第29話 花粉症だから鼻で笑えないんだが

「アタシの能力って説明しにくいんだよねぇ、着る服によって特性が変わるし、今んところ何が出来て何ができないかわかんないし」


「そ、そうか、だけど、そうしたら君は恐らくオールラウンダー何だろうね。だったら部隊の中間あたりで、前衛と後衛、どちらにでもヘルプに入れるようにしててくれ」


「おっけ!わかったよ!」


 手のひらを相手に向ける様な、謎の敬礼をした坂下が自分の役割を与えられたようだ。

 次に話に上がったのは………まあ須鴨さんだわな。


「君の能力は?」


「わ、私はその、魔力を循環させるらしいんですけど、正直ぴんと来なくて………」


 そうだよね、古代技術とかそう言ったものに関心がないと意味不明だよね。

 魔力の循環?は?人間の体ん中でやってんじゃん。なんでそれを外でやんの?バカなの?ってなっちゃうよね。


「そうか、魔力系と言うことは恐らく魔法の方が得意なのだろうね。だったら君は後衛で、私の指示に従って、魔法を使ってくれ」


「わ、分かりました!」


「次はそこの……えぇっとなんだったか」


「拙者でござるなっ!拙者は対物障壁を使えるでござるよ!」


 ぽよよーんと、自身のふくよかな腹を叩いて自信満々に立ち上がったデーブ。

 何故か運動してないのに少し汗をかいている。


「そうか、では君は前衛でタンクの役割をしてもらおうか」


 ひどく適当な、そんな様子でカストロはデーブに言った。

 デーブもデーブで、自身がどの位置に適性があるのか分からないため、素直に従ったようだった。


「自分は肉体をある程度自由に変更することができるでやんす!硬さはまだ普通の金属位にしかならないでやんすが」


「じゃあ前衛で彼と共にタンクだ、体を硬化させて攻撃に耐えてくれ」


 カストロはアタッカーのような役割を自ら買って出た。

 体つきや、歩き方からしても、後衛ではないが、最前線に出る様な感じでもないと思ったんだけどな。


「お前は……荷物でも見てろ」


「うぇーい」


 どうやら俺はこの訓練で相当楽なポジションになれたようだ。

 しかしまあ、不安はぬぐい切れないんだよねぇ。なんせ“これだけの”勇者がいるわけですから。


 俺の心配をよそに、話しもまとまり、いよいよ出発だ!って時に、神崎、副団長、そしてマリポーサが俺の元に何故かやってきた。


「お前、会長に何をした」

 

 あ、やべ、そういや会長のメンタルブレイクしたの忘れてた。

 急いで会長をちらりと見れば、普段の凛とした様子や、醸し出す覇気にも似た何かが全く感じられず、まるで植物の様にただそこにいるだけの存在になっていた。


「女の子の日なんじゃね?」


「ふざけるな!お前が何かした事くらいわかるんだよ!」

「そうです!あなたのような卑怯な人間は他にいませんからね!」

「この子が君たちの言う無能勇者?確かになんの力も感じない低レベルなモノの様だね」


 出会い頭にいきなりいちゃもんつけたり、無能とか、こいつらどんな環境で育ったんだよ。

 

「しらねえよ、それに“そこの女”と俺は別に親しくもなんともない。向こうが一方的に何か言ってきてるだけだ」


 “そこの女”というところで、会長の肩が一度びくりとはね、三角座りの膝の間に顔をうずめてしまった。


「それでもだ!お前は会長になんでそこまでひどく当たるんだ!」


「ひどく当たったつもりはないんだけどな。ってか用事はそれだけ?だったら俺達もう行くけどいいかな?俺達の戦いはこれからなんだ」

 

 今にも打ち切られそうなセリフを言って、どうにかこいつらが絡んでくるという現状を打ち切りにできない物かと思ったが、どうやらそれが神崎氏はお気に召さなかったようだ。


「いい加減にしろっ!なんでお前なんかのために、会長が落ち込まないといけないんだ!謝れ!」


「うわお、とんでもない事言いますねあなた。お兄さんびっくりだぜ」


「どうしても謝る気がないというのなら、俺達と勝負しろ!それで負けたらお前は会長に謝って二度と会長を傷つけないと誓え!」


「え、やだよ、君との勝負って勝っても何も美味しくないし」


 真顔でそう言い返してやれば、神崎はついに堪忍袋の緒が切れたようで、剣を抜き放ち、俺にそれを突き付けてきた。

 おいおい、穏やかじゃないな。


「これは命令だッ!従わなかったら今ここでお前を斬る!」


「……だそうだけど、いいの?こんなとんでも発言許して」


 視線を副団長に向けてみたが、視線を逸らされ、カストロに向ければ鼻で笑われた。

 え、ナニコレ、こいつらマジでカスですやん。


「内容は?」


「この訓練でどっちが多くの魔物を倒せるか勝負だ!討伐数は従者の人に数えてもらえれば問題ないだろ」


「おーけーおーけーかしこまりだ。いい勝負にしようね」


 もう、相手をするのも疲れたので放置で行こう。

 

 俺の態度がまたも癇に障ったのか、視線を鋭くした神崎はさっさと戻っていった。


 






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