離がある。

 なんて面倒な。


「ねえあなた、冒険者なのよね?」


「なんでこんなに並んでんだよ、ふざけんなよマイケルジャクショウでも転生してきたのかよ」


「ちょっと?話を聞いておりますの?」


「それかあれだな、Ⅴ'z、個人的にそっちの方が嬉しい、ウルトラソゥ!ってしたい」


「ウルトラソゥ?何それ、冒険者の合言葉ですの?」


「ばっきゃろー、お前ウルトラソゥって言ったら“はい!”って言うのが法律でも義務付けられてんだろうが!んなことも知らねえのか!」


「ひっ!?きゅ、急に反応しないでくださいまし、びっくりしてしまったじゃないですか!」


 な、なんだこの生物は……見た目は10代中盤か、もう少し幼い、中学生くらいに見える。それにこんな場所に不釣り合い名程綺麗な、ドレスの上にプレートを張り付けたようなオサレ装備。話し方もどことなく何か凄そうな気がしないでもないようなそうでないような感じがする。

 そして、何よりだ、この女、ナチュラルに俺に話しかけて来て、会話を作り上げただと!?

 こいつなかなかできるじゃねえか。


「ってか誰だお前」


 「んなっ!?この私を知らないと!?あなたはもしかしてとんでもない田舎者ではなくって!?」


 失礼な奴だ!みたいな感じではなく、田舎の出身なのか、と来たか。まともに話しができる系の人は久しぶりに会ったな。

 少し前になんだか会長だったものが、いつの間にか特定の記号をひたすら繰り返し続けるスプラッタアーティストになっちまったばかりなのに。


「おう、田舎から出てきたばっかりのイケメンだ、よろしくな」


「あははは、は……え?」


「おまっ、突っ込むなり否定するなり色々あるだろ!その反応が一番傷つくんだよ!」


 愛想笑いからの、顔を二度見、そして、心底驚いた様に“え?”って、お前マジでひどい奴だな。

 聞き間違いじゃねえから!お前の耳をもっと信じろよ!


「ま、まあいいでしょう、人には人の、それぞれの価値観や美意識、考え方がありますからね……」


「フォローになってねえんだよチクショウ!!!」


「あなたひょっとして冒険者じゃなくて、道化だったのかしら、だとしたら是非我が家の食客に招きたいくらい面白い方ですわ」


「バカ野郎、俺がいつ…………いつ、お前、えっと……い、いつ道化じゃないって言ったよ!」


 食客を招けるレベルの家に厄介になれるならなんだっていい。

 生き残るのに食事は必要なんだ。

 プライド?は?知らねえ単語だな。


「くすくす、やはりそうでしたのね!通りであなたからは面白そうな“ニオイ”がすると思いましたわ」


「えうそ、俺匂う?それ俺の全身からあふれ出すハンサムフェロモンじゃなくて?」


「あははっ!あなた、本当に面白いのね!ぜひ今晩、我が家に気てお父様とお母様にも何か見せてくれると嬉しいわ」


 過去一の大笑い頂きました。

 これは喜んでいいの?ねえ、本当に俺喜んでもいいの?なんか大事なものを切り売りして皆の笑顔を守ってる気がするんだけど、アンパンの顔のマンより色々切り売りしてる気がするんだけど。


「ではわたくしは先に行っておりますのでこれで」


「あ、ごめん、俺マジであんたのこと知らねえんだわ」


 ずり落ちた。

 近くに止められた白馬に、足を掛けた辺りで、それはもう見事に。

 そして、パンツ丸見えである。










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