第38話 想像よりも現状がひどい事なんかよくある

「で、でもあれだろ?なんかちょっとビーム出るやつとか、重力いじれる程度の……」


 本当にやばそうだと思った物は基本的に流してないからな。それでもこれだけの扱いを受けてるってことは、ひょっとすると俺の知らない使い方があったんだろうか。


「あぁ、月の光を収束し、放つことでアンデット等の魔物を無条件で消滅させるアーティファクトですね!あとはアンチグラビティーフィールドの発生装置でしたか。どちらも大戦時にとても活躍したアーティファクトだと伺ってます。かつて君臨した呪国の死霊術師の生み出した100万のアンデット部隊を一夜で壊滅させた話などはよく母に寝物語に聞かせてもらったのを覚えています」


 あ、あぁ、そんなこともあったね確かに。でもあれね、当時の聖国の大聖堂の構造がちょうど良くてですね?月の光を集めて、女神に捧げる聖杯を満たすーって伝承なんかもあってですね?それとうまくマッチさせてあのビームを超絶強化して、なおかつ聖女の加護やら、英雄たちの加護を集中させたり、本当に面倒なことを繰り返してどうにかなったんだよね。

 おかげで大聖堂の集光レンズが熱融解するし、地面がガラス化するし、本当に後始末が大変だったそうな。

 あ、俺は後始末と、歴史的な建物を破壊したってんで追い掛け回されて国外逃亡しましたよ。

 あれ?国際指名手配されてもおかしくない?

 


「いや、それより驚かされたのは、機械人との戦争ですね。まさかアンチグラビティーフィールドで敵戦艦を敵戦艦の上に落としたり、隕石を機械人の国に落とした逸話は、初めてその話を聞かされた学生時代から今までで最もスカッとした記憶があります」


 違うの、あれも違うのよ。

 元をたどるとあの戦争俺達が悪いの。

 当時のバカ王女が『肩凝るし、重力?とかいらなくね?』とか全世界の貧乳と物理学者を敵に回しそうなこと言いだして、アーティファクトで遊んでたら、たまたま通りかかったマキナの戦艦が落ちてきたの。

 まあ、宣戦布告する予定で来てたらしいんだけど、先に手出したのこっちだし、隕石に関しては、晩飯のデザートが落ちそうになって、慌ててアーティファクト使っちゃったの。全力で。

 そしたら宇宙空間に作用したらしくて、隕石が降ってきただけなの。それがたまたまマキナのとこに落ちただけなの。結果オーライだったけど、あれは二度と使わないって決めたよね。


「とにかく、俺の事は内緒で、マジ頼む」


 俺の背後では、神崎と藤堂が穴の中でいじけてる会長を救助に向かって、「うわくっさっ!?」「げろの方が百倍マシだぜ!?」とか言ってて、穴の中からまたシャウトが聞こえるけど、そんなのはもう気にしない。


「んじゃもう行くから」


 とにかくさっさと金玉の回収に行きたい。

 今回の目玉商品をそうやすやすと見逃してたまるか。早くいかないと魔物に食い荒らされちまう。


「お、お待ちくださいっ!」


 しかし、そこで面倒なことに、俺の服を掴んできたリアリーゼとマリポーサの二人。

 二人して俺のズボンを掴むんじゃないよ。ちょっと嫌な音したじゃん。


「た、助けてくださらないのですか?そのために、お戻りになられたのでは……ないのですか?」


 縋りつくリアリーゼがそう言い、続いてマリポーサが俺を見上げてくる。


「あなた様の、あの領地を再興させるために、私達は今まで生きてきたのです……ですから、どうか、どうか我々をお救い下さい……」


 正直、ここ最近で一番イラっと来た。

 俺と千器姿の俺に対してあまりに態度が違うことに対しての怒りではなく、これはもっと違うことに対する怒りだ。


「お前らのことは、そっちにいる勇者が助けてくれるんじゃないのか?それとも、その勇者は信用できねえか?」


「い、いえ、そうではなく、私達はただ、千器様に助けていただきたくて……」


「それ」


「そ、それ?」


 俺の物言いに、リアリーゼとマリポーサが同時に首を傾げた。


「お前らさ、助けてもらう側のくせに、なんで“助けてくれる相手をえり好み”してんだよ。俺が昔助けたやつらで、あの領地にいる連中にそんな奴は一人もいなかったぜ?誰も彼も生き残るのに必死になって、足掻いて、無様に這いつくばりながら生きてたんだよ。それなのにお前らはなんだ?助けの手を自分で振り払って、その相手を邪魔だからって殺そうとしやがるとか、お前らこの世界舐めすぎ、バカにしてるとしか思えねえよ」


「―――っ!?ど、どうしてそれを……」


 驚愕するリアリーゼの背後で、マリポーサは全ての辻褄があったようで、震える手で顔を抑え、その場に膝をついた。

 たぶん“この世界舐めすぎ”ってので気が付いたんだな。


「助けるやつを選ぶ暇があるんなら、そんな余裕があるってんなら、そいつは助かる必要がねえくらい恵まれた環境にいるってこと、自覚しろよな」


 俺がこいつらを助けるのを辞めた理由は、確かに本人がやめろと言ったのもあるし、神崎が頑張るんじゃないかってのもあるけど、一番はそれだ。 

 こいつらは既に“助かる必要もない”んだ。


「ほんとにどうしようもない奴ってのはな、なりふり構わねえで目の前の藁に縋りつくんだよ。それ以外のことなんか見えねえくらい、追い込まれるんだ」


 俺がそうだった。個性の使い方も分からないまま、奴隷にされ、体をいじくり回されたことがあるが、その時、俺に手を差し伸べたのは、魔物と人間の交配を研究してる狂った野郎で、俺はそいつに騙された。

 施設を抜け出して、今度は研究所に投げ込まれ、そこで初めて個性の使い方を身に着けた。

 ぎりぎりのところで奴隷紋を解除し、その研究員を殺した。

 それに比べりゃこいつらは、全然幸せじゃねえか。

 飯も食えるし、服もある。部屋だってあるし、自由に話すこともできる。

 これで、一体何から救ってほしいのか、俺には見当もつかねえよ。


 再び俺の足に縋りつこうとするリアリーゼを、マリポーサが涙をかみ殺した必死の形相で抱き留めている。

 “気が付いた”んだろうマリポーサは、既に俺に頼れる状況ではないことを理解しているんだろうね。

 

「じゃあ、本当にもう行くからさ」


 そう言ってその場を後にしようとした俺の隣に、坂下が歩いて来て、小さく告げた。


「ありがとね、それとかっこよかったよ“ゆーりん”」


 おっと、いつバレたんだ?

 まあいいか、適当に誤魔化しておこう。


「ユーリンってのが誰か知らないが、いいおっぱいだな」


「触ってみる?いいよ?」


「マジでッ!?ほんとに!?あとでお金とか取らな―――はっ!?」


 にしし、と小悪魔フェイスで俺のことを見てくる坂下。これは一本取られましたわ。

 強かな女だぜ全く。おっぱいは柔らかそうなのに。


 坂下はそれ以上何も言わず、ただ俺を見送ってくれた。

 パーティーメンバーの事は、当面は脇役が面倒を見てくれるだろう。

 

 俺は少しでも早く残りの装備を集めて、老後に備えて資金作りをしないといけない。

 そのためには……。


「さらばっ!!!」


 オルトロスのキンタマが必要なんじゃぁあぁぁっぁぁあ!!!


 風を切るつもりで走り抜け、森の中に戻り、木々の間を進んでいくと、そこには、爆散したオルトロスの死体が周囲に飛び散っていた。

 あの女絶対許さねえ。生首があれだけ綺麗だったから他も綺麗な状態だろうって思っちまったじゃねえか。チクショウ。




 

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