第5話 現代の利器の素晴らしさ
声が聞こえ、もう一度振り返ると、そこには何故か会長が現れており、呆れたような顔を俺に向けてきていやがった。
「おい、なんで隠れたんだよ、あれじゃ俺が変な奴みたいだろ」
「何を言っているんだ、視界に入る度に人の隙を伺ってくるような人間がまともであるはずがないだろう」
ちょっ!?マジかこいつ……俺が会長の隙を探ったりしたことに気が付いてやがったのか!?
あの世界で一体どんな訓練をしたらそうなるんだよ……。
「それにしても君は他の者と違い、だいぶ落ち着いているようだな」
視線を鋭くして俺を睨みつける様に見た会長に、俺も同じ性質の視線を向け、とっさに辞めた。
これはいわゆる挨拶のような物で、冒険者が迷宮やフィールドで出会った時に行う行為だ。
これをすることで相手の力量を探り、そして自分の力量を伝え、無駄な争いが起きないようにするのだ。
まあ、会長がそう言った意味合いで俺を睨んだってわけじゃないだろうけど。
「落ち着いてないです、むしろ早く家に帰ってテレビ見ながら寝たいです」
「ふふっ、今更私に敬語か?なれない事はしなくてもいいから普段通り話をしてくれよ、私もその方が楽でいい」
「んじゃまあお言葉に甘えるけどさ、なんで会長がこっち来てんだよ、ってか会長の方が落ち着いてるように見えるんだが?」
「私はまあ、所用で君のクラスに向かってたんだが、突然教室の中が光り始めてな、急いで飛び込んでみたら……こうなってたわけだ」
「あんたも食えない人だな、俺の質問に答える気がないならそう言えよ」
少しイラつきを込めて会長の顔を睨んでみたが、また笑顔で流されてしまった。
どうやら核心的な部分には触れられたくないんだろう。
「それよりだ、向こうは話しが纏まったようだぞ、私はもう少し身を隠しているつもりだから、君は早く行きなさい」
まるで俺をあしらうように顎で泉に向かい始めたクラスメイトを指し、早く行けとせかしてくる。
会長クラスの化け物がいる訳だし、主人公グループだっている。これだけのメンツが揃ってるなら今回の魔王討伐も俺は何もしなくて済むんじゃないかな。
腕を組み、若干にやける会長を放置して、俺は移動を始めたクラスメイトの後に続いた。
俺が少し遅れて泉の前に到着すると、既に儀式は始まっている様だった。
儀式と言っても泉の中に飛びこんで、そこで神に自分の能力を解き放ってもらうって感じで、俺達が何かをする必要はない。
「俺が行くよ」
神崎がそう言って先陣を切っていく。
こういうところも勇者なんだろうね、ほんと、イケメンは顔だけにしておきなさいよ。じゃないと俺みたいなやつが可哀そうだろ。
神崎がゆっくりと泉の中に歩みを進め、そして腰のあたりまで入ると、一気に泉の中に潜っていた。
あんな事する必要ないんだけどね本当は。
飛び込めば神に会えるし。
体感的には1秒弱、しかし神崎の体感だと10分くらいで泉の中から神崎が飛びだしてきた。
出てくるシーンをなんで女子が歓声上げてるんだよ、意味わかんねえわ。
「凄いっ!今までとは比べ物にならないくらい体が軽い!」
おお、そいつはよかったじゃねえか、俺なんかあれだぞ、肩こりが軽くなったかな?くらいの変化しかなかったからな。
「皆!泉の中に潜ると女神様がいて力を開放してもらえるみたいだ!」
嬉しそうに声を上げる神崎に、王が笑顔のまま歩み寄って肩に手を置いた。
「して、神崎殿はどのような力を?」
おっと、マジか、そう来るの?
「はい、僕は勇者の力の他に、神の加護、世界の寵愛、聖属性の力と、勇者という個性を頂きました」
この世界には色々な力の系譜が存在してて、一つが勇者の力、これは通常では考えられないような成長速度や、身体能力、肉体の超速再生を可能とする人間やめましたの証だ。
勿論俺は持ってない。
次に世界の寵愛ってのは、まあ勇者何かが物語の中だと矢鱈しぶとい、俗に言う主人公補正みたいなものが得られるらしい。
勿論俺は持ってない。
神の加護ってのは俗に言うご都合主義ってのが起こりやすくなったり、運が良くなったりするが、大凡のところは世界の寵愛と類似している部分も多いが、目に見えないバリア的な物が体の表面を覆ってたり、心のダメージを軽減してくれたりなんかもする。
勿論俺は持ってない。
次に属性だが、これにもいくつかの小さな括りがある。一つが、自身の力だけで魔法を発現するやり方、これは自身の体内で魔力を多く生成、保持できる人間にしかできない。次に精霊に力を借りて現象を起こすやり方だが、これは精霊に気に入られないとできないし、精霊はなかなか存在していないので結構珍しい。そして、陣や文字を用いて、自然界の力で現象を起こすやり方、これは基本的に誰でもできる。
ちなみに、俺は最後の以外できない。
そしてこの世界でめちゃくちゃ大事なのが、個性だ。
個性は同じものもあれば、その個人だけの物も存在し、未だによくわかっていない部分が多いものだ。
しかし、その個性を保持している人間は総じて強い。
それ以外にも異能や、魔眼、特異体質なんかの様々な力が存在する。
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