第33話 得意分野になった途端強気になるやつがいる

「戻んないと!ゆーりん一人じゃ死んじゃうよ!だってゆーりん……戦えないって、言ってたんだよ?なのに、なんでそんな事言えんの!?」


 助けに行く、そう言ったら、従者として同行してきた女と、カストロさんが青い顔で止めてきた。

 どうしてダメなのかわからない。


「今行っても………もう手遅れだ。俺は引率として生き残ったお前たちを守る義務がある」


「有能なあなたが無能なアレの為に危険を冒すことはありません。どうか救助隊が編成されるまで辛抱ください」


 さっき噛まれたのが効いてるのかわかんないけど、青い顔のカストロさんと、表情さえ変えないリアリーゼさんがアタシの前に立って宥めようとしてくる。

 ふざけんな。こんなことで、こんなところでいきなり死んじゃったなんて冗談じゃない!


「邪魔ッ!どいて!」

 

 つい、言葉がきつくなる。 

 アタシに続くように皆も大きくうなずいて、二人を見たけど、二人の決意は変わらないらしい。


「なんで邪魔するの?アタシが勇者だから?だったら、勇者なんかもうやらない!こんな国ももう出てってやる!友達を見殺しにするくらいなら、アタシは勇者なんかじゃなくていい」


 そう言って駆け出そうとしたし、パーティーの皆もアタシに付いて来てくれるのが分かった。

 だけど、数舜後には、私の見ている景色が一転し、視界に写り込んでいた鬱蒼とした森は、澄み切った青空に変わっていた。


「………え?」


 何をされたのかイマイチよくわからなかったけど、それでも一つわかるのは、アタシはカストロさんに転ばされたということ。それも、痛みを感じることもない様に優しく。


「四つ足の獣なんかより、よっぽど人間の方がくみしやすいな」


 そう言って、私を見下ろしてくるカストロさん。 

 その顔は、さっきまでの恐怖に慄いた表情ではなく、騎士団4位という肩書に相応しい、威風堂々とした佇まいだった。


「生憎と私は人間専門でな。弱い魔物であればどうとでもできるが、あれだけの数に囲まれてはどうしようもないのだ」


 人間専門、そう聞いて少し納得できた気がする。

 通りで魔物相手には弱かったわけだ、と思う反面、戦うのなら人間も、魔物も関係ないのではないだろうかと思う部分もある。

 漫画やアニメでは特に人間と魔物の区別などしていなかった。強い人は相手がなんであろうと強く、弱い人は相手にかかわらず弱い。せいぜいが、外皮が硬い、ブレスのような物を吐く、大きい、などと言った部分だけであり、強い主人公たちはそう言った怪物を一刀の元に下していた。

 

「王都には優秀なプリーストが控えている。今この場で君たちが彼の元に向かうというのならば、私は君たちを多少痛めつけ、歩けないようにしてから王都に帰還しなくてはならない」


 これが騎士の強さ、これが対人間のエキスパートなのか。

 片腕を負傷していても、アタシなんか簡単にあしらえちゃうくらいに強いんだ。


「諦めてもらえたようで何よりだ」


 アタシの後ろにいる須鴨ちゃんや、デーブを見ながらそう言ったカストロさん。

 アタシがこんなに惨めに転がされたところからも、この騎士が言っていることが如何に正しいかわかってしまったんだろう。それに、助けに向かっても怪我をして転がされるだけで、諦めればすぐに王都に戻って救援を呼ぶことができる。

 どっちがいいかなんか誰にだってすぐに分かることだ。


「やだよ」


 でも、だからこそ、アタシは嫌だ。

 ここで逃げて、もし他の人があの人の死体を持って帰ってきたら、きっとアタシはもう立ち上がれなくなる。やっぱり、誰かの為じゃなく、結局は自分の為、どこまで行ってもアタシはそうなんだ。彼がいなくなったら、アタシが困る。アタシの日常が困る。だから助ける。

 それでいいじゃん、それの何がだめなの?開き直って何が悪いの?アタシは、アタシの為に彼を助けたい。後悔したくないから、今できることを全部やりたい。


「戻るなら、皆だけ先に戻ってよ。アタシは残る。立てなくされてもココに残るから」


 服に付いた土を払いながら、立ち上がる。

 その時に、カストロさんの顔を思いっきり睨みつけてやった。

 アタシは絶対に彼を助けに行くよ、そう理解させるために。

 どんなに邪魔をしても、必ず助けに行く、その決意を自分の中でブラさないために。


「―――その必要はありませんよ」


 だけど、そこでアタシたちよりも後に出発したグループ、あの場に残っていた私達以外の最後のグループが、アタシたちに追いついてきたのが見えた。

 戦闘を歩く副団長さん、その隣を歩く刀矢。

 最後尾には友綱がいて、中盤では周囲に虎太郎が目を光らせていた。


「彼を助けに行く事は許可されていません。何せ彼は“勇者”ではありませんから」


 アタシたちの前に来た副団長さんが、人当たりのいい笑みを浮かべながらそう話してきた。

 勇者じゃないってどういう事?なんで助けに行かなくてもいいの?


「俺から説明するよ」


 そうして、刀矢が話し始めた内容が、アタシや、パーティーの皆、そして友綱までも驚愕の表情に染めさせるものだった。



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