第2章 迷宮再び

第39話 やることは多い、やれることは少ない

 パーティーやクラスメイトと別れ、オルトロスの残骸を一瞥し、三日ばかり自給自足の生活を行った後に、俺はようやく街に付いた。

 確かここは酪農とかが盛んな村だったハズと、蔵書庫の中から抜き取った知識を思い浮かべる。


 とりあえず最低限の装備が整ったら“星の記憶”に向かってブックメーカー共に話を聞かないといけないし、その後は生活基盤をどこに置くかを考えないといけない。 

 ギルドに登録しなおさないといけないし、また地道に信頼を作らないといけない訳だ。

 非常に面倒なことこの上ない。

 だけど、それもこの世界で安全かつ、確実に生き残る方法だ。

 ある程度有名になってからは、人間関係で死にかけることがかなり減った。

 まあ、その分違う事で死にかける割合が増えたんだが。


「それにしても、あれだけの勇者を一気に動かしたら“イベント”が起こるって分からないのかな」


 俺の主観だが、世界ってのは一つの物語で、創作物のような物だと思っている。勿論書き手は神であり、登場人物はそれぞれの役割を与えられ、その中で精一杯生きている。そして、神が注目することでイベントが起こる。神様って奴は無駄に筆が走るようで、結末は書き上げるまで当人でも分からないような物だ。まあ、さすがにここじゃないって場面では覚醒とかのテコ入れが起こるし、敗北イベントなんかもあるが、それは言わばマニュアル操作中の出来事で、いくらでも都合よく話を進めることができる。しかし、物語として成立するような死に方であれば勇者も英雄も平等に死ぬ。強大な敵であったり、超常の存在だったりと、この世界には残念ながらそんな製作者側に一歩踏み込んで、違う理の元に生きる生物が存在してやがる。

 まあ、そんな化け物の話は置いておいてだ、問題はマニュアルではなく、セミオート、あるいはオートの時だ。筆が走りまくっているような状況では、勇者も英雄もしぶといが、それでも死ぬことがある。そこに都合のいい現象はなく、たまたま助かるなんてこともなくあっけなく死ぬ。 

 では、どうしてそう言った事が起こるのか、答えは簡単だ。神が筆を走らせてしまうような状況、例えば勇者とか、そう言った存在がいれば、それだけ神はそこに注目し、そこにイベントを起こす。漠然としたものだが、これが意外と正しい。

 かつて、俺のいた時代で、保有勇者数が1200とかバカげた国が爆誕した。奴隷に魔力回復薬を腐る程浴びせ、精神が破綻するような勇者召喚を何度も行わせ、大量の勇者を抱え込むことに成功した、当時最強の武力を誇っていた英雄国家シュテルクスト。そこはある日、たった一日で消滅したんだ。原因はさっきちょろっと出た超常の存在。個性の殆どが効かず、勇者の力も、世界の寵愛も神の加護も、異能だろうと全てをねじ伏せてしまう、上の理に生きる存在。その中でも序列5位にして、肉弾戦最強ともいわれた存在、戦神モンテロッサの襲撃を受けたわけだ。

 強大な力には、強大な反発する力が降りかかる訳で、その日のうちに殺された人間の数は100万じゃ桁がたりないっていわれてるレベルだ。

 統制協会のエース、キング、クイーン等の上位戦闘員が総出と、1200人のうち生き残った350人が束になって戦ってぼろ負けした化け物。それが神の名を冠する神代の生き残り、その中でも殊更強力な個体。モンテロッサの力だった。


 今回の召喚も、そう言った事が十分に考えられる。

 モンテロッサ級の化け物がそう簡単に目覚めるとは考えにくいが、それでも警戒しておいて損はないだろう。


 あ、ちなみにだが、俺は注目とか関係なく問題が降りかかってくる。

 そもそも無能なのに、どうして危険が毎年降りかかってくるのかよくわからない。

 神が間違いなく俺のことを殺そうとしているのは分かってる。


 だけどそう簡単に死んでやるほど俺は優しくないぜ。

 それと、俺の話しの中に出てきた神と、泉の神は別物だ。


「あー、統制協会か、それにマキナの都にもいかないとな」


 面倒ごとはまだまだ終わらない様だ。

 これからこっちで生きていくうえで、統制協会との連携は必須になってくる。

 この世界に取り込まれた勇者たちの集まりだし、あいつらは集まっても“イベント”が発生しないからな。

 世界に貢献するメリットって感じなのかね、でもそしたら他の勇者も同じだと思うんだけどな。


「それもそのうち分かるか」


 とりあえずは、商業都市ビターバレーにある迷宮、その最下層に設置した俺のアイテムボックスを取りに行かないといけない。

 それと俺の“一張羅”も捜索していかないとな。 

 果たして、いくらかかることやら。

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