第17話 変な渾名つけるやつに限って苗字で呼ばれてる

 この世全てを恨んでいるような顔を俺に向けながら神崎に連行されていった会長を見ながら、ついため息がこぼれた。

 あれは面倒な類の人間だ。マジで関わりたくない。

 如何にちょっとくらいならおっぱい触らせてくれそうでも、それでも命をかけてまで触るような物でもない。

 1万ゴールドを握りしめて、安い娼館にでも行けばいくらでも触れるんだから。


「で、だ、どうして坂下が俺達の所に来たんだ?」


 俺の隣で太っちょのお腹をぱしぱしと叩いて遊んでいたギャルに声を掛けると、少し驚いたような顔をしながら、首元に下がっている物を俺に見せてきた。


「これのお礼、まだ言ってなかったっしょ?」


 おいおいマジか、本当にあの子が美人ちゃんだったじゃねえか。

 

「もうブスじゃないから大丈夫なんだな」


「それ言うなしー、まあそうだけど」


 未だに太っちょのお腹をぽよぽよして遊んでいる坂下だったけど、突如眼鏡っ子にその標的を移し、彼女ににじり寄った。


「りょたんそんは眼鏡外すと美人なんだからコンタクトにしなってぇ」


 りょたんそん?え、日本人じゃなかったのその子…………。


「い、いえ、私はそんな………」


 女子二人が乳繰り合うのを、俺とガリリン、デーブの三人で眺めている。

  

「なかなか良いものだな」


「そうでござるな」


「目の保養でやんす」


 なんかどっかで聞いたことあるような語尾のやつらなんだよな。

 しかしまあ、悪いやつらではなさそうだし、いいか。

 あ、ちなみに、デーブがござる、ガリリンがやんすだ。


 話をしているうちに、他の連中もパーティーを組み終わったのか、近衛が中心で大きな声を上げ、俺達はその声に誘われるように視線を近衛に向けた。


「では今から集団戦闘訓練を行う」


 簡単に言えば、集団の摸擬戦だ。

 これをするには各々の個性や能力を把握し、作戦を立てなくてはならない。

 他の連中がどのレベルで来るかわからないが、まあ少しだけ俺が格好いいところを見せて、童貞でも貰って欲しい。


「まずだ、各々の個性を教えてくれ、それに応じて作戦を立てる必要がある。それ以外に使える魔法、技能何かがあれば教えてくれると嬉しい」

 

 試合の開始は30分後となったので、その間にできる限りの情報をかき集める。 

 さすがに経験者から言わせてもらえば、周囲から聞こえる相談内容があまりにもお粗末で時折笑いそうになってしまう。

 

 個性にはいくつかの系統が存在し、例えば勇者のような【名称系】や、眼鏡っ子の“魔力循環”のような【技能系】、デーブの“対物障壁”のような【現象系】などが存在する。

 それ以外にも色々あるし、最も厄介だと感じるのが【概念系】の個性を持っているやつだ。 

 過去に見た中で最も強く、そして理不尽な個性がこの概念系“矛盾”という個性だった。


 ちなみに坂下の個性はドレスアップ、技能系と現象系の両方の性質を併せ持つ珍しい個性であり、ガリリンは身体変化という技能系だった。

 俺の個性も技能と現象の中間くらいだが、ここで気を付けないといけないのは“干渉力”である。

 干渉力は、世界に対してどれくらい干渉できるか、という物で、これは俺が独自に付けた名称だ。

 下位の魔物を1だと仮定し、俺の能力は2、良くて2.5と言ったところだ。

 少し見せてもらった限りではデーブは3、ガリリンは2.5から3、眼鏡っ子は4、そして坂下が6と言ったところだ。


 ちなみに、矛盾の保有者だった奴は9か10くらいだ。

 

「だいたいの作戦は決まったな、とりあえず、この中で近距離が出来そうなのが俺と、デーブとガリリンだ。デーブは障壁で相手の遠距離を防ぐことと、自分の身を守ることを考えてくれればいい、ってかぶっちゃけ前線にいなくて大丈夫。次に坂下だけど、遊撃ね。個性の応用が多すぎるから好きに暴れていいよ。ガリリンは俺と前衛行こうか。体を武器にすることもできるみたいだし、それなりに行けるべ。眼鏡っ子は個性使ってこの陣を使ってくれればいいから、そうしたらまあ、あとはデーブとペアで陣と個性の維持でおっけー」


 だいぶアバウトだけど、ぎちぎちに動きを縛るよりはこの方が良いだろう。

 まあ、初めての集団戦闘だとなかなかなれないことも多いしそこは俺が逐一チェックしていけば問題ないかな。


 余った時間はそれぞれの個性の活用方法何かを俺なりの解釈で話したり、眼鏡っ子の名前が須鴨涼香だってことを聞いたり、陣の起動方法を教えたりした。

 陣は俺が生体魔具で取り寄せた物ではなく、今さっき作ったもんだ。


「相手が誰だか分からんが、何となく負ける気がしないな」


 思ったよりもバランスがいいし、それにこいつらの士気も高い。 

 それに貢献してくれてるのは間違いなく女子二人だろう。この子たちには感謝しないとね。


「さて、んじゃそろそろ時間だし戻りますか」


 少し離れた位置で話していたため、近衛の声が聞こえる前に近くに移動を開始すれば、俺達を待っていたかのようなタイミングで近衛が声を張り上げ、いよいよ集団戦闘に入った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る