第13話 ストーキングとストッキングって似てる
◇ ◇ ◇
ふふ、愛らしい男だ。
あの焦ったような顔もそうだし、少しからかってやれば敏感にその気配を感じ取り逃げ出す。
空気を本当に察するのが上手いのか、それともただのヘタレなのか。
まあ、そんなことはどうだっていい。先程の戦いは、見事だったとしか言いようがない。
恐らくだが、対戦相手の…………えぇと、なんと言ったか、あの神崎君の側に良くいる…………あぁ、宮崎だ!ふむ、何か違う気がするが、まあいい。
その宮崎も恐らくは何かしらの違和感に気が付いているだろうな。
しかし、その原因や、何故そうなったのか分からない、と言った様子か。
それも仕方がないだろう。あのような技術はどこでも学ぶことができないし、それを身に着けようとするなど正気の沙汰ではない。
それほどまでにあの戦いで彼が使った技術が卓越した物だったのだ。
粗削りながら、その荒々しさは戦いの中で身に着けられた、型にはまらない故の粗さなのだろう。
余計なものをそぎ落とし、削り落とし、そして最後に残ったものがあの技術、と言ったところか。
私の異能である龍眼をもってしても、彼は普通の人間にしか見えない。しかしそれはごく一部を除いてという表現になるが。
身体能力は英雄にも勇者にも遥かに劣り、個性の力も干渉力が低い。そればかりか勇者の力も、世界の寵愛も、神の恩恵でさえも、かけらも持っていない。
なのにだ、それなのに、彼の背負う“呪い”は、それだけでも世界を崩壊させてしまうような強力な呪いだ。
そんなものを普通の人間が、その身一つに宿しているのだから、初めて彼を見た時は驚かされた。
決してその呪いは封印された力が、などと言ったものではなく、彼に倒された、もしくは殺された者たちの執念や怨念等の集合体だろう。
一体どれだけの修羅場を繰り抜けたらそうなるのか見当もつかない程だ。
「ふふ、楽しみだよ、彼がこれからどうするのか」
つい、にやけてしまうのを我慢できない。かつてここまで私に興奮を与えた者は存在しなかっただろう。
彼の呪いを目にした時は、喜びに打ち震えたほどだ。ひょっとすると私と対等か、それ以上の者がいるのかもしれないと、恥ずかしながら心が飛び跳ねそうになるのを堪えきれなかった。
しかし、私の幻想は容易く打ち砕かれた。
龍眼で彼を見て、彼が特別な存在ではないことに気が付いてしまったからだ。
ひどく落胆したのを今でも覚えている。覚えているが、それよりも、彼が普通なのに、そんなバカげた呪いを背負い込んでいることに驚きと、それ以上の興味をひかれたのだ。
だから彼を追いかけた。追いかけて追いかけて、時には彼を不幸な目にあわせたりもしたが、しかし、彼はその不幸と真正面から…………ではないが、その不幸を悉く打ち砕いた。
素晴らしいと思ったよ。
こんな人間がいるのかとも思った。
だからこそ、私は彼のことが知りたい、もっとよく彼を研究してみたい。
なぜ普通の人間にこんな生き方ができるのか、それが気になって気になって仕方がない。
どんな男でも、どんな天才でもまるで相手にならなかった私は、不幸だったのだろう。
自分より優れたものを知らないのだから、向上心何かが芽生えようはずもない。
興味のあることは調べ尽し、やってみたいことはやってきた。そしてその全てで過去類を見ない成績を収め、私は再び落胆したんだ。
だけど、そこに見えた唯一の理解できない存在、それが君なんだ。
どれだけ思考しようが、どれだけ研究しようが、私には彼を理解することができなかった。
だから、彼から私の近くに来てくれるように環境を整えようと思った。
見た目を本格的に気にし始めたのも、生徒会長に立候補したのも、あの日、彼のクラスにいたのも、全て君と友人になりたいからなんだ。
君はそれを理解しているのかな?
自分で言うのもおかしな話だが、私はこんなんでも見た目は優れている。
自分より造形の美しい顔を一度しか見たことがないくらいには整った顔だと自負しているし、テレビに出る様な者共でも膝をつくような体をしている自信がある。
さらに言えば私の家は金持ちだ、それはもう呆れるくらいの金持ちで、不動産収入だけでも札束の山で積み木ができるレベルだ。
そんな私が、これほど本気になって近寄ろうとしても、君は全く相手にしてくれない。
欲しいものは実力で勝ち取ってきたはずなのに、それでも君だけが手に入らない。
その事実が余計に私を駆り立てる。
君を手に入れたい、研究し尽くしたい、君の普通の遺伝子が、私の超優秀な遺伝子と融合したら、いったいどんな子が生まれるのか非常に興味がある。
最近は私に余計な羽虫が矢鱈近寄ってくるようになったが、まあそれも彼と友人になるために必要な事であれば我慢できる。
できることなら…………遺伝子だけでも手に入れたいものだ。
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