第14話 顔が見えないからこそのわくわくってある
◇ ◇ ◇
会長からとんずらして逃げ出した先は、演習場の陰に隠れて泣いている女の前だった。
わざわざ前に来たわけじゃなく「ふぅ、ようやく撒いたか」とかカッコつけたらそこにいたんだよね。
んで、気まずくてどうしようって感じなのさ。
「どうした?大丈夫か?」
とりあえず、声を掛けてみることにした。
いやーそれにしてもこの女子、ええ体してますなぁ。
「う、うん、ごめんね、ちょっとさ………わかんないけど涙止まんなくってさ……」
小さな手のひらで顔をごしごしと擦る様にしている女子が、鼻声のままそう答えてきてくれた。
まあ、中にはそう言うやつがいるだろうね、いきなり戦えってんだし、何よりあんな金属の棒を人に振り下ろしたんだ。
それを実感して、場の空気に流されて動いた自分が怖くなったり、後悔したり、そもそも友達にそんなことした自分に嫌気が差したりさ、色んな感情があると思う訳よ。
え?俺?バカ野郎、友達なんざいねえからやりたい放題よ。
「いきなり拉致されてこんなところに連れてこられて、家に帰ることもできねえし、金属の塊で友達殴れって言われりゃ誰だって泣くわな」
「あはは、え、なにー?慰めてくれんの?」
「いんや、ただそう言うのも“知ってる”ってだけだよ、んま、あんまし時間かけると他のやつらが捜しに来るだろうから、適当なところで泣き止んどけよ」
俺も、最初は同じだったからな。
あの剣を渡されて、騎士に殴りかかれって言われて、泣き叫びながらやったらバカにされて、翌日にはもう魔物討伐で遭難したけど。
俺の時と、こいつらじゃ訳が違う。
俺は思春期真っただ中の中学時代だけど、こいつらは大人の手前の高校生だ。
そんな時期にいきなり呼び出されりゃ今までの価値観が全部ひっくり返りそうになって、心の中じゃ自分が世界で1人っきりみたいになっちまうんだよな。
「適当に聞き流していいけどさ…………俺は“そう思えるのは大切なこと”だと思うぞ」
なんせ俺はもう、そう言うの分からなくなっちまってるし。
「あははは、は…………いい事言うじゃん………ちょっとは元気出た、ありがと」
「顔も分からねえ女の子に感謝されてもねえ、これで美少女だったら最高なんだけどな」
「顔はね、ちょっと今ブスだから見せられないかな、ごめん」
顔を隠したままの彼女の頭の上に、生体魔具で取り寄せたアーティファクトを適当に置く。
このアーティファクトには精神安定や、リラックス、持ち主の不安を緩和してくれる効果があるんだが、普通の魔法の様に取り除くのではなく、あくまで緩和してくれるもので、精神に作用する貴重なアーティファクトの類に分類される。
生体魔具との接続を切断するわけだから、今後はこのアーティファクトは俺の自由に換装は出来なくなるけど、まあいいかな。
「お守りだ、寝るときは俺だと思ってその巨乳に挟んで寝なさい。挟んで擦ってもよし」
つい、しなくていいことをしちまったな。
まあ、あまりにも昔の俺と似てたから、仕方がなくって感じかな。
これも年長者で経験者の務めだしね。
「はぁ、いい事すると自分にその分の不幸が訪れそうで怖いな」
そんなことを言いながら、少し離れたところで気配を殺し、クラスメイトの戦いに目を向けた。
脇役君の様に個性を使った移動や攻撃をしたり、会長の様に並外れた身体能力や卓越した技術を持っているような連中はさすがに居なかった。
中でも藤堂君だっけかな、彼は凄まじいまでの脳筋ッぷりを披露してくれたよ。何あれ戦車?
魔法を使う者もちらほらいたが、まだまだ発動も遅いし、練りも甘いから大した脅威にはならないだろうけど、勇者って奴の成長速度はいかれてるからな。
今はこんなんでも、三か月後はもう一線級になってるかもしれない。
「って言っても、俺とは畑が違うからね」
俺は採取や調査がメインのド底辺冒険者だし、彼らに今こんなことを言えるのも、俺が少しばかり先輩だからだ。
あと数か月もしたらここにいる全員、それこそあの端っこで腹出して寝てるちょっと顔があれなおデブとかにも負けちまうんだろうな。
「そのためにも、まずは俺の倉庫の様子を見に行かないとな」
やることリスト第一位は、俺の昔の隠れ家がまだ生きてるか、二位が俺の倉庫がまだ生きてるか、三位が金稼ぎ、四位が…………ハーレムとか作ってみたい。
まあ、前回も挑戦したんだけどさ?大事な場面でひっぱたかれて別れを告げられて、その後騒動に巻き込まれて結局駄目になっちまうんだよ。
いい感じだと思ってても、いつもドキツイ張り手が飛んでくるわけですよ。
もうだめだねこりゃ。
自意識過剰な童貞は救えねぇぜ。
という訳で第四位は脱童貞に決定。
娼館じゃなく、しっかりとした卒業をしないとな。
まあ、そしたら娼館とかで追試もいいかなぁなんて思ったり、思わなかったり、はしないな。うん。娼館最高。
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