第16話 完璧に見える奴ほど意外といかれてる
摸擬戦から一週間が経った頃、俺は例の如く周囲の人間から侮蔑と嘲笑を受ける様になっていた。
まあ、だからどうしたって感じなんだけど。慣れてるし。
事の発端は、まあ分かる通り俺が脇役君に何の抵抗もなくのされたことだ。
一回は回避したけど、あれは皆の中ではまぐれってことになってるらしい。
さらに言えばだ、ウェルシェ王もそれを黙認している節がある。
聞いた話によれば、そう言った“競争”が生まれることが成長につながるとか抜かしてたらしい。
集団で1人をバカにして成長すんなら世の中今頃スーパーマンだらけだっての。
「うわ、マジでキモいね」
「同じ空気を吸いたくねえな」
「勇者の恥じだよな」
思ったよりも俺の評価は低いらしいな。俺の顔面偏差値がもう少し、本当にあとすこしだけ高かったら皆俺に尻尾振ってきたんだろうけどさ。
キャー悠里さんよ!抱いてっ!ってな。
「では今日の訓練を始める。今日の訓練は明日に控えているフィールド訓練を兼ねた遺跡探索の為に、いくつかのパーティーに分かれて訓練してもらうことになる。既にパーティーを組む予定のあるものは名乗り出て欲しい」
近衛の声に、ちらほらと手があがるのが見える。
この一週間でこいつらもそれなりに戦えるようになったし、個性に関しても理解を深めてきている。
中には身体強化までできるようになった奴も、少ないけど存在してる。
やっぱこいつらのセンスって化け物だわ。
俺なんか身体強化一瞬しかできないぞ。
手を上げた中に、神崎もおり、騎士が神崎に、誰とパーティーを組むかと聞かれたところ…………
「友綱、虎太郎、雅、それと京独会長です」
と言った。
坂下と会長も手を上げてたから恐らくそうなんだろうと思ったけど、二人とも何故か驚いた顔してる。
「いや、私は彼と組む気はないよ」
「アタシも今回はちょっと別件で、ごめんちゃい」
頬を人差し指で掻く会長と、手を合わせ、可愛らしくウインクまで決めた坂下が、何故か俺の方を向いてる気がする。
それと同時に、俺の厄介事センサーがバンバン鳴り始めたので、とりあえず気配を消して人ごみに隠れよう。
「じゃ、じゃあ会長は誰と組むんですか!?」
食い下がる神崎だけど、会長は視線も向けず「ちっ、見失ったか」とかバトル漫画に出てくるキャラが言いそうなセリフを言いだしたし、その隣では違う人と組むって言った坂下が放置されている。
嫌な予感しかないので、とりあえず、比較的俺に攻撃的な視線を向けてこない大人しい系のクラスメイトの所に行くことにした。
「やあ、ちょっと僕も仲間に入れてくれないかな?」
強く押せば断れなさそうな眼鏡の女の子に、若干脅迫気味にそう言えば、その子も慌てたように首を縦に振ってくれた。
よし、既にここのグループは、ふとっちょ、ガリ、眼鏡ちゃん、俺の4人で確定された。
40人のクラスだし、綺麗に4人で割れるからな!こうなったら俺の勝ちだ。
「いやーほんと仲間に入れてもらえて嬉しいよ!あっはっはっは!」
あえて聞こえる様にそう言ってみたら、ギョロっと会長がこっちを見て来て、心底イラついたような顔をしてきた。
学校生活では一度も見たことがない様な顔に周囲の生徒たちも驚いてやが…………かいちょー?
そうだよ、会長含めて41人じゃん…………このままじゃマズい、あの面倒な女と一緒になっちまう…………だれか、誰か他に誘える奴は…………。
そう思ってた時に、会長がこちらに来るよりも早く、俺の隣に活きのいい野生のギャルが生えてきた。
「アタシもいれてー」
「―――なんだとッ!?」
にぱーと笑った坂下の言葉を聞き、会長に戦慄が走るッッ!
しかしッ!勇者の個性を持つ神崎を瞬く間に倒してしまうような女、京独綾子はこんなことでは終わらなかったッッ!
加速ッ!抉る様に地面を蹴るッ!それによって生み出された推進力が京独綾子を加速させたッッ!
初速にして最高速ッ!京独綾子が坂下に迫るッッ!
だがッ!その猛追もここまでッ!その一手を打ったのは予想外ッッ!何と無能勇者の烙印を押される俺だったのだッッ!!!
「おっけー、はいきまりー」
「ごヴぁっふあっ!?」
なんか隣を冷凍マグロの出荷みたいな感じで滑っていった会長が変な声上げてたけど、気にしない。
「いよっしゃっ!皆もよろしくねっ!」
さすが、ギャルが苦手なオタクからも強い支持を受ける坂下のコミュ力だ。
俺の前で硬直してる眼鏡っ子がまるで化石みたいになってるけど、まあその内治るでしょ。
ガリリンと、デーブもまんざらでもなさそうな顔してるし、英断だったな。
「ちょ、ちょっと待つんだ!私の方が…………」
「みっともないぞ会長!憧れの会長がまさか先を越されたからって権力や暴力で自分の都合のいいようにしようって考える様なくそ野郎なのか!?だとしたら見損なった!二度と話しかけないでほしいって思っちまうぜ!まあ流石にそんなことはないと思うけど!憧れの会長に限ってそんなことはないと思うけど!!!」
“俺の憧れ”だなんて口が裂けても言わないけどね。
「ふぬぬぬぅ…………別に違うぞ、君の想像しているようなことは断じてない?ただ君の肩に糸くずが付いてたからね、ほら、男子たるもの身なりにしっかりと気を使いたまえ」
「にしては凄い声上げてすっころんでたけどな、マジざまあ」
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