第6話 昔話に花を咲かせる

 神崎の個性である勇者は、おそらく相当なアタリだ。

 今まで聞いたことがないけど、勇者と入るんならそうなんだろう。

 

 それから神崎に続くように次々とクラスメイト達が泉に入っていき、様々な個性や力を発現させた。

 ちなみにだが、勇者は基本的に勇者の力と世界の寵愛、神の加護を持っている。

 約一名を除いてだがな。


「あれ、大崎はもう入ったのか?」


 お節介なことに、俺にそう話しかけてきた神崎。

 その背後にはいつものメンバーが並んでいて、お前らどこの特撮だよって思っちまった。

 あれ、そうなると俺悪役?


「今行くよ」


 いやいやながら泉に飛び込み、神の前に降り立つ。

 久しぶりの感覚に少し懐かしさを覚えるが、それよりもこれから俺に降りかかるであろう面倒を考えるとそれどころじゃない。


「お久しぶりです大塚様」


「おう、久しぶりだな、いきなり大勢来たから大変だったんじゃないか?」


「ふふ、私にそのようなことを言ってくださるのは大塚様だけですよ」


 嬉しそうに、しかしどこか申し訳なさそうに笑う神に対し、俺は少し聞きたかったことを聞くことにした。


「ところでだ、なんで今回に限ってこんな多くの勇者が召喚されたんだよ、それに魔王は倒されたはずだろ?」


 俺の質問に対し、神は少し目を伏せながら小さな声で説明を始めた。


「魔王は死にました、かつての勇者様が間違いなく倒しましたから……この度の召喚はランバージャック現国王、ウェルシェ・ランバージャックの独断によるものです。かの王は自らの地位を盤石の物とするため、他国に何度も攻め入りましたが、戦が上手いわけではなく、惨敗。それによってランバージャックの国土は大塚様のいらした時の半分以下にまでなっております。そこでランバージャック王は強力な力を有している勇者を戦争に登用するべく、勇者召喚の陣を改変し、多くの勇者をこの世界に呼び寄せたのです」


「あのじじい、また面倒なことしてくれやがったな」


「はい、面倒です、ほんとに何してくれてるんですかね」


「あれ、神、あんたそんな感じだった?もっと神々しいかと思ったんだけど」


「神だって疲れますからね……それに能力の解放もそれなりに面倒なんですよ?あ、ですが大塚様はもう開放済みなので、単純に私の愚痴を聞いてもらうためにお呼びしました」


「おい、あんたも面倒な奴じゃねえか」


「神だって疲れるんですよほんと」


 その後、神の愚痴を聞きながらこの世界で二時間ほど滞在し、俺は元の世界に戻っていった。

 神の野郎はちゃっかりと戦争を止めてくれとか頼んできやがったが、俺にそんな力があると思ってんかよ。

 

「これで全員が能力の解放を終えたわけだな。今日はこれで一旦解散としようではないか。勇者様もお疲れのご様子だ」


 王がそう言い、手を二回たたくと、どこからともなくメイドたちが現れ、1人につきメイド1人が付いて俺達を部屋に案内してくれた。

 昔は凄いことだと思ってたけど、今となってはあまりそう感じないんだよな。

 だってこのメイドたち全員……奴隷だし。


 案内された部屋はそれなりであり、可もなく不可もないといった感じだった。

 王はあれ以降俺達の能力を聞くことはなく、依然ニコニコとした表情で俺達が儀式をしていくのを見ているだけだった。


 だけど、あの神の言っていることが正しかったとすれば、それらは全て俺達を兵器として運用するためのことであり、俺からすればたまったもんじゃない。

 どうにかしてこの城から逃げ出し、できることなら昔使ってた隠れ家の一つにでも行きたいものだ。

 そうすればある程度の装備は整えられる。


「では、何かあればこちらのベルを鳴らしてください」


 俺にあてがわれたメイドが、サイドテーブルの上にあるベルを手で指し、説明してくれる。

 しかし、ここでこのメイドを帰らせるとせっかくの情報源がなくなってしまうことになる。


「あ、俺こっちのこと何も知らないからさ、なんていうんだろ、常識?的なことを教えてくれないか?」


「……かしこまりました」


 俺の言葉にメイドが少し考える様な間を置いてから頷き、その場に腰を下ろした。


「あぁ、それとだ、俺は常識に疎いから“この世界の一般的な奴隷がどうするか知らない”んだわ。だから“普通の人間がするように”してくれて構わないぞ」


 これで俺の意図が伝わってくれればいいんだが、どうだ……?


「かしこまりました」


 表情を変えず、メイドは机にいれられてた椅子を引き、そこに腰かけた。

 リアクションがあまりにもないから解り難いな。


「あんた、名前は?」


「はい、私の名前はマリポーサ・ウォーツカと申します」


「ブフッ!?」


 や、やべえ、こんなことがあんのか?

 いやしかしだ、確かにこいつの紫の髪といい、赤い瞳といい、特徴がかなり合致しやがる。

 3年以上離れてたせいか俺の記憶も少し薄らいできてるみたいだ。


「なるほどな、それで?どうして“あの領地”のやつがこんなところで―――ッ!?」


 振り下ろされるナイフを間一髪で回避し、彼女の背後にある椅子に、彼女の足を糸で固定する。

 そのことに驚いたマリポーサが再び俺に視線を向けてくるけど……おせえ。


「動きは悪くねえけどさ、まともに戦い過ぎなんだよあんた」


 既に俺の糸がこの部屋の中に張り巡らされている。

 この状況で俺に悟らせず逃げられるような怪物を俺は数人しか知らない。


「|機械人(マキナ)の開発した生体魔具でな、肉体の一部に生体魔具を仕込むことでアイテムボックスの中身を離れた場所から取り出せるんだよ」


 まあ、昔死にかけて、助けてもらった際に改造されたんだけど。

 しかも旧式だったから一つしか換装できないのが欠点だ。


「やはりあなたはコチラの情報を……」


「うわー何このめちゃくちゃな術式……こんなんじゃまともに動くこともできねえじゃん」


 何やら悔しそうな声を出してるメイドの服を脱がし、背中に刻まれた奴隷紋を確認するけど、こりゃまた随分と頭のおかし奴が作った術式なんだな。

 あれもこれもって欲張った挙句、奴隷の性能がクソみたいに落ちちまうじゃねえか。


「切り取り、貼り付けっと……これでもうアンタは自由に話せるぜ?」


 俺に服を脱がされた時から、唇を噛み絞め、辱めに耐える様な顔をしていたマリポーサが驚きの表情のまま俺を見た。

 いやいや、いくら俺でもさすがにこんな状況で変なことはしませんよ? 

 ちょーっと横乳拝んだくらいだ。


「糸も解除したし、これで自由だよな、ンじゃあ改めて…………なんで“あの領地”の人間がランバージャックで奴隷になんかされてんだよ」






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